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時空の三連星 第4章 第3話

第4章 


第3話:究極の飴と鞭、調律の密室



翌朝。サブライム家の朝は、どこまでも厳格で、そして退廃的に始まった。

魔王の娘リリに与えられた最初の任務は、あるじたちの朝食の席にはべる「メイド」としての初仕事であった。

長い大理石のテーブルの最奥。

正妃シズは、一ミリの揺らぎもない完璧な姿勢で椅子に腰掛けていた。

彼女が細い指先で英国製の磁器カップを持ち上げるその所作には、一切の迷いがない。衣服の袖が卓上を滑るかすかな衣擦きぬずれの音さえ、計算された音楽のようだった。

シズが何者にもひるまず、これほどまでに心を強く保っていられるのは、肉体も精神も霧散したはずの最愛の夫・駿の『思念』が、今も時空をさばいて自分を優しく包み込み、見守ってくれているという絶対的な確信があるからに他ならない。

だからこそ、魔王との時空を超えた恐喝交渉さえも、彼女にとっては盤上の他愛ない遊戯に過ぎなかったのだ。

シズはカップを音もなく皿へと戻すと、傍らでガタガタと震えながら紅茶を注ごうとするリリへと、慈悲深くも冷徹な視線を向けた。


「リリス、手元が乱れていますよ。……アオイ、ハル。この娘の最初の『調律』、どちらから始めますか?」


その言葉に、アオイがふわりと立ち上がった。

アオイの身体は、長年の鍛錬と退行を経て、極限まで無駄を削ぎ落とされた「武の結晶」である。歩く際にもかかとが一切浮かず、常に重心が下腹部タンデンに固定されているため、ドレスをまとっていてもいつでも相手をほふれる獣のしなやかさがあった。


「私からいきましょう、シズ。まずはこの魔族の小娘に、サブライム家の『身体管理メンテナンス』がどういうものか、骨の髄まで教えてあげるわ」


アオイは妖艶に唇を吊り上げると、リリの細い手首を掴み、そのまま地下の特製施術室へと引きずっていった。

地下の密室は、ほの暗い蝋燭ろうそくの光と、妖しいハーブの香りに満ちていた。

中央の台にうつ伏せに拘束されたリリの背中に、アオイは最高級の特製オイルを容赦なくぶちまける。


「ひゃんっ!? つ、冷たっ……!」


「冷たいのは最初だけだよ、小娘。さあ、大人しくおし」


アオイの細く、しかし鉄のような強靭さを持つ指先が、リリの褐色の背筋に突き立てられた。

武闘家として人間の、そして魔族の「急所」や「経絡けいらく」を完全に知り尽くしているアオイのマッサージは、生半可なものではなかった。

親指一本で、リリの魔気の流れを完全にき止め、次の一瞬で、脳に直接激痛と快楽を同時に叩き込む。


「あぐっ……あ、ああぁぁっ!? 何これ、痛いっ、痛いのに、身体が熱くて、変になっちゃうぅぅ!!」


「ふん、サキュバスの分際で、この程度の刺激に耐えられないのかい? ほらほら、ここが凝ってるねぇ!」


アオイの容赦のないひじが、リリの腰元、漆黒の翼の付け根へと容赦なくねじ込まれる。

千年の時を生き、治癒魔法を持つリリであったが、アオイの指先から放たれる精密な武技の前には、肉体を再構築する暇さえ与えられない。ただただ、その圧倒的な「肉体の暴力」と「快感の飴」の波に、身をよじることしかできなかった。


「……さて。次は貴方の番だよ、カイル」


アオイが寝室の隅で直立不動のまま、冷や汗を流して待機していた伴侶カイルへと首を向けた。

アオイの目が、獲物を見つけた肉食獣のように爛々(らんらん)と輝く。

それを見たカイルは、恐怖に歯をガチガチと鳴らしながらも、下腹部に抑えきれないはげしい衝動を感じていた。


「は、はい……アオイ様……!」


ここからは、サブライム家の婿養子だけに許された(そして課せられた)、常軌を逸した『Mバイオレンス思念共有瞑想空間(営み)』の始まりだった。 アオイはカイルを組み敷くと、その胸元に鋭い爪を立て、あえて浅い傷を刻みつける。 痛みが走る。しかし、次の瞬間、アオイの口唇くちびるから注ぎ込まれる濃厚な唾液と魔気によって、その傷は一瞬で癒え、代わりに脳を焼き尽くすような快楽へと変換される。

アオイの繰り出すあそびは苛烈を極めた。

殴る、蹴る、踏みつけるといった暴力の嵐。しかしそのすべてが、カイルの肉体を破壊せぬよう、極限のコントロールで放たれる「究極の愛撫あいぶ」なのだ。

カイルの脳内には、アオイの「お前は私の犬だ。私の所有物だ」という冷徹な思念が直接流れ込んでくる。

恐怖と痛みの限界の先で、脳内麻薬が過剰に分泌され、カイルの視界は真っ白に染まっていく。アオイの無駄のない筋肉の躍動、その汗の匂い、そして自分を支配する絶対的な力に、カイルは魂の底から歓喜し、絶頂の悲鳴を上げた。

台の上で、アオイの凄まじい調教を特等席で見せつけられていたリリは、その異常な光景に完全に精神を叩き潰されていた。


(な、なんなのこの家族……! 男の人が、あんなにボロボロにされて、なのに……なのに、あんなに幸せそうな顔をして果てるなんて……。狂ってる、人間の方が、私達サキュバスなんかより、よっぽど悪魔じゃないのぉぉ……っ!!)


恐怖と興奮で、リリの褐色の肢体は寝汗と自身の体液でドロドロに汚れ、再び意識を失いかけていた。

調教メンテナンスが終わり、夕刻。

リリは魂の抜けたからのようになりながら、今度は次女ハルの自室へと連行されていた。

ハルの部屋は、アオイの部屋とは打って変わり、奇妙な計器と、魔力の数式が刻まれた結界けっかいの光で満ちていた。

ハルは部屋の中央で、細い指先をタクトのように小さく動かし、空気中に浮かぶ不可視の精神波を解析していた。

彼女が動くたび、その鮮やかな金髪の毛先から、冷徹でありながらもどこか男を狂わせる「解析者のフェロモン」が微かに漂う。

ハルは入ってきたリリと、その後ろに従う伴侶ガイへと、網膜を直接刺すような三日月型の目線を向けた。


「くふふ……。アオイの身体調教で、随分と良い『素材』になったようですね、リリ。……さあ、次はわたくしの『精神解析(調律)』の時間です」


ハルが指先をスッと前に突き出すと、空間がドロリと歪み、リリの脳内に直接、幾何学的な魔力数式がねじ込まれた。


「あ、あぁぁ……っ!? 頭の中に、何かが、直接入ってくるぅ……っ!!」


それは、ハルによる絶対的な「思考の支配」だった。

リリの千年の記憶、サキュバスとしての恥ずかしい本能、そのすべてがハルの脳内へとリアルタイムでダウンロードされ、仕分けされていく。

ハルは、怯えるリリの耳元に顔を寄せ、底冷えするような声で囁いた。


「貴方がカイルに抱いた、その些細ささいで生意気な恋心も、すべて解析済みですよ。……サブライム家において、婿養子は姉たちのもの。貴方はただ、シエルの愛玩おもちゃとして、その可愛い身体を捧げていれば良いのです。……ねえ、ガイ?」


後ろに控えていたガイが、ハルのその網膜を刺すような視線を受けた瞬間、ビクンと身体を震わせた。

ガイもまた、ハルのこの冷徹な「精神のおり」に囚われた一人。

ハルが指先を小さくはじくと、ガイの脳内に直接、凄まじい精神的快楽ペイン・アンド・プレジャーのパルスが送り込まれる。ガイは声を上げることも許されず、ただ壁に背を預け、ハルの冷たい目線だけを見つめながら、静かに法悦ほうえつの極みへと落とされていった。

飴と鞭、肉体と精神の二重の調教。

リリは、ハルの足元に崩れ落ち、その美しい金髪から放たれる圧倒的なオーラに、ただただ涙を流して平伏するしかなかった。

その夜。すべての調教を終えたリリは、フラフラになりながらも、主たちの夜の営みの給仕きゅうじのために、シズの広大な寝室へと呼び出されていた。

寝室のベッドの上では、日中の過酷な調教から解放されたカイルとガイが、正妃シズの手によって、さらなる「しつけ」を受けている最中であった。

シズは白磁はくじのような美しい肌を惜しげもなくさらし、二人の男を同時に手玉に取っていた。その動きはどこまでも優雅で、まるで夜の闇を統べるきさきそのもの。

シズは、男たちの欲望を極限まで昂らせ、彼らが果てる直前の瞬間、寝室の入り口で呆然と立ち尽くしていたリリへと、冷徹な微笑みを向けた。


「リリ、よくご覧なさい。これが、サブライム家の『本能の調律』です」


「あ、あ……」


シズは極限まで高まった男たちを、アオイとハルへとそれぞれ引き継がせる。

アオイの肉体が獣のように躍動し、ハルの瞳が怪しく光る。

眼前で繰り広げられる、人間の枠を超えた、神々しくもドロドロとした淫靡いんびな狂乱の光景。

シズは白銀の髪を持つシエルをそっと抱き寄せ、その細い指先でリリの顎を持ち上げた。リリの口元からは、だらしなく唾液が垂れている。


「貴方も、すぐにこの至高サブライムの流れの一部となるのですよ。……シエル、この可哀想な小娘に、貴方の慈悲を与えてあげなさい」


「はい、シズ様。……リリ、もう怖がらなくていいからね」


シエルが優しくリリの手を取り、ベッドへと引き寄せる。

時空の隙間から、駿様の温かい『思念』が、この至高の一族の繁栄を祝福するように優しく見守っていた。

リリは己のサキュバスとしての本能が、サブライム家の底知れぬ愛と暴力の深淵しんえんに、完全に溶かされていくのを自覚しながら、シエルの腕の中へと堕ちていくのだった。




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