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第5章 勉強の辛さの克服

## 第一二章:立ちはだかる「教養」の壁、重いパンチ


晴れて予備校の受講生となった陽雅だったが、現実は甘くなかった。

居酒屋のアルバイトと予備校の講義、そして自宅での復習。ボクシングで培ったスタミナには自信があったが、「勉強」という未知の筋肉を使う日々は、陽雅の精神をじわじわと削り取っていった。


(アカン……やっぱり全然頭に入ってこない……)


自習室のデスクで頭を抱える。

テキストを開けば、数的処理の複雑な解法ステップや、社会科学の膨大な暗記項目がズラリと並ぶ。「完璧にマスターしなければ」「一回で解けるようにならなければ」と力めば力むほど、脳が拒絶反応を起こし、集中力は切れ、焦りばかりが募っていった。夜遅くまで机に向かい、睡眠時間を削ってテキストを睨みつけるが、翌朝には綺麗に忘れている。


「ボクシングの減量よりキツいぞ、これ……」


このままでは試験までに間に合わない。限界を感じた陽雅は、不安で押し潰されそうな胸の内を抱え、講師の伊崎進のもとへ相談に赴いた。


---


## 第一三章:進の筆記アドバイス、肩の力を抜く技術


面談室でうなだれる陽雅に対し、進は静かにペンを取り、手慣れた手つきでメモ用紙に流麗な文字を走らせた。

進は喉を痛めているため、いつものように筆談で向き合ってくれる。


『松田さん、かなり力が入っていますね。顔が強張っていますよ』


「……すいません、伊崎先生。覚えようとしても全然覚えられなくて。解けるようになろうと焦れば焦るほど、頭が真っ白になるんです」


陽雅が絞り出すように答えると、進はふっと温かい笑みを浮かべ、新しい用紙に力強く書き進めた。


『「覚えよう」「マスターしよう」「自力で解けるようにしよう」と力むのは、今日で一切やめてください』


「え……? でも、解けるようにならないと試験に落ちますよね?」


困惑する陽雅に対し、進のペン先は滑らかに走る。


『勉強を「一回で完璧にするもの」だと思わないでください。今の松田さんの仕事は、完璧に解くことではなく「自分がどこが分からないのかを見つけること」です。テキストを読んで分からなければ、5分考えて悩むのをやめ、そのまま付箋を貼って私のところへ質問に持ってきなさい。分からない部分をプロに投げることが、最短の攻略法です』


進はメモ用紙の端に、大きな矢印を描いた。


『ボクシングでも、最初から完璧なコンビネーションなんて打てなかったでしょう? フォームをセコンドに修正してもらいながら、何千回と反復して体に染み込ませたはずです。勉強も全く同じですよ』


---


## 第一四章:朝のロードワーク、夜の休息


目から鱗が落ちる思いの陽雅に、進はさらに生活リズムについての具体的な指示を書き加えた。


『それと、もう一つ大事なアドバイスがあります。**勉強は「朝」やりなさい。そして夜は早く寝ることです**』


「朝、ですか?」


『人間の脳は、朝起きてからの数時間が最も集中力と記憶力が高まります。夜遅くに疲れた頭でダラダラと机に向かっても、効率が悪いだけです。居酒屋のバイトが終わったら余計なことはせず、すぐに風呂に入って寝る。そして朝少し早く起きて、頭がクリアな状態の1時間で「分からない問題」を整理する。これが一番効率の良いやり方です』


進の言葉は、かつてボクシングで最高のパフォーマンスを出すために叩き込まれたコンディショニング管理そのものだった。

「完璧を求めず、分からないところを探して質問に来る」「朝型に切り替え、夜はしっかり休む」。シンプルだが理にかなった進の教えが、陽雅の肩から重い鎧をスッと取り払ってくれた。


「……伊崎先生、ありがとうございます! 勉強の『打ち方』が分かりました。明日から朝型に切り替えて、分からない問題の山を先生のところに持ってきます!」


元気に返事をする陽雅に、進は満足そうに頷き、力強いガッツポーズを作ってみせた。


自分の弱点を素直に認め、プロのセコンドに頼る。

肩の力を抜いた松田陽雅は、朝の爽やかな光の中で、新たなスタイルのトレーニングへと足を踏み出していくのだった。

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