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二百代目勇者、今日は低気圧につき休みます  作者: 灯吉郎


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第二十話 雨のグランベル

雨粒が、ざあざあと音を立てて地面へ降り注ぐ。


石畳の坂道は、ちょっとした川のようになっていた。


いつも賑わう市場も、人が少ない。


武具も防具も店内へ仕舞われ、飲食屋台は休業していた。


“青樽亭”の看板が、雨と風に晒されてカタカタと音を立てる。



「うう……止めて……」



廊下を挟んだ反対側の軒下からの音だが、静かな室内へ妙によく響く。



「……こればっかりは、難しいっす」


クロウが眉を下げた。


「……いや、むしろよく聞こえるな」


様子を見に来たジンが、布団で丸まっているコンへ話しかける。


「カタカタしてる……」


勇者が呻く。


「コン。痛みに効く薬湯の時間ですよ」


部屋を小さくノックして、スイが顔を見せた。


「ありがとう、スイ」


なんとか起き上がり、コップを受け取る。


「……ほんとに顔色悪いな」


勇者の顔を見て、ジンが改めて呟いた。


「そっすね。こればかりは、どうしようも無いみたいで……。


スイ。飲み終わったら下へ持っていくんで、ドーガの方も頼みます」


クロウが頷き、スイを促す。


「はい。よろしくお願いしますね」


スイが、ドーガの分を届けるために部屋を後にした。


「……ドーガもアウトかよ」


「そっすよ。あっちは“古傷が痛む”そうです。


……ちなみに、スイも“精神力低下”のデバフついてます」


「……ボロボロじゃねぇか」


「……そっすね」


ジンがしみじみ呟き、クロウが頷く。


「……クロウ、飲み終わった」


「うっす。じゃあ、またしばらく寝ててください。


あとでパン粥、持って来ますんで」


「わかった……」


クロウが立ち上がり、コップを受け取る。


「……これ、耳に突っ込んどけ」


ジンが古布を裂き、丸めて勇者へ渡した。


「……ありがと、ジン」


「……明日の雨、マシだといいな」


片手を上げて、クロウと共に部屋を後にする。


「ありがとうございます、ジン」


足音を立てないよう歩きながら、クロウが礼をした。


「あー。……まぁ、想像以上だったからな」


怪我用に布を持ち歩いていて、良かった。


ジンが肩をすくめ、ゆっくりと階下へ降りていく。



「今日は厨房借りるか……」



受付から左へ曲がり、四人掛けのテーブルが二つ並ぶ食堂へ入る。


“青樽亭”は食事のサービスを行っていない代わりに、厨房の使用は自由だった。


「そっすね。コンとドーガにも作らないとなんで」


ジンへ頷きながら、クロウが厨房へ入りコップを洗う。


「うーん。多分まだ“北風鳥の鍋”があったと思うんで。


紅茶でも飲みながら、ラナ待ちしましょう」


鍋へ水を入れ、火をつける。


「……なんだ、“ラナ待ち”って」


厨房近くのテーブルへ腰を下ろし、ジンがクロウへ問いかけた。


「あぁ、そっか。


実は、ラナの空間圧縮魔法で、食材をそのまま保存してくれてるんすよ」


「……は?」


クロウの言葉へ、ジンが声を上げる。


「なんじゃ、呼んだか」


ちょうど降りてきたラナが、厨房へ顔を見せた。


「ラナ。ちょうどいいところへ来てくれたっすね。


“北風鳥の鍋”、まだあります?」


クロウが問いかける。


「ああ。わらわも使おうと思っておったところよ。


……確か、あと二つはあったはずじゃ」


腰のポーチを探り、傍目には理解出来ない造形のものを取り出す。


「今日と明日で、ぴったりっすね」


「うむ」


クロウが四人分の紅茶を淹れ、続いてラナが鍋を具現化させて火へ掛けた。


「……ほんとに鍋出てきた」


「便利っすよねー!」


目を疑うジンの前へ紅茶を置き、クロウが頷いた。



「いい匂いがしますね」


食堂へ、スイが顔を見せる。


「おかえりなさい。ドーガの様子はどうでした?」


クロウがスイからコップを受け取り、席を勧めながら紅茶を差し出す。



「そうですね。


相変わらず痛そうでしたので、足を温めて来ました」


両手で紅茶のカップを包み込みながら、スイが答える。


「相変わらず難儀よの。過去の古傷というのは……」


クロウからコップを受け取りながら、ラナが呟いた。


「足って言ってたか」


「うむ。膝へ矢を受けてしまったらしいの」


ジンの問いかけへ、ラナが頷く。


「ドーガは、元国境警備兵なんすよ」


「なるほどな……」


クロウが補足し、ジンが頷いた。



「よし、出来たぞ」


ラナが鍋をテーブルの中央へ置く。


隣へカゴを置き、空間圧縮魔法を解いてパンを並べた。



「……ほぼ手品だな」


「はて。手品とはなんじゃ?」


ラナが首を傾げる。



「……ほぼ魔法」


ジンが、冗談めかして告げた。

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