第十七話 松明は持ったか?
魔王領。
「魔王様! 今代の勇者が、“西洞窟”へ向かった模様です!」
「“西洞窟”……ゴブリンの巣か」
「はい! 如何されますか?」
「“監視を続けよ”と、シオンへ伝えよ」
「はっ!」
敬礼し、兵が去っていく。
「……勇者め……」
魔王の呟きは、誰にも届かず消えた。
「──ありました。“薬草”です」
“西洞窟”へ向かいながら、道中で見つけた薬草をスイが摘んでいく。
「うーん。やっぱり、“スキル”無いと見分けつかないんだなぁ……」
勇者が、その辺の草を摘みながら眉を下げる。
「俺が“鑑定”してもいいけど、スイが採った方が早いだろうな」
その様子へ苦笑しながら、ジンが歩みを進めた。
「そっすねぇ。……あ、俺ちょっと野暮用っす」
「……見られてる」
「……っすね」
のんびり頷いていたクロウの表情が変わる。
勇者の言葉へ、短く応えた。
「これ、“はじまりの村”と同じっすね。
シャドウハウンドなんで、ワンパンいけます」
「“はじまりの村”に、シャドウハウンド?」
「あ。そういえば言ってませんでしたね。
ちょっと狩ってから話します」
「分かった」
立ち止まり、長弓を構えるクロウへ勇者が頷く。
「……」
無意識に、クロウの口元へ舌が覗く。
矢を番え──高度を調節し、放つ。
「ぎゃん!」
少し遠いところで、魔物の断末魔が響いた。
「……で、“はじまりの村”の雨の日にも、あれが居たんすよ。
この辺の生態系にそぐわないのに、“また居た”ってことです」
長弓を背へ戻しながら、クロウが続ける。
「……“魔王軍”……ですかな」
「……恐らく、そうじゃな。
“四天王”の一人に、呪術師がおる」
「……“魔王軍”……ですか」
ドーガとラナの言葉へ、スイが怯えた表情を見せた。
「……ちなみに。コンが持ってた草は、“猫じゃらし”」
「……これは?」
「……ヨモギ」
ジンが答える。
「ふふ……。
コン、それ。パンに混ぜて焼いたりすると、美味しいですよ」
ジンと勇者のやり取りへ、微笑みながらスイが混ざった。
「……スイ、呼び捨てしてくれた」
スイの言葉へ、勇者が瞬きをする。
「はい。……せっかくなので。どうでしょうか?」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、スイが首を傾げた。
「すごく良い」
勇者が、嬉しそうに目を細める。
──やがて、目の前に崖が立ち塞がり、ぽっかりと口を開けた洞窟が見えてきた。
「ここが、“西洞窟”……」
狭い入口は、入る者を拒んでいるかのような雰囲気を纏っている。
「コン、松明は?」
「……松明?」
ジンの問いへ、勇者が首を傾げる。
「……出発前に、確認しときゃ良かった……」
ターバンへ指を差し入れ、ジンが頭を掻く。
「とりあえず、俺の使え。
他に持ってるやつが居ないんなら、消えるまでに往復だな」
「儂の松明がありますゆえ、片道一時間ですな」
「ありがとう、ドーガ」
ドーガの言葉に、勇者が頷く。
「……ちなみにですが。ダイ殿は、ランタンをお持ちではなかったですかな?」
「……あ」
「あるのか?」
ジンが、勇者を見る。
「……野営道具の中だから、ジンの部屋に置いてある。
え、ランタンでもいいんだ?」
「むしろ、そっちが本命だろ……」
勇者の言葉に、ジンが片手で顔を覆った。
「……ランタンなら、私も……同じです」
スイが気まずそうに続ける。
「王国で、道具屋のおいちゃんが用意してくれたやつ!」
勇者が、懐かしそうに笑顔を見せた。
「……次から、持って行くぞ」
「うん、分かった!」
そのまま笑顔で頷き、松明へ火をつける。
「おお……」
「……本当に、なんつうか……」
勇者の感動した様子へ、ジンがしみじみ呟く。
「初めてですからの……」
「よく分かった」
ドーガの言葉へ、ジンが頷く。
「よし、出発!」
勇者、ラナ、スイ、ジン、クロウ、ドーガの順で洞窟へ入る。
「足元、滑りやすいから注意して」
「はい」
勇者の言葉に、スイが頷く。
「もう少し歩いた先に、広い所があるみたい。
……そこで戦闘しよう」
「良いぞ。……目標まで、何体じゃったかの」
歩きながら勇者が告げ、ラナが問いかける。
「うーん、五十くらい」
「スイのレベルも、それだけ狩れば目標値へ届きそうじゃの」
「わ、私ですか……!?」
ラナの言葉へ、スイが驚きの声を上げる。
「うむ。この先の街で、上級職になるためじゃ。
レベルが、あと五足りぬ」
「五レベル……」
具体的な数字を聞き、スイが小さく喉を鳴らす。
「となると、俺らで削ってスイがトドメっすね」
「そうじゃの。
とはいえ、ゴブリンが増えすぎればその限りでもあるまい」
後ろから確認するクロウへ、ラナが頷く。
「そうだね。二、三体くらいなら大丈夫だと思うけど……」
勇者が頷く。
──やがて、見通しのいい場所へ差し掛かった。
「……ゴブリンが二匹。まだ気づいてない」
突き出した岩陰から、勇者が視認する。
「……クロウ、ラナ」
「っす」
「了解じゃ」
ラナが右へ寄り、左奥のゴブリンを狙う。
クロウが長弓を構え、右手前のゴブリンへ狙いを定めた。
「ゆくぞ」
「……」
クロウが無言で矢を番える。
「氷よ、貫け」
ラナの氷と、クロウの矢が交差し──それぞれの標的へ命中した。
「ドーガ! 左のゴブリンを盾で!
スイ、俺が補助する。右を殴って」
「かしこまりました……!」
「はい!」
ドーガが左のゴブリンの行く手を阻み、スイが右のゴブリンを杖で殴る。
「……ひゅー」
岩陰の傍で、ジンが思わず口笛を鳴らした。




