4 名前
小鳥のさえずりが聞こえて、段々と温かみが増してきた。程よく照りつけう太陽は日向ぼっこに丁度良い。
この世界で一度目の五月。
検査を受けて、異常なし。つまり、私も異常あるかもと思っていた頭も正常ということである。
「うおおお!」
ただ、立ったり歩いたりするだけで拍手の嵐で疲れました。
赤ん坊だから身のこなしが軽いので、体重を計ると「マジか…」当分ダイエットの心配はいらない事が分かった。前世でも見たことがなかった怪奇現象だった。ふっくらしてない赤ちゃんなんて赤ちゃんじゃない!…で、妹ちゃんに全然会えなかったし、思った以上に天才は辛いね。今の名言っぽい。
「妹ちゃん?」
「あうっー!」
「よーしよし。その愛らしさは天使ですか」
彼女は姉にきらきらの笑顔を姉に向ける。
今はお昼休みという名の休憩時間なので妹ちゃんを見てる。私のせいで妹ちゃんも隔離されてて、見てると胸が痛くなる。やっぱり双子だし、色々疑われるんだろう。お友達とか真っ当に出来るだろうか。天才問題に妹ちゃんは、絶対巻き込まない。
「妹ちゃんには幸せに生きてほしいからね」
「うーあっ?」
「もう、天使以外の何者でもない…くうぁ」
妹ちゃんの頭を撫でて、手を差し出すと緩く握り返してくる。ほのかな体温が愛しくて。
この小さな小さな手は、私が守るから。
この一月で分かったのだが、どうやらここは少しオリジナルの加わったハピスクの世界らしい。もちろん前世と同じようにコンビニもテレビもパソコンもあるのだが、テレビゲームや家庭用ゲーム機が一切無い。ゲーオタにとって悲しい事だが。
さて、何よりも驚いたのが妖気というものがあって、妖気が強い者は政府に監禁される事だ。便利な妖気持ちは政府の成すがままらしい。
妖気持ちとは、妖気は一般の皆が持っている。だが妖気持ちの様に妖気が強い者は具現化が出来る。つまり、前世で言う魔法使いのようなものにあたる。やはり、魔法使いには劣るが。
妖気の強い者は千人に一人くらいの割合で生まれるらしい。思ったより多かった。
そして、妹ちゃんも私も恐らく妖気持ちだ。妖気持ちは、うなじに刺青の様な絵が浮かぶそうだ。看護師さん情報である。私達にはそれがあった。私には蝶と薔薇の刺繍が、妹ちゃんには三日月の刺繍が入っている。何を意味するか分からないけど、割と可愛いので隠しながらも気に入っている。
「刺繍も可愛いねー。流石私の妹ちゃん、いや天使様」
「…遥ちゃん何を言ってるの。ご飯よ。かなたちゃんも」
「はーい」
時刻は、十二時を少し過ぎたあたりで、看護師さんが昼飯を運んで来てくれる。
最近は、この看護師さんの様に私を気味悪がる者も少なくなってきた。違う意味で気味悪がられているのは、置いといて。仕事投げ出そうとするし危なっかしいしお転婆なので子供よりも子供らしいと噂で聞いた。
うん、理由が微妙だ。
「ふふっ」
「お腹減ったから、仕方ない」
看護士さんが笑ったのは、ぐうーと私のお腹が鳴ったからだろう。うっ、箱があったら入りたいぐらい恥ずかしい。でもお腹様には逆らえない宿命である。いっただきまーす。
私はにたにたと締まりのない笑みを浮かべて、ミルクへと手を伸ばした。
さて、私の主張により妹ちゃんは、主人公ちゃんと同じ名前の彼方ちゃん、そして私はそのまま遥となった。
彼方に関しては私のいくつかの候補と院長とかの話し合いで決まった。ゲーム時代は何となくこの名前がデフォルトだったけど案外深い理由があったのだ。
遥には、特に思い入れはないけど、呼ばれた時の反応の速さで決めたようなものだ。痛めのドキュンネームつけたかったけど、慣れてる名前の方が楽。でも、格好良い名前ならいいな。よし保留。ごくごく。
私はまじまじと妹ちゃんを観察した。
ちなみにハピスクの主人公ちゃんは薄桃色の髪の毛が印象的で、少しはねてる寝癖とか、笑うと出来る深いえくぼとか、母性をくすぐった。
背が低めで上目遣いとか。彼女のイメージはいつでもピンクであった。
理想の妹ちゃん像は、当に出来てます。妹ちゃんも、主人公ちゃんと同じ翡翠色の目で、可愛い系の顔。本当に赤ちゃんって天使だ。泣くと厄介ですが。
鏡の前に立って自分の容姿を妹ちゃんと比較した。
私は、薄蒼色の髪の毛に、妹ちゃんと一緒の翡翠色の目で少し嬉しかった。でも、妹ちゃんの方が目の色が似合っているのだ。やはり可愛らしい妹ちゃんと比べると私の顔立ちはパッとしない。華がないのである。
無意識でも妹ちゃんと自分を比べてしまうので悲しい。あと、髪の毛の長さにも驚いている。
「ぐへへへ」
私の頬は終始緩みっぱなしだ。鏡に映る薄蒼色の髪が気に入っているから。染めた様な色ではない、自然な淡い色が心を掴んだ。
でもさ私、鏡と妹ちゃんの前でニタニタしてて世間から見てどうなんだろう。うん、変態っぽい。
「ごちそーさまでした!」
「じゃ、私洗ってくるわね」
看護師さんは私を見て、くすりと笑いお皿を片付け始める。
そんな事も気にせずに私は窓の前で勢いよく寝転ぶ。ご飯食べて寝ると牛になると言うが今日くらいはね。空を見ると、相変わらず鳥達が舞っている。
「暇っ!」
「そうねぇ、ちょっと自分について考えてみたら?」
「そうする」
少し考える事にした。
妖気持ちについては、看護師さんに聞いただけだが危ないらしい。幼くしてその妖気に呑み込まれてしまう者も少なくない。凄く無惨な死に方らしい。流石にそんな死に方は御免だ。
なので、私は妖気を鍛えつつバッドエンド回避で行こうと思う。色々と便利だろうし。よし! 妹ちゃんは世界に愛されているので大丈夫だろう。
私はばんっと音が聞こえて肩をすくめた。
扉が勢いよく開く。正直、びっくりした。いきなり扉が開いたことにも、開けた人物にも。
「ふぁるかちゃーん!! 僕の胸に飛び込んでおいでっ!! ついでに頬擦りも」
「気持ち悪いです。院長」
誰か銃持ってきて下さい…。
私の視界に入ってきたのは暗めのブルーの髪。この髪の持ち主の彼は、今の病院の院長であり、私の難関だ。何が難関って?
つまり、殴りかかると彼は喜ぶ。他にも探究心の塊であり、珍しい物が好きな大変な性格である。あと、ついさっき分かったけど彼は重度の幼女好きだ。なので条件に全て当てはまる私はかなり危険な状態なのだ。
「さぁ検査しまちょーね」
院長に手をグイッと引っ張られた。…お巡りさーん変態に連行されるよ。
ていうか、本当に赤ちゃん言葉使う大人初めて見た!
私は成す統べなく、その扉にずるすると引き込まれて行った。




