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二百代目勇者、今日は低気圧につき休みます  作者: 灯吉郎


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第八話 はじまりの村

その毛並みは荒々しく、唸る口元から鋭い牙が覗いている。


「はぐれウルフ……」


「どうします? 俺、麻痺矢ならありますけど」


「足止めなら、わらわがやろう」


クロウとラナが告げる。


「ドーガ、スイを盾で守って。たぶん敵のレベル、十四くらいだと思うから」


「かしこまりました」


スイがゆっくりと下がり、ドーガが背負っていた盾を構える。


「ラナは右から牽制。クロウは左目を狙って」


「うむ」


「分かったっす」


二人が静かに位置を変え、勇者が剣を抜く。


クロウが麻痺矢を番え、ラナが手を伸ばした。



「──今」


「氷よ、貫け」


勇者の声と同時に、クロウの矢が放たれる。


ラナの氷が、はぐれウルフの足元を凍らせる。

そこへ、クロウの矢が左目を射抜いた。


「ギャッ!」



苦悶に吠える、はぐれウルフ。

勇者が一気に踏み込み、喉元へ鋭い一撃を放つ。


跳ねた首が、どさりと地面へ落ちた。



「いやぁ、麻痺矢って凄いね。助かったよ」


「いや、今の麻痺矢要りました!?」


「いるいる」


「必要じゃったな」


「そっすか……?」


クロウのツッコミに、勇者とラナが揃って頷く。



「……このウルフ、どうします?」


気を取り直し、ロープを用意しながらクロウが尋ねる。


「頭は要らないと思う。胴体だけ村に持ち込んだら、買い取ってくれるかな?」


「血抜きがてら行きますか」


林から太めの枝を拾い、はぐれウルフをロープで固定する。



「俺が持つんで、最後尾いきますね」


「ありがとう、クロウ。じゃ、進むね」


林の奥を覗き込む。


「索敵」


勇者が、スキルを展開する。


「うーん。同じ感じのが、ちらほら居そうだなぁ」


「あんまり多いと、運び切れないっすよ」


「馬にもストレスが掛かるでしょうな」


「うーん……」


しばらく考え込む。


「……俺が全部倒してくるから、みんなは後で来る?」


「嫌っすよ。重量オーバーしそうですし」


「生態系を壊すな」


「夕方までに辿り着きませんぞ」


口々に却下された。



「仕方ない。到着優先で、来たやつだけ倒す」


「妥当じゃの」


「じゃあ、出発」


「ちょっとテンション落ちてないっすか?」


しぶしぶ歩き出す勇者を見て、クロウがまた笑う。



背の高い木々に覆われた林には、辛うじて整備された道が続いていた。


「この辺、あんまり整備されてないね」


「ここには、先ほどのウルフが出ますからな。商人たちは、遠回りして別の街道を歩いております」


「なるほどね。そっちは遠いんだ」


「この先の村は、小さいですからな。さらに西へ進めば街がありますので、そちらの方が人気ですな」


ドーガの言葉に勇者が頷く。



「ちなみにじゃが、わらわたちは先の村で、しばし滞在することになりそうじゃ」


「何かあるんすか?」


ラナの言葉に、クロウが首を傾げる。


「そうだった、“三日”だ」


「分かりますぞ、そろそろですな」


「な、何があるんすか……」


「雨だよ」

「雨じゃ」

「雨ですぞ」

「雨ですよね」


「……なんで、みんなハモるんすか」


謎の連帯感に、クロウが引く。



「まぁ、みんな色々あるんだよ」


勇者が、そのまま歩みを進める。



「あー。そっか、コンさんとドーガさんは、雨デバフ持ちですか。あ、スイちゃんもか。……納得したっす」


後ろから、クロウの声がする。


「すごい、よく覚えてたね」


「いや。同じパーティ状態でフル見せてもらってたら、あとから見返せますよ」


「あ、そうなの? 知らなかった」


クロウの言葉に、勇者が首を傾げる。


「便利だね」


「そうなんすよ。あの一瞬じゃ、さすがに覚えきれないっすからね」



「……あ、前方。来る。たぶん、はぐれウルフ一匹」


勇者が立ち止まる。


「どうする?」


「俺だけでいいかな。ラナ、馬お願い。前出る」


「よかろう、預かる」


ラナが、手綱を引き受ける。


勇者が一歩踏み出す。


がさり、と音を立てて、林からはぐれウルフが姿を現した。


「先手必勝……」


勇者の剣が閃く。


「ギャッ!」


はぐれウルフの右足を切り裂く。


「あー」


「残念そうにするでないわ」


「変な縛りでもしてるんすか?」


後方から、野次が飛ぶ。


「もう一回……」


よろけるはぐれウルフの首を狙い、斬り落とす。


そのまま林へ入り、枝を見繕う。


ロープで括り付け、クロウへ預けた。


「もう、俺はここまでっす」


「もうふた声!」


「……左右二匹ずつにしたいんすね?」


「バランス良いじゃん」


「……追加一匹につき、いちゴールドっす」


「うーん……保留で」


「そうしてください」



ラナから手綱を受け取り、再び歩き出す。


「なかなか先が見えないね」


「もう少し、速度を上げても良いぞ」


「私も大丈夫です!」


勇者が目を凝らすが、薄暗い林の先はまだよく見えない。


後ろから、ラナとスイが声を掛ける。


「分かった。少し速度上げるね」


勇者が頷き、歩みを速める。



やがて、薄闇に包まれていた林の先に、切れ目が見えてきた。


「良かった、やっと終わりそうだ」



安堵からか、また歩みが速くなる。


林の奥から、西日が差し込んだ。


やがて林を抜けると、視界いっぱいに草原が広がる。


「抜けたーー!」



思わず、小走りになる。


少し丘になった先に、煙が見えた。


さらに進むと、村を囲う柵が姿を現す。


「なんとか、日暮れ前に着きましたな」


「良かったー!」



簡素な門をくぐり、村へ入る。


「……! あの額の宝石、マント……! まさか、あなた様は……!」


「こんにちは。今代の勇者です」


わななく村人に向かって、右手を挙げる。


その声を聞きつけた村人たちが、わっと集まってきた。


「勇者様! 勇者様だ!!」


「ようこそ勇者様、“はじまりの村”へ!」


「お疲れでしょう。まずは宿へご案内致します」


「ささ、こちらへ!」


「あ、ありがとう」


驚いている間に促され、手綱を預ける。


クロウが背負っていた、はぐれウルフも回収されていった。


「……あの、三日ほど滞在したいんですけど……」


村の中を案内されながら、勇者が告げる。


「なんの。勇者様御一行でしたら、いつまででも無料ですとも。遠慮なさらず」


「えっ。そうなの?」


「そうですとも。それが、“古くからのしきたり”ですので」


そのまま、宿屋へ入る。


「五名様ですな。三階と二階、お好きな方をお使いくださいませ」


「湯殿は一階にあります」


「食堂も一階です」


「後ほど、村長が食堂へ参りますので」


口々に説明される。


「は、はい。……どうも」


「こんな歓迎されるモンなんすね……」


「わらわとスイは、三階にしようかの」


「お任せします……」



部屋に荷物を置き、湯に浸かる。


用意されていた夜着を纏い、食堂へ入った。


「勇者様ーー!」


「ばんざーーい!」


「“はじまりの村”へ、ようこそ!」


「わあっ!」


村長を始めとした村人たちで、食堂が埋まっていた。


「ささ、こちらへ!」


「お仲間の方々も、どうぞ!」


「はい……」


「ひゃー。宴会っすね!」


「豪勢じゃの」


「恐れ入りますな」


村長の隣に勇者が座り、その隣へスイ、ラナ、クロウ、ドーガの順で腰を下ろす。


「では、勇者様の到着を祝って……乾杯!」


「かんぱーーーい!」


注がれたエールを、促されるまま口にする。


「ささ、勇者様! 料理も、冷めないうちに」


「ありがとう! 頂きます!」


“はじまりの村”の夜は、まだ始まったばかりだった。



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