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二百代目勇者、今日は低気圧につき休みます  作者: 灯吉郎


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第二十一話 馬車市場

「こないだ、教会へ行ったろ?


あの通りのさらに右奥に、上級商人街と《馬車市場》があるんだ」


雨上がりで艶を増した石畳を踏みしめながら、ジンを先頭に勇者たちが歩いていた。



「なるほど……。いい馬車があるといいなぁ」


のんびりと後ろをついて行きながら、勇者が頷く。


「そうだな。貴族も上級商人も、定期的に買い換えるからな。それなりのやつはあると思うけどな」


問題は、乗車人数だった。


一般的な貴族の馬車は四人乗りが主流で、上級商人は人よりも荷物を運ぶ物ための馬車を好む。


勇者たちが探しているのは、六人乗りだ。


(……貴族向けの大人数用が、都合よく中古で売られてるか……)


「今日のお昼、またジンのおすすめの定食屋さんに行きたい」


「そうだな、そうするか」


相変わらずのんびりした勇者の言葉へ、ジンが頷いた。



市場を抜けて、綺麗に整備された区画へ再びやって来た。


教会前を通り、上級商人街へ足を踏み入れる。


広い石畳の道の両側には高級品を扱う店舗が並び、やがて右手にロープで区切られた馬車が見えてきた。


「ほぉ。綺麗なものじゃな」


ラナが、感嘆の声を上げた。


最新型の馬車が、整然と並んでいる。


塗装が施された車体は艶やかに輝き、大きな車輪がそれを支えていた。


「ま、俺たちには無縁な馬車だな。古いやつはもっと奥だ」


凝った装飾を横目に見ながら、一行は奥まった場所へ並ぶ中古馬車を目指して歩く。


「よぉ、ジン。


珍しいな、とうとう馬車を買うのか?」


馬車市場の男が、ジンを見つけて声を掛けた。



「おう。まぁな。

 六人乗りの中古を探しに来た」


ジンが片手を上げる。


「さらに、“勇者パーティ”用にカスタムしたいんだが」


馬車市場の男が、その言葉を聞いて目を見開いた。


「てことは、ジン。


……お前、とうとうパーティを組んだのか」


「……まぁな。下町の連中にも、随分驚かれた」


ジンが肩をすくめる。


「そりゃそうだろ。


……まぁ、分かった。そういうことなら、こっちで話を進めよう」


男が商談用の建物へ、ジンたちを招く。


「良かったら、お連れさんたちも」


その言葉へ、ドーガが頷いた。


「では、お言葉に甘えて」


「俺、もうちょっと馬車観てる」


「じゃあ、俺も付き合いますよ」


勇者が馬車を眺めながら告げ、クロウがジンへ声を掛ける。


「よろしく頼む」


ジンが片手を上げ、建物の中へ入っていった。



建物内の案内係が、人数分の紅茶を配る。


頃合いをみて、先ほどの男が口を開いた。


「……なるほど。カスタムしたいのは、寝台か」


ジンが頷く。


「ああ。上に野郎が三人、御者台に一人。


それと、馬車内に女性二人が寝られるようにしたくてな」


その言葉へ、ドーガが首を傾げる。


「儂は外で構いませぬが」


「いやいや。常に野営するつもりかよ。


雨の日全滅するくせに」


ジンが眉を下げて手を振った。


「……ぐぬ」


ドーガは言い返す言葉を失う。


男は頷きながら、馬車の仕様書へ希望を書き込んでいった。


「じゃあ、御者台を寝台にカスタムだな。


近頃の六人乗りは貴族向けで、上に使用人が寝て、中が貴族用の寝台になる型もある」


「最近は、そんな型もあるのか。


値が張りそうだが……」


馬車市場には明るくないジンが問いかける。


「まぁ、新品なら四百ゴールドはするけどな。


ある程度走ったやつなら、二百ゴールド。傷ありなら、もう少し安いやつもある 」


男が、いくつかの手書きの図面を広げた。


「外見はこだわらない。


 だが、車軸と車輪の劣化だけは妥協できない」


ジンが図面を見ながら告げる。



「それなら、コイツだな」


男が、一枚の図面を指す。


「車体に傷はあるが、最近入ってきたやつだ。


車軸周りの整備は終わってる。あとは、御者台を変えれば出来上がりだ」


ジンが、図面に記載された金額を確認する。



「……百八十ゴールドか……。


御者台の乗せ換えはいくらだ」


「可動式になるからな、四十ゴールド追加だ」



馬車本体と足して、二百二十ゴールド。


こちらの予算は、目算で百二十ゴールドだ。


「お前さんたちの、予算は?」


男の言葉へ、ジンが少し言い淀む。



「二百ゴールドまでは出せる。


これから洞窟で稼ぐ予定だが、即金なら百二十ゴールドだ」



勇者パーティの資金が約六十ゴールド。


ジンは、支度金と個人資産を足した金額を男へ告げた。


「……ジン殿。あと三十ゴールドなら乗せられますぞ」


「わらわからは、四十ゴールド出そう」


「わ。私も三十ゴールドいけます」


ドーガ、ラナ、スイが、口々に金額を乗せていく。



「……お前ら」


ジンが、複雑な顔を見せる。



「……なるほど、分かりました。


そもそも、勇者様御一行には、ここで馬車を揃えていただくのが“慣習”でしてね」


「……そうだったのか」


ジンの言葉へ、男が頷く。


「ええ。勇者御一行の人数が増えたことにより、数代目から幌馬車を利用されたことが発端らしくて」


男が紅茶を飲み、続ける。


「とはいえ、こちらも商売です。


完全に無料には出来ませんが、半額で手を打ちましょう」


「恩に着る」


「気にしないでください。


そもそも、勇者様には魔王を倒してもらわなくてはなりませんから」


魔王を倒すために。


改めて告げられた言葉へ、ジンがまた表情を少し歪める。


(魔王を倒す……)


男が詳細を説明するために、追加の資料を取りに行った。



「ねぇ見て、クロウ!


炎柄の馬車あるよ」


外では、勇者が楽しげに馬車を眺めていた。


「そっすね。こっちはなんでしょう、なんか縄みたいなやつもありますよ」


赤や水色に塗られた馬車の間を、勇者と歩く。


「楽しいね」


「ですね。でも、そろそろ戻った方がいいかも知れないっすね」


馬の代わりに台で高さを保っている馬車をひと通り眺めて、クロウが呼びかける。


「そうだね。ずっと任せっきりなのも悪いよね」


「まぁ、決まった頃だとは思いますけどね」


勇者が頷き、クロウと共に建物へ向かった。

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