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二百代目勇者、今日は低気圧につき休みます  作者: 灯吉郎


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第九話 雨宿り

──同刻。


魔王領。


「魔王様! 今代の勇者が、“はじまりの村”へ到達した模様です!」


玉座の間に、緊張が走る。


「……なんだと」

「ついに、来たか……」


側近たちが、ざわめいた。


「……そうか」



──いよいよか。




外では、雨が降っている。


「……本当に降ってるっすね……」


クロウが、弓の手入れをしながら窓の外を眺める。


窓を伝い、雨粒がひっきりなしに流れていく。


時折、遠くで雷が鳴った。


パタパタと、廊下を走る音がする。


「……あ、スイちゃん。どうです、コンさんの様子は」


「はい。頭痛に効くハーブを焚いて、首を蒸しタオルで温めて来ました」


「ドーガさんは」


「古傷なので、そちらも蒸しタオルで温めています」


「ホントに大変っすねぇ。スイちゃんは? 大丈夫っすか?」


「はい。早めに休めば大丈夫です」


「無理はしないでくださいよ。なんかあったら、俺が代わるんで」


「ありがとうございます、クロウさん」


クロウの言葉に、スイが微笑む。


「落ち着いたかの」


厨房から、紅茶を持ったラナが出てきた。


それぞれの前に置き、焼き菓子を添える。


「はい。ふたりとも、しばらく寝るそうです」


「それが良かろうな」


頷き、ラナが紅茶を口にする。


「この雨が上がれば、またしばらく晴天に恵まれるからの」


「あと二日の予定でしたっけ。早く上がるといいっすね」


「本当に……」


スイが、窓の外を眺める。


雨足は、依然として強かった。




「……?」


クロウが顔を上げる。


雨音に紛れていたが、僅かに異質な気配が混ざった。


クロウのスキル《危機察知》が違和感を伝える。


「……索敵」


スキルを展開させる。



「……え、クロウさん」


「ちょっと見てきます」


クロウが静かに立ち上がる。


「ひとりで平気かの?」


「大丈夫っすよ。敵も一匹なんで」


ひらりを手を振り、外に出る。



「……居た」


村の柵の向こう側に、ゆらりとした影があった。


「……シャドウハウンド」


目を細める。


宿屋の塀に足を掛け、一飛びで屋根へ上がる。


敵は、雨の中で揺らめきながら静止していた。


「……」


クロウの唇から、僅かに舌が覗く。


弓を引き絞り、角度を上げる。


矢を番え──放つ。


「ギャン」


放物線を描いた矢が、シャドウハウンドの右目を射抜く。


影は、霧のように消滅した。


「……索敵」


念のため、周囲を確認する。


「……居ないっすね」


屋根から飛び降りる。


「っあー、びしょびしょだ……」


(湯殿があって、助かるっす)


クロウは、何事もなかったかのように宿へ戻った。



「クロウさん……! 大丈夫でしたか!?」


スイが立ち上がる。



「うん、大丈夫。やっぱり一匹だったよ」


クロウが頷き、そのまま座るよう促す。



「びしょびしょだの。早く湯殿へ行くが良い」


「そうします。ホント、雨酷いっすね」


ひらりと手を振り、湯殿へ向かう。



「軽食でも用意してやろうかの」


「あっ。私も手伝います……!」


「ふむ。ついでに昼飯とするか」


「そうですね。コンさんたちは、お粥でいいかな……」


頷き合い、二人は厨房へ入った。




魔王領。


「魔王様! 四天王《林》シオン様より、斥候として放っていたシャドウハウンドが討たれたとの報告が──」


「なに。勇者か」


「いえ、それが……弓使いにやられたとのことで──」


ざわり、と空気が揺れる。


「なんと……勇者ではなく……」


「仲間も相当な手練れということか……」


「勇者は、高みの見物ということか」


「いえ──それが」


「早く申せ」


「はっ! その……勇者は、“低気圧により、部屋で寝ていた”そうです!」


「なん……だと?」


「見せかけでは……?」



「……とにかく、監視は継続だ。シオンにも、そう伝えよ」


「はっ!」


──勇者め。


我ら魔王軍を、侮辱しているのか……?




「……コンさーん、お粥が出来ましたよ……」


そっと扉を開け、中へ入る。


「うぁ……。ありがと、スイ」


まるでゾンビのように起き上がり、勇者が頭を下げる。


「いえいえ。辛い時はお互いさまですから……」


サイドテーブルへ、お粥が乗った盆を置く。



「熱いので、気をつけてくださいね」


「うん……」


ベッドへ腰掛け、スプーンを持つ。


ひとすくいすると、湯気が立ち上った。



「ホント熱そう……」


「ゆっくり、ふーってするといいですよ」


スイが、勇者のスプーンへそっと息を吹きかける。



「あっ……ご、ごめんなさい……!」


「謝らなくて良くない? 助かったし」


「そうですか……?」


「うん。ほら、美味しい」


勇者が、お粥を口へ運ぶ。


「ね」


「なら、良かったです」


スイが微笑み、勇者も小さく笑った。


「……あの、タオル。替えて来ますね」


「うん。ありがとう」


タオルを受け取り、スイが部屋を後にする。


(わ、私ったら……!)




「わっ」


「きゃ……!?」


一階に降りたところで、湯殿から戻ったクロウと鉢合わせる。


「あ、クロウさん……!」


「スイちゃん。……なんか、顔赤くないっすか? 熱とかは……」


「い、いえ! 大丈夫です! あ、お昼食べましょう!」


「うっす……?」


首を傾げながらも、クロウがスイの後へ続く。


「戻ったか。ドーガにも食事を渡して来たでな。食べよう」


「はい」


「あざっす」


三人でテーブルを囲む。



「あ。これ、北風鳥っすね」


煮込まれた鳥を食べて、クロウが目を細める。


「お粥の出汁にも使えましたし、いいですね。北風鳥」


「厨房にあったものは下処理が済んでおったが、空を飛ぶ姿も力強かったの。北風鳥」


「なんなんすか、流行ってるんすか? その言い方」


それぞれが、難所に思いを馳せる。



「そういえば、コンさんが幌馬車を欲しがってましたね」


食後の紅茶を飲みつつ、クロウが呟く。


「そうじゃの。魔王領までは遠いからの、徒歩ではきつかろう」


「てことは、次の街で本格的に稼ぐ予定なんすかね?」


「その予定じゃの」


「幌馬車って、結構高いっすよね……」


「まぁ、討伐依頼があれば、それなりじゃろう」


「討伐ですか……」


スイが、不安げに眉を下げる。


「まあ、ダイならば無茶はするまい」


「そっすね」


「そうですよね……」


三人が、温かな紅茶を口にする。


外では、相変わらず激しい雨が降っていた。



──勇者一行、雨天により停滞中。


“はじまりの村”での時間は、まだ続きそうだった。


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