第15話 初めての学生食堂
学生食堂にやって来たのはいいけれど、座る場所がなかった。たまたま二人分の席が空いている場所を見つけたので、私はそこに座っていた人に声をかける。
「すみませーん。ここ、座っても大丈夫ですか?」
「うん? ……げっ」
振り向いたその姿を見て、私はびっくりだった。
「わぁ、鴨太くんだ。奇遇だね」
「な、なんでお前がいるんだよ」
そう、私の想い人である鴨太くんがいた。
えへへ、嬉しいなぁ。
「あれっ、輪熊さん、彼とは知り合いなの?」
「うん、浅葱鴨太くんだよ」
「俺は知らないぞ。君が一方的に知っているだけだ」
八高さんが聞いてくるので、私は笑顔で答えている。
鴨太くんはこういって、私のことを知らんぷりする。むぅ、付き合って下さいって言ったのに、なんでそういうことを言うのかな。
でも、よく思えば、親からはぐれた私と会ったのは、熊の姿の時だったもんね。分かんなくて当然かぁ。
「……座るなら座れよ。他のやつが座っちまうし、さっさと食わないと、昼休みが終わる」
「あっ、そうだね。八高さん、座ろう」
「そ、そうね」
ぼそぼそと鴨太くんが座るように言ってくるので、私は八高さんに声をかけて、鴨太くんの隣に座る。私たちの様子を見て、八高さんはなんだか困ったような顔をしている。なんでだろう。
とりあえず、これでお昼が食べられる。学生食堂で注文したものと、持ってきたお弁当を広げて、私はたくさん食べられるとご満悦だ。
「輪熊さん、多そうだけど大丈夫?」
「へーきへーき。私はこのくらいならペロッといけるから」
八高さんに心配されるけれど私はにこやかに答えている。
なんといっても私は育ちざかり。その気になればいくらでも食べられる。
「いただきます」
私は両手を合わせて、食事の挨拶をしてからお弁当と学生食堂の定食を食べ始める。うん、おいしい。
そんな私の姿を見ながら、鴨太くんと八高さんも食べ始めている。
「そうだ。鴨太くんはなんで学生食堂に?」
ぱくっとおかずを口に入れて、もごもごとしながら鴨太くんに聞いてみる。
確か、お弁当を持ってきていたはずだったから、何か気になっちゃったな。
だけど、鴨太くんは答えない。聞こえないふりをして黙々と食事を取っている。うーん、どうしたんだろう。
「ごちそうさま。それじゃ、俺は教室に帰るから」
さっさと食べ終わってしまった鴨太くんは、立ち上がってさっさと食器を返しに行ってしまった。ありゃ、どうしたんだろう。
急なことだったので、私は何度も目をぱちぱちとしながら鴨太くんの姿を見送っていた。
「なんか、やな感じがする態度ね。輪熊さん、あんな男のどこがいいの?」
「鴨太くんは、優しい人だよ。でも、今の態度はなんだか気になっちゃうかな……」
私は口に箸をくわえたまま、八高さんの問い掛けに答えている。
うーん、私がケガをした時に会った感じとは、ずいぶんと違うなぁ。どうしちゃったんだろ。
「気になるけど、今はとにかく食べなくっちゃ。よーし、もりもり食うぞーっ」
鴨太くんの態度が気になるものの、私のお腹が大きな音を立てそうになったので、とにかく食事に集中することにする。
午後の授業もあるから、ゆっくり食べていられないのよね。人間って、忙しいな。
持ってきたお弁当と学生食堂の定食を勢いよく食べる姿を見て、私の隣では八高さんが驚いた顔をしていた。
「ごちそうさま!」
私は両手をパンと合わせて、食べ終わりの挨拶をする。
神様が作ってくれる食事もいいけれど、この定食っていうのもなかなかおいしいな。鴨太くんがこのまま学生食堂を使うのなら、私も時々やって来て食べよう。
でも、ちょっと人が多いから、それだけは勘弁かな。まだちょっと、人間のことは怖いから。
人間として生活する以上は、人間にどんどん慣れていかないとね。
八高さんっていう友だちもできたことだし、ちょっとずつだけど慣れていこう、うん。
二食分の量を食べた午後の私は、元気いっぱい。
春先の暖かさにちょっと眠くなりそうだけど、今の私はそれを補って余りある元気に満ちあふれている。
それにしても、神様がお金というものを持たせてくれた理由がよく分かったわ。八高さんがお弁当を忘れてくることを予測していたのね。さすが神様。
もしかして、鴨太くんと出くわすことも、神様の計算の内だったのかな。
そんなこんなと思いながらも、私はちょっとだけでも鴨太くんと話ができたことに、うきうきした気持ちで午後の授業をしっかりと乗り切っていた。
人間の生活を始めて三週目に突入した私は、とにかく毎日が充実している。
そうやってなじんでいくことによって、私は自分が元々野生のツキノワグマであったことを忘れそうになってくる。
ところが、そんな私に戒めを与えるかのように、私の野生のパワーが炸裂することになるとは思ってもみなかった。
そう、週明けの授業が終わって、翌日の火曜日のことだった。
体育の時間を迎えた私は、気が緩んでとんでもないことをしでかしてしまうことになるのだ。




