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二百代目勇者、今日は低気圧につき休みます  作者: 灯吉郎


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第六話 いちゴールド

翌朝。


寝袋を畳み、干していた魚を回収する。


荷物を乗せて、手網を解く。


「お気をつけて!」


「ありがとう」


兵士に手を振り、砦を後にする。



左右に背の高い木があり、視界が狭くなる。


「この先に出る魔物って、どんなの?」


のんびり歩きながら、勇者が問いかける。


「そうですな、この辺りならば、まだカラースライムと一角ウサギが多いですが……」


後ろからドーガが答える。


「問題は、この先。渓谷の吊り橋なのですが、風向きによっては、鳥の魔物が増えますな」


「風向きによるんだ?」


「そういう習性のようで。北風に乗って飛来して来ますな」


「へー、なるほどね」


「この渓谷だけのようなので、通称“北風鳥”と呼ばれておりますな」


「分かりやすいね」



話の間にカラースライムが飛び出し、ラナの魔法とスイの一撃で倒れる。



「……対空戦になったらさ、ラナ頼みだよね?」


「斧の間合いに来れば、落とせますぞ」


「とりあえず、行ってみるか……」



しばらく歩く。


時折出るスライムを倒し、また歩く。


やがて、風の音が変わる。


土の匂いに、水が混ざる。



「わぁ……壮観だなぁ」



切り立った崖に、幅は広いものの、どこか頼りない吊り橋がひとつ。


眼下には、流れの速い川が見える。


ゴツゴツした岩が、川の流れを複雑にしている。


見上げれば、確かに鳥の影があった。



勇者が、慎重に手綱を引く。


「……じゃ、ゆっくり行くね」



吊り橋が、ぎし、と音を立てる。


「これ、襲われたらひとたまりもないんじゃ……」


おっかなびっくり歩きながら、杖を抱いたスイが呟く。



その時、上空を飛んでいた鳥が旋回し、馬目掛けて飛来した。



「氷よ、貫け」


「ギャッ!」


氷が北風鳥に当たる。


フラついた鳥が、軌道を変えて飛び去る。



「ナイス、ラナ!」


「油断するな、まだ来るぞ」


先ほどの鳥が、また来た。


さらに、別の鳥も馬を狙って飛来する。


「勇者よ、進むなら疾く行け」


「わ、待って……! 馬が」


魔物に狙われていると悟った馬が、前足を上げる。


「きゃぁっ!」


吊り橋が揺れ、スイが悲鳴を上げる。


「揺れて狙いが定まらん!」


「どうしよう!」


「致し方ありませぬ、一度後退しましょう!」


「わかった!」


ドーガが下がり、ラナ、スイが続く。


陸へ戻ったラナが魔法を放ち、その間に勇者が馬を宥めながら後退する。



「勇者殿、まだ来ますぞ!」


ドーガが警告を発する。


ラナが魔法を放つが、もう一匹に対応出来ない。



──そのとき。


一本の矢が、北風鳥を射抜いた。


「ギャッ!」


北風鳥が、川へと消える。


他の北風鳥が、警戒の旋回を始める。


「……いまの、どこから?」


「やー、危ないとこでしたね! ……矢だけに!

……なんつって!」


後ろから、やけに明るい声がした。



「……キミが、助けてくれたの?」


勇者が、後方へと向きを変える。



「そっすよ、危なかったんで」


そこには、背の高い、ひょろりとした男が立っていた。


指先の出たグローブに、手には弓。


少し長い髪が、渓谷の風に揺れている。



「ありがとう、助かったよ!」


勇者が、手を差し出す。


「あ、どーも。いちゴールドです」


「……え?」



渓谷の風が、吹き抜ける。



「……こちらを」


ドーガが、懐からゴールドを取り出し、渡す。



「毎度!

……ところで、さっきの見てたんすけど、ここ渡りたいなら反対側まで護衛しましょうか?」


「お主、ここを生業にしておるのか」


ドーガの質問に、頷く。



「そっすね。狩人なんで。

北風鳥落として、行商人に売ったり、臨時雇いで往復したり」


「値段は」


「さっきと同じっす。

北風鳥を一匹落としたら、いちゴールド。一匹も落とさなければ、無料ってことです」


右手を上げる。


親指と人差し指で、丸を作る。


「どうです? 割とお得だと思いますけどね」


一拍置いて、続ける。


「馬連れなら、安いもんだと思いますけどね」



「……確かに……」


勇者が頷く。


「ちなみにさ、キミ」


「あ、名前はクロウっす」


「クロウ。一緒に旅しない?」



上空から、鳥の鳴き声が木霊する。



「……えーと、確認なんすけど」


「うん」


勇者が頷く。



「……勇者パーティっすよね?」


「うん」


もう一度頷く。


「……マジっすか……」


髪に指を差し込み、くしゃっとかき混ぜる。


「ここ離れたくないなら、無理には誘わないけど」



「うーん、嫌って程でもないんすよね……」


今度は腕を組み、唸る。



「……ちなみにですが」


ドーガが告げる。


「……王国からの支度金」


「……支度金……? あるんすか?」


「ありますぞ」


頷く。


「……いくら?」


「三十ゴールドですな」


「乗った。よろしく勇者様」


「えっ」


勇者の手を、ギュッと握る。



「で、換金って王国戻る感じっすか?」


「少し先になりますが、次の街に酒場がありますのでな。

勇者パーティとなれば、そこで受け取れますぞ」


クロウの問いに、ドーガが答える。



「戻ってもいいけど」


「いや。このまま進んで大丈夫っす。

パーティ組むなら、フルオープンしときます?」


「ありがとう」


嬉しそうに勇者が頷いた。



渓谷から少し離れ、馬を繋ぐ。


ドーガ、ラナ、スイ、勇者が、それぞれステータスを明かす。



「……ええ。スイちゃん以外、壊れてんじゃないすか……」


「わらわは、ハーフエルフ故な」


「俺は勇者だから」


「その理屈、よく分かんないっすね」


クロウは苦笑し、気を取り直してステータスを開く。



【クロウ】

種族:人間、職業:狩人

年齢:24、レベル:27

HP:中、MP:低

筋力:C、耐久:C

敏捷:A、魔力:D

器用:A


保有技能:

・弓術Lv6・索敵Lv5・気配遮断Lv4

・危機察知Lv4・解体Lv4・追跡Lv3

・野営Lv3・馬術Lv2


状態:

《北風渓谷育ち》

渓谷・森林地帯で索敵補正


称号:

《北風鳥狩り》《渓谷の案内人》



「そういえば、勇者様って名前変わってますよね。なんて呼べばいいんすか? コンさん?」


コンさん。



「そういえば、今まで“今代”とか、“勇者”ってしか呼ばれてなかったな。

クロウが呼びやすいやつでいいよ」


「じゃ、コンさんで」


勇者とクロウが頷き合う。


「わ……! 私も、コンさん、って呼びたいです!」


両手を握りしめ、スイが叫ぶ。


「ありがとう、スイ」


「はい!」


「では、わらわは“ダイ”とでも呼ぼうかの」


「おやおや。では儂も、ダイ殿でいきましょうかの」


「あはは、ふたつに割れてる」


勇者の楽しげな笑い声が、渓谷の風に流れていった。



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