表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/11

第7話:すれ違う時間

将来の話をするようになってから、私たちの会話は少しずつ変わっていった。 これまでなら「次いつ会える?」とただ楽しみだけにしていた予定も、いつの間にか現実的なスケジュール調整になっていた。

「次の異動、どこになるんだろうね」 「そっちはどう?」

そんな何気ない一言にも、お互いの仕事や生活の予測がつかない不安が少しずつ混じるようになっていた。 お互いに転勤のある仕事。 どちらかが近くへ異動になればすぐにでも会いに行けるけれど、もっと遠くへ離れてしまう可能性だって常につきまとっていた。

スケジュールを合わせようとしても、思うようにはいかない。 「今度の連休は?」 「ごめん、その日は仕事が抜けられなくて……」 「じゃあ次の週は?」 「その週末は研修が入っているんだ」

そんなやり取りが、少しずつ増えていった。 どちらかが嘘をついていたわけではない。本当に仕事だった。だからこそ、どうすることもできなくて、電話の向こうで「そっか、残念だね」と笑う声の奥には、小さなどこか切ない空気が漂った。 今振り返れば、あの頃はどこかマンネリ化していた部分もあったのかもしれない。関係が落ち着いてきたからこそ、変化のない日常や、思うように会えない焦りが、知らず知らずのうちにふたりの間におりのように溜마っていっていた。

会話の中で、彼女から「扶養に入りたいな」という系の話がちらっと出たこともあった。 その言葉の裏にある、私と一緒に暮らしたいという真剣な願いや、将来への安心を求めたい気持ちは痛いほど分かっていた。 けれど、その言葉を聞くたびに、私は胸が締め付けられるような思いがした。

「これ以上に、自分はどう動けばいいんだろう……」

当時、私はそんな焦りと無力感に悩んでいた。 ちょうどその頃の私は、高校を卒業して親の扶養から外れ、税金のこと、保険のこと、自分の生活のすべてを自分の力でするようになって必死にもがいていた時期だった。自分のことで手一杯になりながらも、彼女のことを大切にしたいという気持ちの間で、どうバランスを取ればいいのか分からなくなっていたのだ。

「もっと会いたかった」 彼女がぽつりとこぼしたその言葉が、何度も頭をよぎる。 私だって、会いたかった。 でも、「会いたい」という気持ちだけでは仕事は休めないし、生活を支えるための現実から目を背けることもできなかった。 お互いに将来を見据えているはずなのに、進むべき方向が少しずつズレていくような、どうしようもない焦燥感があった。

それでも、電話を切る前には必ず伝えていた。 「愛してるよ」 「ずっと愛しているからね」 どれだけすれ違っても、どれだけ不安になっても、その言葉だけは濁さずに、まっすぐ相手に届け続けていた。それが私たちの変わらない絆だと、当時の私は信じて疑わなかったからだ。

「おやすみ」 電話の向こうの彼女の声はどこか寂しそうに聞こえて、私は「また明日ね」と返すのが精一杯だった。

あの頃の私は、まだ信じようとしていた。 少しだけ離れてしまった心も、次に会えたらきっとまた元に戻る――そう言い聞かせるように、彼女への変わらない想いを胸に抱き続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ