第10章 2度の最終面接の失敗
【乗り越えた集団面接、広がる選択肢】
祇園祭の混乱と危機をギリギリで潜り抜けた京都市消防局の集団面接。
陽雅は冷や汗をぬぐいながらも、進と練習してきた「協調性」と「市民の安全を守る覚悟」を自分の言葉で熱く語り、無事に終えることができた。
その後、一次試験を突破していた大阪市消防局と枚方寝屋川消防組合の二次試験(面接・体力測定)も着実にクリア。
気がつけば、陽雅は受験した三つの消防本部すべてで「最終面接」へと駒を進めていた。
(すごすぎる……。三つとも最終面接まで残れるなんて……!)
一時は勉強も分からず、骨の激痛に泣き、バイト先の閉店に焦っていた自分が信じられない思いだった。
しかし、勝利を目前にしたこの「最終面接」の舞台で、陽雅は相次いで痛恨のミスを侵してしまう。
【最終面接での失言、二つの落とし穴】
最初に訪れた**枚方寝屋川消防組合**の最終面接。
面接官から「全日本ランカーまで登り詰めながら、なぜボクシングをやめたのか」と問われ、陽雅は網膜剥離による強制引退の経緯を誠実に話した。
すると、面接官がさらに踏み込んで尋ねてきた。
「それほどの指導実績や知名度があるなら、選手を引退してもトレーナーや解説者としてボクシングの世界に残る道もあったはずでは?」
その問いに、陽雅はつい焦って本音を漏らしてしまった。
「……はい。ですが、格闘技の世界はいつ収入が途絶えるか分からず、不安定な毎日が続くので……」
(あっ、しまった……!)
言った瞬間に後悔したが、時すでに遅し。面接官たちのペンがメモの上で一斉に止まり、微妙な空気が部屋を包んだ。
さらに試練は続く。
次に受けた大阪市消防局の最終面接でのことだった。
併願状況を聞かれ、陽雅が「京都市消防局も受けています」と正直に答えると、面接官が不敵な笑みを浮かべて意地悪な質問を投げかけてきた。
「もし、うち(大阪市)と京都市消防の両方から内定が出た場合、どうしますか? あるいは、京都市が内定してうちが不合格だった場合はどう受け止めますか?」
試されていると感じた陽雅は、熱意をアピールしようと即答してしまった。
「もし京都市消防から内定をいただいても、大阪市消防局が第一志望ですので、京都市は辞退いたします!」
しかし、面接官の反応は冷ややかだった。
数日後、届いた通知は無情にも「不合格」。
枚方寝屋川と大阪市、二つの最終面接で立て続けに散る結果となってしまったのだ。
【進のロジック、明かされた不合格の真相】
「伊崎先生……すみません。枚方寝屋川も大阪市も、最終で落ちてしまいました……」
残すは本命の京都市消防局の最終面接のみ。
あと一歩のところで自信を失い、消え入るような声で報告する陽雅に対し、進は平静な面持ちでメモ用紙を引き寄せ、さらさらとペンを走らせた。
『松田さん、落ち込む必要はありません。失敗の原因はハッキリしていますよ』
進は一枚の用紙に、陽雅の二つの回答を書き出し、赤ペンで大きくバツ印をつけた。
『まず枚方寝屋川での「安定していない毎日が続く」という回答。これは公務員面接で絶対に言ってはいけない禁句です。面接官には「公務員の安定した身分や給料だけが目的で、消防の厳しい職務に対する情熱がないのではないか」と受け取られてしまいます』
陽雅は思わず胸を押さえた。
進のペンはさらに大阪市の回答へ向かう。
『そして大阪市での回答。「京都市が内定しても辞退する」と言ってしまったことですね。一見、大阪市への強い忠誠心に見えますが、面接官からすれば「他の自治体や採用試験を軽視する不誠実な人間」、あるいは「内定を辞退すると言い切ることで交渉しようとする不自然な回答」と映ります。「どちらの自治体も市民の命を守る素晴らしい組織であり、ご縁をいただいたところで全力を尽くしたい」と答えるのが正解でした』
【最後の扉、京都市消防へ】
進の丁寧で説得力あふれる解説を聞き、陽雅は深く頷いた。
不合格になったのは自分の人間性が否定されたからではなく、面接での「回答の技術」を誤っただけなのだと理解できた。
進はメモ用紙の最後に、力強い文字でこう書き加えた。
『大丈夫です。京都市消防局の最終面接では、もう同じ過ちは侵さないはずです。痛い失敗を乗り越えた今のあなたなら、絶対に大丈夫です』
進の言葉と力強い眼差しに、陽雅の心に再びメラメラと情熱の火が灯った。
失敗はすべて、本命・京都市消防局で勝つための貴重な授業だったのだ。
祇園祭の危機を乗り越え、運も実力も味方につけてここまで来た。
「……伊崎先生、ありがとうございます! 京都市消防の最終面接、自分の熱意のすべてをぶつけてきます!」
弱点をすべて克服した松田陽雅は、最後の、そして最高のリングである京都市消防局の最終面接へと、堂々と胸を張って向かっていくのだった。




