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二百代目勇者、今日は低気圧につき休みます  作者: 灯吉郎


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第十七話 松明は持ったか?

魔王領。


「魔王様! 今代の勇者が、“西洞窟”へ向かった模様です!」


「“西洞窟”……ゴブリンの巣か」


「はい! 如何されますか?」


「“監視を続けよ”と、シオンへ伝えよ」


「はっ!」


敬礼し、兵が去っていく。


「……勇者め……」


魔王の呟きは、誰にも届かず消えた。



「──ありました。“薬草”です」


“西洞窟”へ向かいながら、道中で見つけた薬草をスイが摘んでいく。


「うーん。やっぱり、“スキル”無いと見分けつかないんだなぁ……」


勇者が、その辺の草を摘みながら眉を下げる。


「俺が“鑑定”してもいいけど、スイが採った方が早いだろうな」


その様子へ苦笑しながら、ジンが歩みを進めた。


「そっすねぇ。……あ、俺ちょっと野暮用っす」


「……見られてる」


「……っすね」


のんびり頷いていたクロウの表情が変わる。


勇者の言葉へ、短く応えた。


「これ、“はじまりの村”と同じっすね。


シャドウハウンドなんで、ワンパンいけます」


「“はじまりの村”に、シャドウハウンド?」


「あ。そういえば言ってませんでしたね。


ちょっと狩ってから話します」


「分かった」


立ち止まり、長弓を構えるクロウへ勇者が頷く。


「……」


無意識に、クロウの口元へ舌が覗く。


矢を番え──高度を調節し、放つ。


「ぎゃん!」


少し遠いところで、魔物の断末魔が響いた。


「……で、“はじまりの村”の雨の日にも、あれが居たんすよ。


この辺の生態系にそぐわないのに、“また居た”ってことです」


長弓を背へ戻しながら、クロウが続ける。


「……“魔王軍”……ですかな」


「……恐らく、そうじゃな。


“四天王”の一人に、呪術師がおる」


「……“魔王軍”……ですか」


ドーガとラナの言葉へ、スイが怯えた表情を見せた。


「……ちなみに。コンが持ってた草は、“猫じゃらし”」


「……これは?」


「……ヨモギ」


ジンが答える。


「ふふ……。


コン、それ。パンに混ぜて焼いたりすると、美味しいですよ」


ジンと勇者のやり取りへ、微笑みながらスイが混ざった。


「……スイ、呼び捨てしてくれた」


スイの言葉へ、勇者が瞬きをする。


「はい。……せっかくなので。どうでしょうか?」


悪戯っぽい笑みを浮かべ、スイが首を傾げた。


「すごく良い」


勇者が、嬉しそうに目を細める。



──やがて、目の前に崖が立ち塞がり、ぽっかりと口を開けた洞窟が見えてきた。


「ここが、“西洞窟”……」


狭い入口は、入る者を拒んでいるかのような雰囲気を纏っている。


「コン、松明は?」


「……松明?」


ジンの問いへ、勇者が首を傾げる。


「……出発前に、確認しときゃ良かった……」


ターバンへ指を差し入れ、ジンが頭を掻く。


「とりあえず、俺の使え。


 他に持ってるやつが居ないんなら、消えるまでに往復だな」


「儂の松明がありますゆえ、片道一時間ですな」


「ありがとう、ドーガ」


ドーガの言葉に、勇者が頷く。


「……ちなみにですが。ダイ殿は、ランタンをお持ちではなかったですかな?」


「……あ」


「あるのか?」


ジンが、勇者を見る。


「……野営道具の中だから、ジンの部屋に置いてある。


え、ランタンでもいいんだ?」


「むしろ、そっちが本命だろ……」


勇者の言葉に、ジンが片手で顔を覆った。


「……ランタンなら、私も……同じです」


スイが気まずそうに続ける。


「王国で、道具屋のおいちゃんが用意してくれたやつ!」


勇者が、懐かしそうに笑顔を見せた。


「……次から、持って行くぞ」


「うん、分かった!」


そのまま笑顔で頷き、松明へ火をつける。


「おお……」


「……本当に、なんつうか……」


勇者の感動した様子へ、ジンがしみじみ呟く。


「初めてですからの……」


「よく分かった」


ドーガの言葉へ、ジンが頷く。


「よし、出発!」


勇者、ラナ、スイ、ジン、クロウ、ドーガの順で洞窟へ入る。


「足元、滑りやすいから注意して」


「はい」


勇者の言葉に、スイが頷く。


「もう少し歩いた先に、広い所があるみたい。


……そこで戦闘しよう」


「良いぞ。……目標まで、何体じゃったかの」


歩きながら勇者が告げ、ラナが問いかける。


「うーん、五十くらい」


「スイのレベルも、それだけ狩れば目標値へ届きそうじゃの」


「わ、私ですか……!?」


ラナの言葉へ、スイが驚きの声を上げる。


「うむ。この先の街で、上級職になるためじゃ。


レベルが、あと五足りぬ」


「五レベル……」


具体的な数字を聞き、スイが小さく喉を鳴らす。


「となると、俺らで削ってスイがトドメっすね」


「そうじゃの。


とはいえ、ゴブリンが増えすぎればその限りでもあるまい」


後ろから確認するクロウへ、ラナが頷く。


「そうだね。二、三体くらいなら大丈夫だと思うけど……」


勇者が頷く。



──やがて、見通しのいい場所へ差し掛かった。


「……ゴブリンが二匹。まだ気づいてない」


突き出した岩陰から、勇者が視認する。


「……クロウ、ラナ」


「っす」


「了解じゃ」


ラナが右へ寄り、左奥のゴブリンを狙う。


クロウが長弓を構え、右手前のゴブリンへ狙いを定めた。


「ゆくぞ」


「……」


クロウが無言で矢を番える。


「氷よ、貫け」


ラナの氷と、クロウの矢が交差し──それぞれの標的へ命中した。


「ドーガ! 左のゴブリンを盾で!


スイ、俺が補助する。右を殴って」


「かしこまりました……!」


「はい!」


ドーガが左のゴブリンの行く手を阻み、スイが右のゴブリンを杖で殴る。


「……ひゅー」


岩陰の傍で、ジンが思わず口笛を鳴らした。



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