第14話 ハプニングからのハプニング
自転車に乗れるようになって、私の登下校の時間は劇的に変わった。
「うわーっ、速ーいっ!」
「ちょっと、輪熊さん。そんなに飛ばすと危ないわよ。あと、ちゃんと前を見て!」
仲良くなった八高さんとは、下校の時に途中まで一緒に自転車に乗って帰っている。
ただ、私は自転車に乗れることを楽しんでしまうあまり、八高さんにかなり心配をかけてしまっているみたい。うーん、控えめにした方がよさげだなぁ。
そんなこんなで、私はいろいろと楽しみながらも、少しずつ人間社会になじんでいこうと頑張っている。
週が明けて、月曜日の朝のことだった。
私はいつものようにお弁当を持たされたのだけど、それと同時に神様に声をかけられてしまう。
「月乃、ちょっと手を出してごらん」
「なに、神様」
私は疑問に感じながらも、言われた通りに素直に手を出している。
持たされたのは、なんか数字の書かれた変な紙切れだった。
「神様、これは?」
「お金だよ。今日はそれ持っていきなさい。ちなみにそれは1000円というものだ。具体的な価値といわれると困るけれど、月乃の履いているその靴下なら一足買えて少し余るといったところかな」
「……よく分かんない」
神様が説明してくれるけれど、いまいちイメージができない。もうちょっとわかりやすい例えはないのかなぁ。
「ああ、この間に買った箱に入ったお菓子、あれを四個買える金額だよ」
「あっ、それなら分かる」
服のことはよく分からないけれど、食べ物のことならよく分かる。だって、私は熊だもん。食い意地だけなら負けないんだからね。
そんなわけで、理由がまったく分からないけれど、財布というものに入れられた状態で1000円を受け取って私は学校へと向かっていく。
すっかり乗りこなせるようになった自転車のおかげで、ものすごく快適に学校に迎える。
でも、この自転車で走るより、全力で走った方が速いと思うのは内緒だよ?
自転車に乗れるようになったおかげで、私が家を出てから学校に着くまでの時間が、半分以下になった。すごく速い。
ただ、思わず力が入ってしまうと、自転車を壊しかねないので、とにかく慎重に乗っている。なにせ、初めて自転車に乗った時に、最初にカギ、次にペダル、果てはハンドルと、散々壊しまくってしまったもの。いや、熊の力って本当に強いのよ。
学校まで近くなると、八高さんと合流する。申し合わせたわけじゃないけれど、今日は見事に学校の近くで鉢合わせてしまったみたい。
そんなわけで、教室に移動するまでの間、二人でいろいろと話をしながら歩いて行った。
そして、お昼になる。
私は八高さんと一緒にご飯を食べようと思ったのだけど、八高さんの様子がおかしい。一体どうしたんだろ。
「あっちゃぁ……。どうやら、お弁当忘れてきちゃったみたいだわ。ああ、学食かぁ、お金ないんだけど」
どうやら、八高さんはお弁当を忘れてしまったらしい。
ああ、これはすっごく大変だわ。ご飯を抜くとひもじい時間が続いてしまう。ここはどうにかしないと。八高さんの困った様子に、私はあたふたしてしまう。
そんな時、私は神様に持たされた財布のことを思い出した。
「そうだ。今こそこれの出番!」
「わ、輪熊さん?」
八高さんの驚く声を聞きながら、私はカバンに入っている財布を引っ張り出す。飾り気のない真新しい財布だ。
「わっ、それって財布? 輪熊さんの財布って結構シンプルなのね」
「この際、財布のこととかどうでもいいじゃないの。このお金で、その学食とかいう場所に行こう」
「えっ、ええ……」
私が強く提案すると、八高さんは驚いた表情をしていた。
そんなわけで、私は八高さんの背中を押しながら、教室を出ていく。もちろん、私はちゃんとお弁当を持ってね。
だけど、私はかなり軽く考えていた。
その浅はかな考えを、学食に着いたところで思い知らされることになる。
「うわぁ……、めちゃくちゃ混んでる……」
そう、学食と呼ばれる場所の中には、ものすごい人たちが集まっていた。もしかして、ここにいるのって、全員がこの学校にいる生徒たちなのかな。
見たことのない人間の群れに、私は驚かされる。
だけど、私は以前に神様といったスーパーマーケットと呼ばれる場所で、近しい状態にはなっていたらしい。全然覚えてないなぁ。
とりあえず、私は八高さんと一緒に食べるものを選ぶことにする。私はお弁当もあるけれど、実はそれだけじゃ足りないのよね。うん、何を食べようかな。
悩んだ結果、八高さんと同じものを選ぶことにした。ここでは食券というものを買って、それで注文を出して受け取るんだって。またなんかよく分からない仕組みだなぁ。
分からないから、八高さんに説明をしてもらいながら、私は同じようにしていく。
「おおっ、これが学食の食事。なんかおいしそう」
受け取った私は、トレイを持ちながら、ついよだれが出てきてしまう。
「と、とりあえず座る場所を探しましょう」
「うん」
なんか八高さんが変な感じだなぁ。何かおかしかったかな。
気にはなるけれど、やはり食べるにはきちんと座らないといけない。これは私だってよく分かる。
トレイを持ったまま空いている席を探す。そしたら、いいところに空いている席を見つけた。
「すみませーん。ここ、座っても大丈夫ですか?」
私が声をかけた瞬間だった。振り返ってきた人物を見て、私は顔を明るくしてしまった。
なんと、そこにいたのは鴨太くんだった。
やったね。まさか鴨太くんの隣に座れるなんて。
私はあまりの偶然にものすごく喜んでしまっていた。




