第十九話 グランベルのジン
ジンを先頭に、勇者とクロウが路地裏を歩く。
「……まさか、“ランタン”を置き去りにしてるとはな……」
「うん。野営以外に使い道あるなんて、思ってなかった」
ジンのぼやきへ、勇者が頷く。
「まぁ、王国の周囲に洞窟ないっすもんね……」
クロウも、勇者へ頷きを返した。
やがて、淡いコバルトブルーのアパルトメントへ到着する。
二階へ上がり、ジンの部屋へ入った。
「あったあった」
「コンとスイの分。二つ確保完了っすね」
勇者が荷物を引っ張り出す。
「ねー、ジン。今度さ、“エビ天様”の作り方教えて」
「お前な、“商人”じゃねぇだろ。……まぁ、いいけどよ」
書斎の右隅へ置かれた“エビ天像”を見ながら勇者が首を傾げる。
その熱心な様子に、ジンが苦笑する。
「あ。商人で思い出したんすけど。コン、俺らロープ切らしたままっすよ」
「忘れてた」
「は!?」
クロウと勇者の、のんびりした会話へ、ジンが食ってかかる。
「お前ら、そんなんで“西洞窟”入ってたのかよ」
「……まぁ、そっすね……」
ジンの言葉へ、クロウがばつの悪そうな顔をする。
「まぁ、俺も案内する以上、確認不足ではあったけどな……」
お互い顔を見合わせ、小さく頷いた。
「ところで、松明って使い終わったやつはどうするの?」
リュックへ入ったままの松明へ触れながら、勇者が問いかける。
「ああ。道具屋に持ち込めば、安値で油紙を巻き直してくれる。
使えるうちは、それで回すのが基本だな」
「なるほど」
ジンが答え、勇者が頷く。
「だからまぁ、昼飯終わったらロープと合わせて補給だな」
「分かった!」
外へ出るジンの背中へ返事をして、勇者たちも部屋を後にした。
路地を戻り、酒場へ入る。
「コン殿、ちょうど良いところに」
「ドーガ!」
テーブル席から、ドーガが手を振る。
「先ほど到着したところでしてな」
湯上がりのドーガから、薬湯の香りが漂っていた。
「今日も、“荷馬車シチュー”がおすすめらしいぞ」
「なら、それで!」
ラナの言葉へ、勇者が頷く。
店員を呼び、注文した。
「このあとだが、コンとクロウ連れて道具屋へ行ってくる」
「かしこまりました」
ジンが告げ、ドーガが頷く。
「あと、馬車の件だが。
宿屋の差額、あるだろ?」
「ある」
ジンが続け、勇者が頷いた。
「とりあえず前金ってことで、五十ゴールドあれば中古の馬車が買える」
「えっ、そうなんだ!」
手のひらを開き、ジンが五を示す。
勇者が前のめりになるのを見ながら、ジンが頷いた。
「で、残りの増築を七十ゴールド予算でやって貰えばいい」
「なるほどっす。
今日のゴブリン狩りで六ゴールドはもうあるんで、残り六十ちょいっすね」
ジンの言葉へ、クロウが続ける。
「となると、天候さえ良ければ数日で達成出来そうですな」
「……天候、な……」
ドーガが頷く横で、ラナが眉を下げた。
「……ラナ殿。まさか……」
「明後日から、二日じゃ」
ドーガがこの世の終わりの様な顔をし、ラナが厳かに告げる。
「二日っすか……」
「なんだ?
明後日から二日って」
クロウが青ざめ、ジンが首を傾げる。
「ラナの天気予報は、確実に当たります」
「……そうなのか……」
スイまで厳かな雰囲気で告げて、ジンが少し引いた様子で頷いた。
「で。天気が何だって?」
ジンが問いかける。
「雨が来るんだ……」
勇者が、重々しく引き継いだ。
(……雨って。そんな世界が終わるようなことだったか?)
「お待たせしました!
“荷馬車シチュー”六人前です!」
なんとも言えない空気のまま、食事が運ばれて来た。
食べ終わり、紅茶を飲む。
「……この後、ジン殿たちが補給であれば、我々はどう動きますかな」
ドーガが問いかける。
「ドーガとラナさえ良ければ、街の近くで薬草取りに行きたいです」
スイが提案した。
「それは良いの。街周辺であれば、スイのレベル上げも兼ねられる」
「儂も異論ありませんぞ」
ラナとドーガが頷く。
「よし、決まりだな」
ジンが頷き、それぞれ立ち上がった。
「用事が終わったら、合流するね」
「わかりました」
勇者の言葉へ、スイが頷く。
酒場の前で別れ、ジンを先頭に勇者とクロウが市場へ向った。
「ここだ」
「よお、ジンじゃないか!」
武具なとが並ぶ左側の露店のひとつへ顔を出すと、親しげに声が掛けられる。
「今日は、ロープ二つと松明の油巻きを二本頼む」
「任せておけ。
……ジンが“勇者パーティ”に入ったって噂、本当だったんだな」
小柄ながらもがっしりした男が、器用に片目を瞑って見せる。
「……松明の油巻き、二本はサービスしてやるよ」
「ふはっ。……助かる」
楽しげに笑うジンを横目に、クロウと勇者も目を細めた。




