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二百代目勇者、今日は低気圧につき休みます  作者: 灯吉郎


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第七話 国境の先

「そんじゃ、行きましょうか」


軽く膝を曲げ、ぐっと伸ばす。


弓を持ち、渓谷に向かう。


「コンさんたちは、橋の手前で待っててください」


手で示し、ひとり吊り橋を歩く。


北風鳥が、旋回を始める。


キリ、と音を立てて、弓を引く。


北風鳥が一匹、降下する。

射抜かれた魔物が、川へと落ちた。


上空の群れが、警戒するように旋回を始める。


次は、二匹。


クロウの唇から、舌が覗く。


矢を二本番え──放つ。


放物線を描いた矢が、風に乗る。


吸い込まれるように──二匹へと突き刺さった。


一匹が、川へ落ちる。


もう一匹は、クロウの前へ落ちた。


ゆっくりと拾い上げ、振り向く。



「そろそろ前進しますんで、渡っちゃってくださーい」


吊り橋の中央で手を振り、背を向けて渡る。


北風鳥の警戒した鳴き声が、渓谷に響き渡る。



「ありがとー!」


勇者が手を振り、馬を引く。



「……かなりの手練れじゃの」


「ええ。見事な腕前ですな」


ラナが感心したように唸り、後ろのドーガも頷いた。



勇者と馬が、吊り橋の半分を越える。


クロウが、弓を引いた。


それだけで、上空の北風鳥たちが警戒の鳴き声を上げる。



「警戒して、降りて来ない……!」


「効果は抜群じゃの」


「すごいねぇ」


馬が興奮することもなく、橋を渡り切った。



「ありがとう、クロウ! 助かったよ」


「いえいえ。俺も北風鳥一匹取れたんで、ツイてました」


そう言って、クロウが勇者の後ろへ合流する。



「俺、この位置でいいっすか?」


「うん、バッチリ! じゃ、進もう」


勇者が頷き、再び歩き出す。


うっすらと、霧が出てきた。


「ちょっと見通し悪いっすね……」


「そうだね。でも、大したやつは居なさそうだから」


「そっすね。ワイルドボア出たら、任せます」


「うん」


霧はあるものの、木々はまばらに生えているだけだった。


「もうしばらく歩くと、古い結界石が見えてくるはずですな」


「へー。てことは、もう機能してないんだね」


「昔の防衛線でしたからな。今も兵はおりますが、ほぼワイルドボア狩りになっております」


「ドーガが居たところ?」


「含まれておりますな」


「なるほどねー」


やがて、眼前に結界石が見えてきた。


国境に沿うように、巨大な石が並んでいる。


「俺の身長より大きいなぁ」


「簡単に倒されては困りますのでな。大きく、かつ地下にも深く埋められておりますぞ」


「運ぶのも大変だったろうなぁ……」


興味本位で、結界石に触れる。



表面に刻まれた紋様が、淡い緑に光った。


やがて、その光は静かに消える。


「おー。光った」



「ダイ殿の、“勇者の血”に反応したようですな」


「珍しいものを見たの」


ドーガとラナが、結界石を見つめる。


「綺麗で、不思議な光でしたね……」


少し離れた場所から、スイが呟く。



「もう一回触ってみます? コンさん」


「兵士来たら嫌じゃん、やめとく」


「ですよね」


想定内の答えに、クロウが笑う。


「じゃ、進むよ」


結界石を後にし、国境へと近づく。



「検問とかないの?」


「そこまで厳密なものは、ありませんな」


「本当に、ワイルドボア狩りがメインなんだね……」


崩れた防壁を避けながら、先へ進む。



「おや、あなた方は……」


国境警備兵が、こちらに気づいた。


「異変はないか?」


「これは、ドーガ様……! はっ。異変なしであります!」


「うむ。これからも励め」


「はっ。感謝致します!」


互いに、王国式の敬礼を交わす。



「では、参りましょう」


「うん」


こうして、勇者一行は国境を越えた。



「この先に丘があります。そこで休憩してはいかがかな」


「いいね。ちょうどお腹も空いてきたし」


ドーガの提案に、勇者が頷いた。



荒れた国境地帯を抜け、風景が爽やかな草原へと変わっていく。


緩やかな坂を上り、丘へと辿り着いた。


「ここだね」


小さな木に、手綱を結ぶ。


勇者が周囲の枝を拾い集め、ラナが火を灯す。


スイが、そっと鍋とコップを出す。


「慣れてますね」


その様子に、クロウが目を細める。


「そう見えるなら、嬉しいな」


パンを配りながら、勇者が嬉しそうに呟く。


「まだ出来たてのパーティですからな」


ドーガが、昨日干した魚を配る。


「あ。俺は大丈夫っすよ、ドーガさん」


自分の分を渡そうとしたドーガを、クロウが止めた。


「携帯食もありますし、先に北風鳥を絞めたいんで。ちょっと向こう行ってきます」


指したのは、川辺だった。


「分かった、行ってらっしゃい」


勇者が、ひらりと手を振る。



ラナが、沸いた湯に圧縮した野菜を入れて戻す。


それをカップへ注ぎ、それぞれに渡した。


スイが受け取り、ゆっくりと口をつける。


「温かくて、美味しいです……」



勇者が、少し固くなったパンを浸して食べる。


「今度からさ、パンはラナに収納してもらいたいんだけど」


「構わぬぞ。次の村にあれば良いが」


「今日のうちに辿り着きたいですな」


「そんなギリギリになりそうな距離なの?」


土煙を立てないよう、少し離れた場所へ移動して立ち上がる。


そして、前方を見渡した。


「うーん……確かによく見えない。遠いね」


丘からの見晴らしは良かったが、その先には再び林が広がっており、村の姿は見えない。


「夕方には着くと思いますが……」


「食べ終わったら移動しようか」


「分かりました」


勇者が食事を再開し、スイが頷く。



やがて、クロウが戻ってきた。


「やぁ、すみません。戻りました。……そろそろ行きます?」


「うん。夕方までに、次の村に行きたいし」


「分かりました。えーと、ラナさん?」


「なんじゃ」


「この鳥、解体したんで収納して貰ってもいいですか?」


北風鳥の肉を見せる。


「……増えておらんか?」


「ちょうど、向こうに群れが居たんすよ。ツイてました」


「それは行幸じゃの」


鳥肉を預かった。


「よし、じゃあ行こうか」


手綱を解き、歩き出す。


「村には、勇者向けの宿があるはずですので、そこまで頑張りましょう」


「さすが勇者、便利っすね」


ドーガの言葉に、クロウが感嘆の息を吐く。



丘を下り、背の高い林へ差しかかった、その時。


草むらを掻き分けるように、魔物が飛び出してきた。


「……はぐれウルフ」



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