5 再会、成長
カーテンから光が零れる清々しい朝。今日もまた「ふぁるかちゃーん!!」ではなく、小鳥の鳴く音で目覚めた。院長は毎朝煩かったのだが、彼の弟が帰ってきたらしく最近は頗る静かだ。
この世界に来て2年。妖気も発火くらいなら出来る様になった。
「発火」
少し中二な呪文を唱えると、指先に二センチくらいのしょぼめの火がつく。やったー、これでキャンプ時便利だぞ! くらいしか使い用がないので正直落ち込む。火しか使えないし、しかもこれを使うとドッと疲れが襲ってくる。今のところでは利便性が皆無だ。
そんな中、最近は目覚ましより先に起きるが日課となってきた。モットーは、早寝早起き朝ごはん。暖かみのある隣の窓から風が吹き、キラキラとカーテンがなびく。風が止むと、肩くらいまである薄水色の髪が頬にへばりついた。
うっとおしい。少し不機嫌になりながらも、手で髪を思いっきり払う。
眠いよー、よっこいせ。手を布団について私はのっそりと立ち上がる。大きく手を広げ気分を一転させる。
くおっ! 立ってみると分かるけど、やっぱり目線が違う。成長期! 素晴らしい。小走りで、前から成長の記録をつけている木の柱に身長を合わせる。
「……4cmも伸びてる!?」やった! 牛乳飲みまくった甲斐があったぜ。
私は、その長い髪を振り回す。4cmだよ、4cm!! むふふ。嬉しいっ!
「ご機嫌麗しゅうて。篠崎遥、三歳」呂律が回り、自己紹介も出来る様になった。ただ今、第一次成長期です。大人になると、目線が変わったりしないが、案外子供で背が伸びるって楽しいね。わくわくする。
しかし、思うように伸びないのは、睡眠不足のせいだと思う。んー、多忙で大変で。うひゃっほーおい!! テンション可笑しいけど気にしない、気にしなーい。
手を上げて伸びをする。
この二年分かったことは、前世は確か弁護士だった。一年程前に、普通の大人よりちょっと偉いだけで、この年で裁判に出さされた。驚いた。内閣総理大臣さんや、某大統領さんと会って日本を危機に晒してはいけないと思い、他の国との親睦を深めた。院長から逃げるのに剣道使ったり…一番辛いのは、妹ちゃんに中々会えなかったことかな。
私は額に手を当てる。
おぅ。ここまでハードだったとは。でもお偉いさんはイケメンの方もいたことが唯一の幸せだった。政治家って案外レベル高かった…関心したけど、そもそも私、世界に通用する秘密兵器になるかもしれないとも思ってしまった。
そんなばたばた騒ぎからも二年の月日が経ち、いよいよ落ち着いてきた。家では妹ちゃんもいるので家庭ってこんな感じなんだなと思う。心がほくほくして、暖かいね。今思うと私、精神年齢31のおばさんだよ。姉というか、母?
「ねぇね」
考え込んでいる私をくりくりとした目で私を見上げる薄桃色の髪の少女。
私は少女こと、妹ちゃんの耳くらいまでの短い髪を両サイドでくくりました。世に言うツインテールです。でも、妹ちゃんの髪が短いので悲惨なことになってますが。本当にごめんなさい。
「ねぇね」
妹ちゃんが私の服の裾を掴む。
【キュン】
私は直ぐに頬が緩んでいく。心臓がバクバクしていて、やばい…心高鳴る。今すぐ転がって床をバンバンしたいが変人に成りたくないので、心で悶える。
「なぁに妹ちゃん?」
私は平常心でにっこりと妹ちゃんに笑いかける。私らお母さんがいないので私が妹ちゃんのお母さん。私達を産んだときに犠牲になったようです。あの時は、涙が止まらなかった。死の尊さが、転生以来分かってしまったから。お母さんの分まで、生きて頑張らなきゃ! ていうか、妹ちゃん可愛い。
頬に手をあて顔が熱くなるのが分かる。私はどうやら重症のようだ。
「みーみー!」
みーみーとは、見てみてということらしい。私とは違う舌足らずの発音が微笑ましくてくすりと笑みが漏れる。
妹ちゃんがおぼつかない足元で立ち上がり、歩き出す。
しかし、足元が……転けた!
「ひっくひっく ねぇね~」
妹ちゃんはぐずぐすと泣き始めた。よしよしと頭を撫でてあげると、私に抱き付いた。
アニメの幼女キャラが浮かんできて咄嗟に全てを封印した。
萌える、萌え死ぬ。耐えきれない。親バカっていうのは、こういうことなのか。共感出来る。絶対我が子が可愛いと思う。こんな私の心境も知らず抱き付く妹ちゃんはある意味鬼だ。
【スキル習得】
頭に直接響くような音がした。
唐突に天から光が差す。その隙間からはやはりにょきにょきと皺々の足が降りてくる。私は大体の察しがついたのでにっぱりと満面の笑みで彼を迎える。
降りてきた彼は私の従順な態度に顔をしかめたが、直ぐに笑って言った。
『おめでとう! 不本意じゃが…「オルジィお久! 」お主は、進歩せんのぅ』
おほほほ、だてに年とってるんじゃないんですよ。
私は話を遮ると、彼は呆れて一睨みをする。これくらいで済んでいるのだから、今日の彼は機嫌がすこぶる良い。前に会った時は死にかけた。つまり、神に喧嘩は売るものじゃありません!
『いばるとこじゃないぞ。おーほんっ! お主の特殊効果である条件を突破したらスキルを習得できるぞい。』
オルジィは鼻歌混じりに言った。うむ、聞いた事の無い曲だ。
にしても便利! ゲームでプレイしてたときなかった。私ラッキー?
『馬鹿お主にわしからのプレゼントじゃ。スキルをいつでも見れるようにしたお主しかスキルは、使えんがの。じゃあな!』
彼は目を細め、しわくちゃの無邪気な笑顔で泡となって消えていった。スキルか、後で確認。
「ん…」
私が目を覚ますとそれは可愛い妹ちゃんが…いなかった。
「っ…ぅぎゃあああ!!」
そして、私は女らしくない悲鳴をあげてしまった。きゃーこわーい! とか出来ないのが、我ながら悲しい。そして、何故か目の前に居たのは暗い蒼の髪を揺らす院長であった。そこで一番恐ろしいのは、あろうことか驚きのあまり私は彼を殴ってしまったのだ。
…後悔したときにはもう遅かった。
といつもなら思ったのだが、今日の私には救世主が居た。
「変態カズ。そんなに刺激欲しいなら銃ぶっぱなしてやろうか」
酷く冷淡な声色が院長の居る方と逆から聞こえた。私は彼の言う事に大きく頷いた。その声の持ち主は、壁にもたれかかる十代前半くらいの男性だった。顔は院長そっくりだがどうも雰囲気がヤバい。
彼は私を視界に入れると、琥珀色の目で少し睨んで言った。
「おい、そこのチビ。暇なら手伝え」
威圧の含まれた声に口を紡ぎ、ただこくこくと首を振るしかなかった。どうせ、ヘタレですよ、怖いから仕方ないんだよ。




