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二百代目勇者、今日は低気圧につき休みます  作者: 灯吉郎


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第十六話 鐘の音と市場通り

「ここが、俺のおすすめの宿。“青樽亭

”だ」


ジンのアパルトメントから、大通りへ戻る道の途中。


青い樽が描かれた看板を親指で示し、ジンが中へ入る。


「“青樽亭”へ、ようこそ!


……おっ。ジンじゃねぇか。どうした?」


「よう。連泊の客、連れてきた」


「そりゃ有難い!


うちは、個室一泊二ゴールド。相部屋なら一ゴールドになります」


「安い!」


料金説明へ、思わず勇者が身を乗り出す。


「俺は部屋あるから、お前ら五人分だな」


「うん。個室ひと部屋と、相部屋二部屋。


とりあえず十日、お願いします」


「かしこまりました!


では、合わせて六十ゴールドになります」


「はい」


主人の言葉へ頷き、“金の麦亭”から戻ったゴールドから支払う。


「こちら、鍵になります」


「……どうする?


持ち回りの荷物しかないなら、鍵は預けて装備見に行ってもいいぞ」


「そうしようか」


ジンの言葉へ、勇者が振り向いて確認する。


「そうですな。先に済ませてしまいましょう」


ドーガが頷き、鍵を宿へ預けて外へ出た。


「じゃ、スイの装備見に行くか」


「……あの。私はこのままでも、大丈夫ですので……」


「いやいや。目標金額までゴブリン相手にしますし、“ぬののふく”だと心配っす」


「そうじゃぞ。


“聖鐘教会・グランベル支部”にも行きたいと申しておったろう。


それならば、装備も小綺麗にしておくべきではないか?」


「……それは、確かにそうですね……」


クロウとラナの言葉へ、スイが頷く。


「じゃ、決まりだな。教会は市場の奥にある。


先に装備買って、着替えてから教会行くぞ」


「はい」


スイが頷き、ジンが先頭を歩き始めた。



やがて、市場へ辿り着く。


「昼の市場って、こんな感じなんだ……」


勇者が、感嘆の声を漏らした。


夜の賑やかさとはまた違う、活気に包まれている。


新鮮な野菜や肉などの食材が並び、武器や防具は市場の端へ集められていた。



「僧侶向けなら、ここだな」


「ありがとうございます」


店頭にはさまざまな杖が並び、日差しの届かない奥にはローブが掛けられている。


「お。これなどはどうじゃ?


“聖なる刺繍のローブ”」


「そ、それは高いですよ、ラナさん……!」


「では、こちらの“武闘派のローブ”などは……」


「私、モンクではないので……!」


ラナとスイのやり取りを、少し離れた場所から勇者、クロウ、ドーガが見守る。


「……真面目な話。


この辺の“厚手のローブ”と、“風よけの外套”ぐらいでいいんじゃねぇか?」


「まぁ、消耗品だしの。


“聖なる刺繍のローブ”は、レベルと懐が見合った頃が良いか」


「そうですね……!」


ジンが間へ入り、ラナとスイが頷く。


「では、着替えて来ますね!」


「行ってらっしゃい」


会計を済ませたスイが、試着室へ入る。


ジンが、ひらりと手を振った。


「ジン! あそこ、“エビ天様”いる!」


「お? ……あぁ、居るな」


勇者がジンのベストを引っ張り、会計近くを指差す。


「本当に居るんすね……」


「まぁ、多分“グランベルの商人”なら、皆験担ぎで置いてるんじゃねぇかな」


クロウの言葉へ、ジンが頷く。


「験担ぎっすか」


「そ。商人になった時に、“将来の夢と願いを込めて彫る”のが習わしなんだよ」


「へー! じゃあ、ジンの部屋にあった“エビ天様”は、ジンの手彫り?」


「……よく見てたな。


そーだよ。あれは俺が二十歳の時に彫ったやつ」


勇者の言葉へ、頭を掻きながらジンが答える。


「短剣の練習にもなるしな」


「商人らしいっすね」


「お待たせしました」


クロウが頷いたところで、着替え終わったスイが出てくる。


「じゃ、次は教会だな」


「はい!」


新しい装備に身を包んだスイが、はにかみながら後ろへ続く。



──市場を抜け、さらに歩くと、やがて石畳が綺麗に整備された区画へ入った。


ゆっくりと馬車が行き交う横を、ジンたちが歩く。


「……見えてきたな。あれが、“聖鐘教会・グランベル支部”だ」


「わぁ……!」


それは道の奥、左手に建っていた。


尖った屋根の先端には、十字。


入口の上部には、大きな鐘が吊るされている。


両開きの扉は、人々のために開け放たれていた。


「……では、参りましょう」


先頭をスイが歩き、勇者たちが後ろへ続く。


女神の逸話を描いたステンドグラスが、日の光を受けて室内を彩っていた。


奥へ進み、司祭の前に立つ。


「……ようこそ、“聖鐘教会”へ。


本日は、お祈りですか?」


「はい。旅の無事を祈りに来ました」


司祭の言葉へ、スイが鐘を模したペンダントを胸元から取り出す。


「まぁ、見習いの方ですね。


ようこそ、おいで下さいました」


「ありがとうございます」


「どうぞ、皆さんも。お祈りください」


スイを筆頭に、皆で旅の無事を祈る。


「ありがとうございました」


「女神様のご加護がありますように」


スイが教会式の挨拶をし、司祭が返礼した。


ゆっくりと歩き、教会を後にする。



「……よし。お祈りも済んだし、昼飯のあと、軽く“西洞窟”行くか?」


「昼飯ー!」


ジンの提案へ、勇者が諸手を挙げて賛成する。


「そうですな。“西洞窟”までは、記憶が確かなら歩いて一時間ほどですか」


「そのくらいだな」


ドーガの言葉へ、ジンが頷く。


「あ、ここ。昼しか営業してない食堂。おすすめ」


「入る!」


市場の通りへ戻り、武器屋とは反対方向へ歩く。


左手に見えた食堂へ入った。


「へい、らっしゃい!


……おっ。ジンか!」


入口へ目を向けた店主が、ジンへ声を掛ける。


「お連れさんも居るのか?


珍しいな。空いてるテーブル席、使ってくれ!」


「了解」


「……ジンさん、顔広いっすね……」


奥のテーブル席へ腰を下ろし、クロウがしみじみ呟く。


「まぁ、この街で生まれ育ったしな」


少し照れ臭そうな顔で、ジンが告げた。


「ここのおすすめは?」


「……北風鳥の鍋だ」


「食べる」


勇者より早く、ラナが宣言した。



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