糸がいる
夜は、長かった。
外で骨の音がしなくなってからも、創磨はすぐには眠れなかった。家の中には、たいまつの火がある。床下の扉もある。盾もある。柵もある。最初の夜、土の穴の中でただ息をひそめていた時とは違う。
それでも、怖いものは怖かった。
目を閉じると、矢の音が戻ってくる。
ひゅっ。
そのあとに、かん、と盾が鳴る。腕に衝撃が来る。頬のすぐ横を、冷たいものが通る。柵に刺さった時の、ざく、という音まで思い出す。
あれが、もし望来に当たっていたら。
もし芽依に当たっていたら。
もし、赤ちゃん村人に当たっていたら。
創磨は布の中で、左手をそっと握った。力が入りにくい。指を曲げると、肘の奥がじんとした。
盾を持ったのは、そんなに長い時間ではなかった。けれど、体はちゃんと覚えている。あれを何度も続けるのは無理だ。一回、二回なら止められるかもしれない。でも、ずっとは無理。
そのことが、創磨には一番怖かった。
望来は真ん中のベッドで眠っている。芽依はその横で、望来に背中をくっつけるようにして丸まっていた。赤ちゃん村人は床下ではなく、部屋の隅に座ったまま眠っている。望来が「ここ」と言って、どうしてもそばに置きたがったからだった。
本当は、床下の方が安全かもしれない。けれど、望来が手を伸ばせる場所に赤ちゃん村人がいることで、望来は安心して眠れた。
今夜だけは、それでよかった。
創磨は天井を見上げた。
遠くから守る方法。
弓。
弓がいる。
スケルトンみたいに撃ちたいわけではない。倒したいわけでもない。でも、近づかれる前に止められるものがいる。近づかなくても、向こうに「来るな」と言えるものがいる。
弓を作るには、棒と糸。
棒は作れる。木はある。
問題は、糸だった。
糸。
たぶん、クモ。
創磨はそこまで考えて、布の中で顔をしかめた。
クモは嫌いだ。小さいやつでも嫌いなのに、この世界のクモは、きっと小さくない。ゲームの中のクモは、夜に足音を立てて近づいてくる。壁も登る。赤い目で、こっちを見る。
創磨は思わず、家の壁を見た。
ここに、あれが張りついたら。
窓の外から、赤い目がのぞいたら。
ぞわっとして、創磨はすぐに考えるのをやめた。
でも、やめても必要なものは変わらない。
糸がいる。
*
朝になった。
窓の外が白っぽくなり、村の屋根に光が当たる。それだけで、家の中の空気が少し軽くなった。
けれど、創磨の左腕は重いままだった。
「そうま」
芽依が先に起きて、創磨の腕を見た。
「まだ痛かと?」
「ちょっと」
「ちょっとじゃなか顔しとる」
「昨日よりはまし」
「ほんとに?」
「ほんと」
芽依は信じきっていない顔だった。それでも、今日は無理に言い返さなかった。
望来が布の中でもぞもぞ動いた。
「みく、あさ?」
「朝」
芽依が答える。
「おくすり?」
望来は目を半分しか開けないまま、いつものように言った。
創磨は薬袋を手に取った。昨日より、また軽い。
中身を出す。一つ。今朝の分。
それを見た瞬間、昨日の夜の数字が頭に戻った。
残り三十八回。十九日分。
今から一つ飲ませる。
そうしたら、残り三十七回。
十八日と半分。
創磨は少しだけ息を止めた。
「そうま?」
芽依が見ている。
「大丈夫」
創磨はそう言って、薬を望来の口元へ持っていった。
「みく、口」
「にがい」
「水あるけん」
芽依がバケツを引き寄せる。望来は口を開けた。
薬を入れる。水を飲ませる。
こくん。
小さな喉が動いた。
創磨はその動きを、最後まで見た。
「飲めた」
「飲めた」
芽依も横で言った。
飲めた。
それだけで、胸の奥が少しだけゆるむ。
でも、薬袋はまた軽くなる。
残り三十七回。
十八日と半分。
創磨はその数字を、声には出さずに胸の中だけで数えた。
望来は少し顔をしかめてから、いつものように言う。
「あと、パン」
「薬のあとすぐパンて」
芽依があきれた声を出した。
「みく、パンがよか」
「焼きじゃがいももあるやろ」
「パン」
「またパン」
少しだけ、いつもの朝みたいな声だった。それがありがたくて、創磨は何も言わずに小さなパンを分けた。
望来に一つ。芽依に一つ。自分にも一つ。
望来はすぐに自分の分を食べて、創磨の手元を見た。
「そうまの、ちょっと」
創磨は一瞬、パンを見た。いつもなら、少しだけ割っていたかもしれない。
でも、左腕の重さが先に来た。昨日、自分が倒れそうになったことを体が覚えている。盾を持つにも、走るにも、妹たちを床下へ入れるにも、腹が減っていたら動けない。
「今日は、だめ」
創磨が言うと、望来は口を曲げた。
「また?」
「また」
「そうま、けち」
「けちでよか」
芽依が少し笑った。
「そうま、ちゃんと食べるようになったやん」
「食べんと動けんけん」
「うん。それでよか」
芽依の言い方は、少しだけ母に似ていた。
創磨は返事をせず、自分のパンをちゃんと食べた。腹に入る。それだけで、体の奥に少しだけ力が戻る。
食べ物は、武器と同じくらい大事だった。
いや、たぶん、武器より先だった。
動けなければ、守れない。
*
朝食のあと、創磨は扉の前に立った。
外に出る前に、窓から村の入口を見る。昨日立て直したたいまつは、まだ立っていた。芽依のポケットから出てきた小さな木片が、根元に挟まったままになっている。
火は消えていない。
その少し奥の柵には、矢が何本か刺さっていた。
森の影は、朝の光を受けても暗い。スケルトンの姿は見えない。でも、いないとは言い切れない。
「外、行くと?」
芽依が聞いた。
「入口だけ見る」
「めいも行く」
「みくは」
「みくも」
望来がすぐに言う。
「だめ」
「なんで」
「昨日、矢来たけん」
「こーんってする?」
「今日は、こーんってせんようにする」
望来はよくわからない顔をした。赤ちゃん村人は望来の足元に立っている。望来はその小さな手を取ろうとして、うまく取れず、服の端をつまんだ。
「あの子もいく」
「だめ」
創磨と芽依が同時に言った。
望来はむっとした。
「ともだちやもん」
「だから、家」
芽依が少し強い声で言った。
「あの子も、みくも、ここ。そうまとめいが見てくる」
「みく、見る」
「窓から見る」
「いや」
「いやでも」
芽依は望来の前にしゃがんだ。
「昨日、あの子も矢に当たるかもしれんかったとよ」
望来の顔が少し変わった。
「あの子、いたい?」
「当たったら痛い」
「いや」
「やけん、家」
望来は赤ちゃん村人を見た。それから、少しだけ不満そうにしながらも、うなずいた。
「みく、まつ」
「うん。えらい」
「あとで、パン」
「それは別」
芽依がすぐに言う。望来は口をとがらせた。
創磨は少しだけ笑いそうになったが、すぐに顔を引き締めた。
盾を持つ。
左腕に重さが戻る。昨日ほどではない。でも、やっぱり重い。
扉を少しだけ開ける。朝の空気が入ってきた。冷たい。けれど、昨日の矢の音はない。
「行くよ」
「うん」
創磨が先に出て、芽依がすぐ後ろにつく。
家の前。柵。門。たいまつ。昨日走って戻った道を、今度はゆっくり歩く。
地面には、矢が一本落ちていた。
創磨はしゃがもうとして、左腕が少し痛んだ。
「めい、拾って」
「うん」
芽依が矢を拾う。
細い。まっすぐ。先が冷たい。
昨日、盾に刺さっていたものと同じだった。
「これ、ほんとに当たったら危なかね」
「うん」
「怖」
「うん」
創磨は柵を見る。
矢は、柵の上の方に刺さっていた。
柵は敵の足を止める。でも、矢は止められない。門も同じだ。ゾンビやピリジャーなら、道をふさいだり、ボートで止めたり、鉄ゴーレムに近づけたりできる。でも、スケルトンは違う。
見えたら撃ってくる。
距離があっても撃ってくる。
こっちが小さい子どもでも、関係なく撃ってくる。
「線やね」
創磨は小さく言った。
「なにが?」
「矢。まっすぐ来る」
「そらそうやろ」
「だから、まっすぐ見えんようにしたら、ちょっと違うかもしれん」
芽依は柵と家を交互に見た。
「壁?」
「うん。高いやつ。あと、曲がる道」
「曲がる道?」
「入口から家まで、まっすぐ見えんようにする」
創磨は昨日のことを思い出した。
望来を家へ。
赤ちゃん村人を家へ。
床下へ。
そのあいだ、村の入口から家までが見えていた。だから、矢が飛んできた。
もし途中に壁があれば。
もし、走る道がまっすぐではなく、何度か曲がれば。
矢は通りにくくなるかもしれない。
弓を作る前に、できることがある。
「遠くから守るのもいるけど、その前に、見えんようにする」
創磨が言うと、芽依は少しだけ考えたあとでうなずいた。
「隠れる道やね」
「うん」
「床下だけじゃなくて、家までの道も隠すと」
「そう」
芽依は矢を手に持ったまま、村の入口から家までを見た。
「じゃあ、ここに土置く?」
「うん。あと木も。窓みたいにすき間は作らん。見えたら撃たれるけん」
「でも見えんかったら、こっちも見えんやん」
「芽依が横から見る」
「まためい?」
「うん」
「まあ、見るのはできるけど」
芽依は少し得意そうに言った。
その声を聞いて、創磨は少しだけ安心した。自分一人では、全部見えない。盾を持てば前が見えない。壁を作れば向こうが見えない。けれど、芽依が横を見るなら、少しは違う。
役割がある。
それだけで、怖さの形が少し変わる。
*
二人は家に戻って、望来と赤ちゃん村人に「外に出ない」ともう一度言い聞かせた。
「みく、つよし号におる」
望来は不満そうに言いながらも、つよし号の中へ入った。赤ちゃん村人もその横に座る。二人が並ぶと、つよし号は少し狭そうだった。
「けんかせんでよ」
芽依が言う。
「せん」
「パン勝手に食べんでよ」
「たべん」
「ほんとに?」
「ほんと」
返事はいい。
けれど、望来の目はすでにチェストの方を見ていた。
芽依がすぐに気づく。
「今、パン見たやろ」
「見とらん」
「見た」
「見ただけ」
「やっぱ見たやん」
創磨は二人のやり取りを聞きながら、土と木材を取り出した。
土はある。最初の穴を掘った時のように、崩して積めばいい。木材もある。完全な壁には足りないかもしれないが、少しだけ線を切るくらいならできる。
でも、創磨はすぐには外へ出なかった。
作業台の前に座り、まず木材を置いた。
「なに作ると?」
芽依が聞く。
「ブロックだけじゃ、積むの大変やけん。板とか、フェンスとか、使えるかもしれん」
「フェンス、昨日のやつ?」
「うん。でもフェンスは矢、通るかもしれん」
「じゃあだめやん」
「敵の足止めにはなる。でも、矢よけにはならん」
創磨は木材を手にしたまま考えた。
昨日までは、敵が来ないようにすることだけを考えていた。
でも、矢は違う。
来なくても届く。
近づかなくても当たる。
だから、道をふさぐだけでは足りない。
見えなくする。
そのためには、すき間のない壁がいる。
「土がいいかもしれん」
「木じゃなくて?」
「木は燃えるかもしれん。土なら、たぶん燃えん」
「火、つけられると?」
「わからん。でも、燃えん方がよか」
芽依は少し真面目な顔でうなずいた。
「じゃあ土」
「でも、全部土だと暗くなる」
「暗いのもいや」
「うん。だから、曲がるところだけ高くする」
「めんどくさ」
「めんどくさくせんと、矢が来る」
創磨が言うと、芽依は黙った。
矢。
その一言だけで、昨日の音が戻ってくる。
ひゅっ。
かん。
ざく。
芽依も覚えているのだと思う。口をとがらせたまま、それ以上は文句を言わなかった。
「めい、見る係する」
「うん」
「でも、そうまも前に出すぎんでよ」
「わかっとる」
「ほんとに?」
「ほんと」
「昨日、たいまつ直しに行ったやん」
創磨は少し言葉に詰まった。
「あれは……」
「行ったやん」
「行った」
「今日も、行きすぎんでよ」
芽依の声は、少し怒っていた。
でも、ただ怒っているだけではない。
心配している声だった。
創磨は手の中の木材を見た。
「うん。行きすぎん」
「約束」
「約束」
芽依はそれでようやく少しだけうなずいた。
創磨は土ブロックを持ち上げた。
重い。
ゲームなら一マス、二マスと簡単に置けるものでも、ここでは両手で抱えなければならない。何度も運べば、腹も減る。腕も痛くなる。
昨日の盾で左腕はまだ重い。
それでも、やらなければならなかった。
望来がつよし号の中から、二人を見ている。
「そうま、また外?」
「うん。でも近く」
「みくは?」
「つよし号」
「また?」
「また」
望来は不満そうに赤ちゃん村人の袖をつまんだ。
「あの子も、また?」
「うん。赤ちゃんも、つよし号」
望来は赤ちゃん村人に向かって、少し得意そうに言った。
「みくたち、つよし号係」
赤ちゃん村人は何も答えない。
でも、望来の隣でちゃんと座っていた。
創磨はその姿を見て、胸の奥で小さく息を吐いた。
守るものが増えた。
でも、昨日よりは少しだけ、守る形も増えた。
盾。
床下。
柵。
たいまつ。
つよし号。
そして、これから作る見えない道。
どれも完全ではない。
でも、何もないよりはいい。
「行く」
創磨は土を抱えた。
「めい、右見て」
「うん」
「森の方、音したらすぐ言って」
「わかっとる」
芽依は矢を一本、手に持ったまま立った。
「それ、持ってくと?」
「持っとく」
「危なかよ」
「投げん。見るだけ」
「ほんとに?」
「ほんと」
返事はいい。
けれど、創磨は芽依の「ほんと」も、望来の「ほんと」と同じくらいには信用しすぎないようにした。
外へ出る。
朝の光はまだ明るい。
けれど、森の影はやっぱり暗い。
昨日のスケルトンはいない。
それでも、いないと決まったわけではない。
創磨は土ブロックを家の前の道に置いた。
どすん、と鈍い音がした。
一つ置いただけでは、何も変わらないように見える。
けれど、村の入口側から見ると、その土が家の扉の一部を隠した。
「ちょっと見えん」
芽依が入口の方へ少し回って言った。
「家、全部は見えん」
「うん」
創磨は息を吐いた。
たった一つでも、意味はある。
それなら、増やせばもっと意味がある。
「次、ここ」
創磨は二つ目の土を抱えた。
腕が重い。
腹も少し空いてきた。
でも、今は少しだけ動ける。
朝ごはんを食べたから。
望来に分けなかったから。
そう思うと、胸の奥が少し痛んだ。
でも、これでいい。
守るために、自分も食べる。
守るために、自分も動く。
創磨は二つ目の土を置いた。
道が、少しだけ曲がった。
まっすぐではなくなった。
芽依が家の方へ戻ってきて、土の位置を見た。
「ここ、つよし号通れる?」
創磨ははっとした。
道を隠すことばかり考えていた。
でも、つよし号が通れなければ意味がない。
望来を乗せて逃げる道がふさがったら、ただの邪魔な壁になる。
「……通してみる」
「今?」
「今、試さんと夜に困る」
創磨はつよし号を少しだけ動かした。
望来と赤ちゃん村人を乗せたまま、家の入口から土の間を通す。
ぎりぎりだった。
角で引っかかる。
「そうま、ぶつかる」
「わかっとる」
「こっち押す?」
「ちょっとだけ」
芽依が後ろからつよし号を押す。
創磨は前から引く。
望来は中で少し揺れて、赤ちゃん村人の服をつかんだ。
「つよし号、せまい」
「今、試しよる」
「みく、こわくなか」
「動かんでよ」
「動いとらん」
望来はそう言いながら、少し身を乗り出した。
「みく」
芽依がすぐに言う。
「乗り出さん」
「見よるだけ」
「見るだけも、出すぎ」
望来は少しだけ口をとがらせた。
それでも、つよし号はどうにか土の間を通れた。
曲がれる。
でも、もう少し広くした方がいい。
「ここ、広げる」
創磨が言うと、芽依はすぐに地面を見た。
「じゃあ、この土はちょっと右?」
「うん」
「こっちに石置いたら、曲がる場所わかるかも」
「石?」
「めい、持っとる」
芽依はポケットに手を入れ、小さな白っぽい石を出した。
「また拾っとったと?」
「なんかいるかと思ったもん」
いつもの言い方だった。
家なら、洗濯の前に怒られるやつ。
でも、今は違う。
その白い石を置けば、曲がる場所の目印になる。
夜でも、たいまつの近くなら見えるかもしれない。
「それ、いい」
創磨が言うと、芽依は少し得意そうにした。
「やろ」
「ここ、置いて」
「うん」
芽依は白い石を、土の壁の角に置いた。
「ここ、曲がる」
「うん。つよし号の道」
「みくの道?」
望来がすぐに聞いた。
「みくの道」
芽依が答える。
「つよし号の道」
「つよし号の道」
望来は嬉しそうに赤ちゃん村人へ言った。
「あの子も、ここ」
赤ちゃん村人はわからない顔をしていた。
けれど、望来が満足しているからか、そのままつよし号の中に座っていた。
創磨は白い石を見た。
土の壁。
曲がる道。
つよし号。
白い目印。
全部、小さい。
全部、頼りない。
でも、昨日の自分たちにはなかったものだった。
「今日は、ここまで形を決める」
創磨は言った。
「夜までに全部できる?」
芽依が聞く。
「全部は無理」
「じゃあ?」
「入口から家がまっすぐ見えんくらいまで」
「ちょっとでも?」
「うん。ちょっとでも」
芽依は少しだけうなずいた。
「ちょっとでも、ないよりよか」
「うん」
創磨も同じようにうなずいた。
弓はまだ作れない。
糸もない。
クモは怖い。
でも、今できることはある。
矢が通る線を切る。
つよし号が通れる道を作る。
望来と赤ちゃん村人が家へ戻れる時間を作る。
勝つためではない。
逃げるため。
守るため。
夜を越えるため。
創磨は森の方を見た。
朝なのに、木の下だけは暗い。
あの奥に、昨日のスケルトンがまだいるかもしれない。
そして、別の夜には、クモが来るかもしれない。
弓がいる。
糸がいる。
でもその前に、今日やることがある。
創磨は土をもう一つ持ち上げた。
腕が重い。
左腕はまだ痛い。
でも、昨日の盾よりはましだった。
「めい」
「なに」
「森、見とって」
「見とる」
「みく」
「なに」
「つよし号から降りんで」
「降りん」
「赤ちゃんも」
「赤ちゃんも降りん」
望来は赤ちゃん村人の袖をぎゅっとつかんだ。
創磨は土を抱えて、家と村の入口のあいだへ向かった。
まっすぐ見える道を、少しずつ曲げる。
矢が通る線を、少しずつ消す。
遠くから守る方法は、まだない。
でも、遠くから狙われにくくする方法なら、今から作れる。
創磨は土を置いた。
どすん。
その音は小さかった。
けれど、創磨には、昨日の矢の音より少しだけ強く聞こえた。
次は、見えない道を作る。




