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第14章 最終面接を終えて

【試練の春、突破した難関】


 季節は巡り、新緑が眩しい初夏。

 金子修汰の真価が問われる、大阪府庁(建築職)の採用試験がついに幕を開けた。


 一次試験で課されたのは、能力を測るSPI、論作文、そして難関とされる建築の専門試験。

 独学時代に絶望した文系科目は、伊崎進の教え通り要点のみを絞り込んで効率よく切り抜け、得意の数的処理と建築専門知識で圧倒的な高得点を叩き出した。

地元の建築事務所でのアルバイトで培った現場感覚も手伝い、修汰は一次試験を堂々の成績で突破した。


 続く二次試験の個人面接。

 予備校で進と何度も練り上げた「元・芸能マネージャー」という異色の経歴。

不祥事の危機管理や過酷な現場で培った対人交渉力を「行政の危機管理と住民対応」へ、そして建築の専門知識を「大阪の防災と都市再生」へと論理的につなぎ合わせた自己PRは、面接官たちの深い頷きを引き出し、見事に二次合格を果たした。


 残すは、最終面接のみ。

 内定の扉は、目と鼻の先まで迫っていた。


【和やかな違和感、「今までいない」の真意】


 大阪府庁の重厚な面接室で行われた最終面接。

 圧迫面接や鋭い突っ込みを警戒していた修汰を待っていたのは、拍子抜けするほど和やかな空気だった。


 年配の府幹部たちが並ぶ中、志望動機、なぜ民間ではなく行政の建築職なのか、そしてなぜ数ある自治体の中で大阪府庁なのかという質問が投げかけられた。

 修汰は緊張しながらも、東京での挫折、大原雅子の現場で学んだ「人の命と安全を守る責任」、そして地元大阪への熱い思いを誠実に語った。


 しかし、修汰が回答を終えるたび、中央の面接官は優しく微笑みながら、不思議な言葉を口にした。


「なるほど、よく分かります。……ただね、金子さん。うちの建築職で、今までそういう経歴や熱量で入ってきた人は一人もいないんですよ」


 次の質問への回答でも、同じだった。


「なるほど、素晴らしい考え方だ。……ただね、今までそういう視点で話す人はいなかったなぁ」


 否定されているわけではない。だが、肯定とも取れない絶妙なトーン。

 鋭いツッコミすらなく、ただ「今までそういう人はいなかった」と繰り返される和やかな面接は、わずか二十分ほどであっさりと終了した。


(不合格だから、傷つけないように穏やかにあしらわれたのか……? 『今までいないような異質な奴だから不採用』という意味なのか……!?)


 面接室を出た修汰の背中を、嫌な汗が濡らした。


【講師の確信、消えない不穏】


 居ても立ってもいられなくなった修汰は、その足で予備校の難波校へ駆け込み、進に最終面接の全容を報告した。


「伊崎先生……駄目かもしれません。面接官が終始和やかで、僕が答えるたびに『今までそういう人はいなかった』って苦笑いみたいに繰り返されて……完全に『うちの枠には合わない』って遠回しに言われた気がします……」


 頭を抱えて落ち込む修汰に対し、進は驚く様子もなく、むしろ穏やかな笑みを浮かべて語りかけた。


「金子さん、全く心配する必要はありませんよ」


「え……? 本当ですか!?」


「ええ。面接官の『今までそういう人はいなかった』という言葉は、拒絶ではなく**最大級の評価と驚き**です。従来の建築職の受験生は、真面目で技術力はあっても、対人交渉や危機管理の泥臭い修羅場を潜り抜けてきた人など皆無でした。彼らはあなたの唯一無二の経歴と、そこから裏付けされた人間性に心から感心していたのです」


 進は力強く頷いた。


「和やかだったのは、あなたを落とす理由を探す必要がなかったからです。自信を持つことです」


 プロである進の言葉は、論理的で完璧なフォローだった。

 だが――かつて大原雅子のマネージャーとして「人の表情の裏にある本音」を察知し続けてきた修汰の鋭い直感は、あの面接官たちのどこか含みのある笑顔を、どうしても素直に受け取ることができなかった。


(伊崎先生がそう言ってくれるのは救われる……。でも、もし『前例がないから』という理由で落とされていたら……?)


 合格発表までのカウントダウンが始まる中、修汰は再び、生きた心地のしない焦燥の暗雲へと呑み込まれていくのだった。

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