第4章 受講を決意する陽雅
【重なる割引、奇跡のカウンター】
翌日、陽雅は昨夜の覚悟を胸に、再び予備校の相談ブースを訪れていた。
「居酒屋のシフトを極限まで増やしてきました。分割払いでいいので、入会させてください!」
真剣な眼差しで頭を下げる陽雅。
これに対し、昨日対応してくれた予備校スタッフは、困惑したように苦笑いを浮かべた。
「松田さん、落ち着いてください。実は……昨日私が提示した見積もりは、私が少しだけ勘違いしておりまして、全く違う金額だったんです」
「えっ……?」
「確かに、松田さんが受講される『消防官単元特化コース』の本来の標準受講料は、15万円です。ただ、それはあくまで標準価格です。いろいろと割引が適用されます。私の確認不足で大変失礼いたしました!」
15万円かかるはずだと思っていた。
だが、もっと安くなるというのだ。
それを聞いた瞬間、陽雅の胸のつかえがすーっと軽くなった。
いくら安くなるのだろうか。
予備校スタッフは申し訳なさそうに、しかし手際よく割引制度のチェックシートを指差し、説明を始めた。
「松田さんの状況を確認させていただいたところ、適用できる割引が多数ございます。まず、先日当校に通っていたご友人からの『友人紹介割引』です。そして、ご出席いただいた『ガイダンス出席割引』もございます。さらに、ボクシングの実業団という前職を退職された証明がございますので『退職者割引』も適用可能です」
「えっ、そんなに……?」
「ええ。これらを重複適用いたしますと、受講料から25%割引となります。つまり、十五万円から25%引きで、11万2500円で受講することが可能です」
陽雅は思わず目を丸くした。
15万でも受講する覚悟で来た。
シフトを増やし、なんとか受講料を捻出しようと思っていた。
でも、これなら、居酒屋のアルバイトを少し増やすだけで十分に手が届く。
【金利ゼロの背中押し、リングインの瞬間】
さらに、予備校スタッフは満面の笑みで一枚のチラシを差し出した。
「お支払い方法ですが、ちょうど今期は『教育クレジット・分割手数料ゼロキャンペーン』を実施しております。12回の分割払いにしていただければ、金利や手数料は当方がすべて負担いたします。月々のお支払いは、1万円以下です。正確に申し上げると約9400円)です」
「月々……1万円以下……!?」
暗闇の中で光が差し込んだようだった。
居酒屋で身体を壊すほどシフトを詰め込まなくても、日々の生活を破綻させることなく無理なく通い続けられる金額だ。
(15万だと絶望していたのに……11万台になって、しかも分割手数料もタダなんて。まるで、リングの上で起死回生のカウンターパンチが決まったみたいだ!)
「……買います! いえ、受講します! よろしくお願いします!」
陽雅は深々と頭を下げ、契約書にサインをした。
こうして、受講料という最大の壁を破り、松田陽雅は晴れて予備校の受講生となった。
ずっしりと重い真新しい教養試験のテキストと論作文の講義資料をバッグに詰め込み、予備校の門を出る。
京都の街を吹き抜ける風が、火照った頬に心地よかった。
拳を奪われ、一度は暗闇に落ちた男。
しかし、命を救う「消防官」という新たなリングに登るための挑戦が、今、正式に始まったのだ。
夕日が、京都タワーを照らしているのが遠くに見える。
陽雅の心は、静かに高揚していた。




