第8章 筆記試験での苦戦
【冷たい手ごたえ、重なる失意】
秋の冷気が街を包み込む中、就職氷河期世代対象・国家公務員中途採用試験の筆記試験当日がやってきた。
緊張感で張り詰めた会場で、誠治は鉛筆を握り締め、教養試験の問題冊子を開いた。
しかし、数問目に取りかかったところで、誠治の眉間に深い皺が寄った。
(……解きにくい。去年より文章理解の選択肢が紛らわしく、数的処理の解法に時間がかかる……)
予備校で講師から授かった解法手順を思い出し、必死に食らいついた。
しかし、焦りと時間の短さに追われるようにして試験終了のチャイムが鳴り響いた。
会場を去る誠治の足取りは、鉛のように重かった。
翌日、自宅で震える手で自己採点を行った結果は、あまりにも残酷だった。
去年の点数よりも、さらに「2点」低い結果。
「……また、アカンかったか……」
一年の努力、予備校への投資、進の温かい言葉。
それらすべてを裏切ってしまったような激しい徒労感と絶望が、誠治の体にのしかかった。
50代の自分には、やはりこの壁は高すぎたのだと、部屋の隅でうなだれるしかなかった。
【進のメモ用紙、見抜かれた「難問の壁」】
失意のどん底の中、報告のために予備校の個別面談ブースを訪れた誠治は、消え入るような声で自己採点の結果を進に伝えた。
「伊崎先生、申し訳ありません……。去年よりさらに2点も下がってしまいました。もう、一次通過すら絶望的です……」
俯く誠治に対し、進は落胆するどころか、平静そのものの手つきでペンを取り、いつものメモ用紙にさらさらと文字を走らせた。
『浜崎さん、顔を上げてください。まったく気にする必要はありません』
誠治が顔を上げると、進は力強い眼差しで自分を見つめていた。
進は手早く新しい用紙に解説を書き足していく。
『今年の教養試験は、全体の出題傾向が変化し、昨年と比較して難易度がかなり上がっています。他の受講生たちの自己採点データを見ても、一様に得点を落としています』
誠治は思わず目を見張った。
『試験というのは「何点取れたか」ではなく「周りと比べてどの位置にいるか」です。全体の平均点が下がれば、当然ながら一次試験の合格ライン(ボーダーライン)も例年より下がります。あなたのその点数なら、十分に一次通過の圏内ですよ』
【逆転の舞台へ、止まらない準備】
進はメモ用紙の余白に、大きく「面接準備」と書き込み、それを指でコンコンと叩いた。
『落ち込んでいる時間はありません。筆記試験は、ギリギリでも受かれば良いんです。新卒の皆さんの試験と違って、この後、いきなり官庁訪問です。そこでアピールできればいくらでも受かります。あなたは50代だからこそ語れる、20年の行政経験と介護をやり切った揺るぎない「人間の深み」という最大の武器を持っています』
進の言葉は、まるで霧を払うように誠治の胸の重荷を取り除いていった。
そうだ、自分は単なる点数取りゲームをしにきたのではない。
行政の現場で泥をすすり、人生の痛みを知る一人として、再び社会の役に立つためにここへ来たのだ。
筆記の難化に惑わされ、勝手に勝負を投げ出しかけていた自分の甘さが恥ずかしくなった。
『さあ、気を取り直して、面接の「台本」を仕上げましょう。あなたの20年を、面接官の心に届く最高の物語に変えるのです』
「…はい! 伊崎先生、よろしくお願いします!」
誠治の声に、力強い張りが戻った。
難化という予想外のアクシデントすらも味方につけ、浜崎誠治は次なる最大の難関――「面接試験」という名の本当の勝負の舞台へ向けて、力強く一歩を踏み出すのだった。




