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妹の薬が尽きる前に  作者: MONEMOLT


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とびら

 第十三話「とびら」


 朝の光が、床の木目をまっすぐに照らしていた。


 創磨は、その床をじっと見ていた。


 その下に、あの空間がある。


 水と、食べ物と、たいまつと、薬。

 望来と、あの子が座れる場所。


 昨日、自分たちで作った“隠れる場所”。


 けれど——


 創磨は、なんとなく落ち着かなかった。


 ちゃんと作ったはずなのに。

 考えて作ったはずなのに。


 まだ、どこかが足りない気がする。


「そうま、また見よる」


 芽依がベッドの上から言った。


 焼きじゃがいもをかじりながら、じっとこっちを見ている。


「なにを」


「床」


 そのままの言い方だった。


 創磨は返事をしなかった。


 望来は、つよし号の中で足をぶらぶらさせながら、昨日拾った花をいじっている。


「みく、きょうも、あの子んとこ行く」


「食べてから」


「もう食べた」


「半分しか食べとらんやろ」


 望来はちょっとだけむくれたが、それでも言い返さず、残りをちびちび食べる。


 その様子を見ながら、創磨は床から目を離さなかった。


 ——もし、来たら。


 昨日みたいなのが、また来たら。


 村の中まで入ってきたら。


 望来と、あの赤ちゃん村人は——


 創磨の中で、ひとつの想像が浮かぶ。


 急いでベッドをどける。

 床を開ける。

 望来を押し込む。


 そのあと——


 ……閉める。


 そのまま。


 そのまま、上から。


 そのあと。


 ——出られると?


 手が、止まった。


「芽依」


「なに」


「……これ」


 創磨は床を指さした。


「これ、閉めたあと、どうなると思う」


 芽依が少しだけ顔をしかめた。


「どうなるって……隠れるとやろ」


「うん」


「そしたら、待つ」


「……うん」


「それだけやん」


 そこまで言って、芽依も気づいた。


 少しだけ間があく。


「……出るときは?」


 創磨は何も言わなかった。


 芽依の眉が寄る。


「……開けられると?」


「わからん」


「は?」


「上から閉めたら」


 創磨はゆっくり言う。


「中から、どうやって開けると」


 芽依の顔が、変わった。


「……やだ」


 すぐに出た言葉だった。


「それ、やだ」


「うん」


「閉じ込められるの、やだ」


 その言い方は、いつもの強気じゃなかった。


 少しだけ、小さい声。


 創磨はそれを聞いて、胸の奥が少し重くなった。


 守ることばかり考えていた。


 隠すこと。

 見つからないこと。


 でも——


 中に入ったあと、どうなるか。


 そこまで、ちゃんと考えていなかった。


「……中から開ける」


 創磨が言う。


「絶対ね」


 芽依がすぐに返す。


「うん」


 望来は会話の意味はわかっていない顔で、それでも「ひみつきち」と小さくつぶやいている。


 創磨は作業台の前に座った。


 頭の中で、見たことのある形を思い出す。


 床に、つける扉。


 上に開くやつ。


 ぱたんと閉じるやつ。


 木材を並べる。


 違う。


 もう一回。


 配置を変える。


 違う。


 芽依が後ろからのぞく。


「できんと?」


「待って」


 もう一度、木材を置く。


 横に広げる。


 薄く。


 その瞬間——


 ぽん、と形が決まった。


「……あ」


 手の中に現れたのは、平たい木の板。


 端に小さな取っ手みたいなのがついている。


「なにそれ」


「……これや」


 創磨は立ち上がった。


 ベッドをずらす。

 床を開ける。


 穴の縁に、その板を置いた。


 かち。


 ぴったりはまる。


 上に引くと——開く。


 手を離すと——閉じる。


「……おお」


 芽依が声を漏らした。


「ちゃんと扉やん」


 創磨は何も言わず、もう一度開けて、閉めてを繰り返した。


 違和感がない。


 木の床と同じ色。


 知らなければ気づかない。


「中から」


 創磨が言う。


「試す」


 芽依が先に降りた。


 望来も続く。


「みく、ひみつ」


「しーっ」


 芽依が口に指を当てる。


 創磨も下へ降りて、上から扉を閉めた。


 暗くなる。


 たいまつの光だけが、ゆらゆらと揺れる。


「……開けてみて」


 創磨が言う。


 芽依が手を伸ばす。


 少し探って——


 かち。


 扉が開いた。


 上から光が差し込む。


「開く!」


 その声は、さっきより少しだけ明るかった。


 創磨は、その音を聞いて、ようやく息を吐いた。


 閉じ込められない。


 それだけで、全然違う。


「これならよか」


 芽依が言う。


「みくも出れる」


「うん」


 望来はすでに壁をぺたぺた触っていた。


「ここ、みくんち」


「みんなのやろ」


「みんなの、みくんち」


「どっちやねん」


 少しだけ笑いがこぼれる。


 その空気を感じながら、創磨は上へ戻った。


 床を閉める。


 ぱたん。


 ほとんどわからない。


 その上に、ベッドを戻す。


 完全に隠れる。


 創磨は少し離れて、家の中を見た。


 普通の家。


 でも、その下にある。


 それだけで、少しだけ安心した。


 ——でも。


「……これだけじゃ足りん」


「なにが」


 芽依が聞く。


 創磨は扉を見る。


 家の入口。


「ここ」


「扉?」


「うん」


 今のままでも閉まる。


 でも、それだけだ。


 もし壊されたら。


 もし開けられたら。


 そのまま終わる。


 創磨は外へ出た。


 木材を持って、家の前に立つ。


 どうする。


 どうやって守る。


 考えながら、手を動かす。


 扉の前に、柵を置く。


 横にも置く。


 少し遠回りしないと入れない形にする。


「これで、ちょっとは時間かかる」


「でも、来たら壊すやろ」


「うん」


「じゃあ意味ないやん」


「意味ある」


 創磨は言い切った。


「時間があれば、逃げられる」


 芽依は少しだけ黙って、それからうなずいた。


「……そっか」


 その日の昼は、ずっとその調整だった。


 柵の位置を変える。

 扉の開き方を試す。

 外からどう見えるかを確認する。


 何回もやり直す。


 望来は最初は見ていたが、途中から赤ちゃん村人と一緒に遊び始めていた。


 その様子を横目に見ながら、創磨は最後の確認をする。


「……やるよ」


「うん」


 創磨は家の前の鐘を、軽く叩いた。


 カーン……


 音が広がる。


 村人たちが動く。


 家へ走る。


 その中に、あの子もいる。


「みく!」


 望来が呼ぶ。


「こっち!」


 赤ちゃん村人は迷わず走ってくる。


 家へ入る。


 床の扉を開ける。


「はやく!」


 望来が手を伸ばす。


 赤ちゃん村人も、するっと中へ入る。


 芽依が扉を閉める。


 静かになる。


 たいまつの光だけ。


 創磨は外から、それを見ていた。


 家の中。


 見えない。


 何もないように見える。


 でも、いる。


 ちゃんと、隠れている。


「……いける」


 小さくつぶやく。


 その言葉には、昨日より少しだけ重みがあった。


 創磨はゆっくり振り返った。


 村の外れ。


 道が続いている。


 どこからでも、入ってこれる。


「……ここだけじゃ足りん」


「なに」


 芽依が隣に来る。


 創磨は前を見たまま言った。


「家だけ守っても意味なか」


「……ああ」


「村の入口」


 芽依も、その方向を見る。


「そこもやらんばね」


 創磨はうなずいた。


 床の下には、隠れる場所がある。


 扉もついた。


 水も、食べ物も、薬もある。


 それでも——


 守る場所は、まだ広い。


 創磨は、もう一度だけ家の中を見た。


 見えないけど、そこにいる。


 それを確かめてから、外へ目を向ける。


 道。


 森。


 その先。


 ――扉はできた。次は、村の入口だ。


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