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二百代目勇者、今日は低気圧につき休みます  作者: 灯吉郎


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第二話 まだ旅立たない勇者

酒場が、いつも以上のざわめきに包まれている。


「次は、魔法使いか、それとも……」

「格闘家なら、俺を……!」



「まったく。黙って座ってな。勇者様が選びにくいだろう」



その騒ぎが聞こえないかのように、勇者は押し黙っている。


「ほら、勇者様が困って……」


「……来る」


「……え? なにが、来るっていうんだい?」


勇者の呟きに、今度は酒場に動揺が混ざる。



「……ぐっ」


酒場の隅から、呻き声。



「あー、オッサン。またかよ。大丈夫か?」


「……あぁ。昔、膝に矢を受けてしまったところが……」


「こりゃ、ひと雨来るな……」



ツカツカと靴音を立て、勇者が歩み寄る。



「うおっ……!?」


酒場の隅に立つ。



「……あんた、役職は」


「……戦士だ」


「採用」



ざわっ



「は、オイ、マジかよ……!?」

「勇者様、そいつ、まともに戦えねーよ! 辞めといた方が──」


「戦士、晴れの日は戦えるか」


「まぁ、それなりにな」


「名前は」


「ドーガ」


「よろしく、ドーガ」



「おいおい、決まりかよ……!」

「いや、まだ仮なんだろ」

「普通は、あとひとりぐらいか……」



店内がまた、ざわめきに包まれる。


次に誰が指名されるのか、誰もが注目した。


「最後。……氷魔法が得意な人」


「はい」


即座に挙手。



「じゃ、キミ。名前は?」


「ラナ」


「採用」



「いや、早いだろ!」

「つうか、そいつチビじゃねぇか!」

「なんで酒場にガキがいるんだよ!」



「……ガキではない。ハーフエルフだ」


「へぇ、初めて見た。よろしくね」


「よろしくな、勇者よ」



「やれやれ、これで決まりみたいね。……勇者様、パーティを変えたくなったら、また戻ってくるのよ」




「どーも。……それじゃ」


「ぬ。もう出発するのか?」


ラナが尋ねる。



「うーんと、次の晴れの日っていつだろう?」


「三日後じゃろうな」


ドーガが答えた。



「じゃ、各自、王から支度金貰って。三日後に酒場前に集合ね。今日は解散」


ひらりと手を振り、扉へ向かう。



「まて、それだけか……!?」


「んー、話し合い的なやつ? じゃあ、三日後に食堂で、顔合わせしようか。あ、王宮がいい?」


「しょ、食堂がいいです……隣の」


スイが、おずおずと提案する。



「あそこの定食おいしいよね、決まり」


「勇者殿、お急ぎですかな?」


「もうすぐ雨降るでしょ? だから」


もう話すことは無いとばかりに、扉をくぐった。




三日後。


「よし。じゃあ、食堂入ろうか」


「はい」


勇者、スイ、ドーガ、ラナの四人が集まり、食堂に入る。


席に座ると、小さな子どもたちがコップをそれぞれ持ってきた。


「ごちゅうもんは」


「俺、おすすめで」

「私も」

「儂も」

「わらわも」


「はーい!」


子どもたちが、奥の両親に伝えにいく。


「癒されるなぁ」


勇者が目を細める。


「勇者様は、子供好きなんですか?」


「まぁねー。実際、見られるといいんだけど」


「……え?」


「や。なんでもなかった」


「そうですか……?」


スイが首を傾げる。


「で、まずはどこを目指すのじゃ」


「ラナって、そんな喋り方だったんだ」


「長く生きておると、話し方がおかしくなる」


「そりゃ難儀だなぁ」


「話を逸らすな」


「あー、そうだった。確か、魔王って結構北に居るらしくてさ」


簡易的で、時代がかった地図を広げる。



「俺らが住んでるこの王国が南だから、東の山脈か西の渓谷を越えなきゃいけないわけ」


つつ、と地図をなぞる。


「ドーガは、国から出たことある?」


「ありますぞ。国境警備をしておりました」


「へー。どの辺?」


「こちらですな、渓谷側を」


ドーガの無骨な指が、地図をなぞる。


「この辺りに、たまに獣の姿の魔物が出ましてな」


「なるほどなぁ。ガチ森林より、マシだと思うんだけど、どう?」


「そうですな、野営出来る場所もいくつか覚えがあります」


「野営かぁー。近くに村ないの? 泊まれるとこ」


「一度、渓谷をさらに西に抜けたところにありますが、やはり一度は野営になりますな」


「山よりマシかー。スイとラナは、野営出来そう?」


「わらわは平気だ」


「私、がんばります……!」


「じゃ、頑張って貰おうかな」


料理の匂いが漂ってきた。


地図をしまい、待つ。


「今日のおすすめは、ステーキだよ!」


「えっ、やった!」


「美味しそうですね」



焼きたてのステーキに、ナイフを刺す。じゅわ、と音を立てて肉汁が鉄板に焼かれる。


敷かれた玉葱と絡めて、ひとくち。


「んんんーーーま!」


「ワイルドボアですな。これが国境付近に出ますぞ」


「んふぇ。ちょうろ、ふい」


(え。ちょうどいいじゃん)


「……話は、食事の後に」


ドーガが頭を下げる。


ライスを食べる。


肉汁とライスが、口の中に広がる。熱くてハフハフしながら噛み、飲み込む。


水をひとくち。


「うんまーーー!」


「ふふ。勇者様は、本当に美味しそうに召し上がられますね」


「ん。ごはんて食べると、幸せな気分になるよね」


嬉しそうに、またひとくち。


綺麗に食べ終わり、また水を飲む。


「美味しかったー!」


「お粗末さまでした」


「ご馳走さまでした!」


店主夫妻が皿を下げ、勇者がにこやかに告げる。


「そういえば、勇者殿は料理のほうは」


「野営の訓練は、一応してあるけど長旅の経験はないよ」


「ゆくゆくは、馬車など買い上げるのもよいでしょうな……」


「馬車かぁ……」


沈黙が落ちる。


「どうぞ、食後のデザートです」


「やった、ありがとう!」


スプーンをさす。


しゃり、と音をたてて沈んだ。


「シャーベットだ!」


「レモンですね、美味しい……」


「……それにしても、これからを考えれば……やはり馬車は必要では?」


「だよなぁ……」


「王からは、貰えんのか?」


「なんかさぁ。伝統のせいでダメなんだって。支度金しか貰えない」


「なんじゃそれは」


「二千年続く伝統ですから……」


「ニンゲンは面倒よの」


しゃく、とスプーンをさす。


またひとくち。


「ドーガ、ここよりデカイ街ってどこだっけ?」


「先ほど申しました村から、さらに一日の距離にありますな」


「なんとかそこまで行って、稼ぐか……」


「この街ではダメなのか?」


「ちょっとはいいけど、ずっとはダメかもなぁ」


「難儀よの」




「勇者様、まだ旅立たれてないの?」

「今代は、相当変わってるって話だぜ……」


「しっ。どこで聞かれてるか分からないよ!」


店の外から、そんな声が聞こえた。


「……まぁ、そういうこと」


勇者が、シャーベットを口に運ぶ。


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