第十五話 下町へようこそ
朝食を食べ終え、紅茶を飲む。
「……今いきなり決めろっていうのも、急かとは思うが……一応、売り込みしとく」
ジンが、エールではなく紅茶を傾けながら口を開く。
「俺をパーティに入れたら、宿代が五十ゴールド浮くし、厩に預けてる荷物も、俺の住処で預かってやる。
……もちろん、無料でな」
「……ジン、パーティに入って」
「異議なしじゃ」
「儂も構いませぬ」
「よろしくお願いします!」
「ってことで、ジンさんの家でフルステータス開くってことで。いいっすか?」
ジンの言葉へ、それぞれが頷く。
「即決かよ……。
じゃ、受付行こうぜ、コン」
「うん」
「そっちも馴染むの早いっすね。行ってらっしゃい」
立ち上がるジンへ、勇者が頷きを返す。
クロウが、連れ立って受付へ向かう二人へ手を振った。
「変わった男じゃの」
「そうっすね。不思議な人っす」
ラナの呟きへ、クロウが苦笑混じりに頷く。
酒場が、ざわめいている。
「……おい。あれ、ジンだよな?」
「あぁ。“孤高のジン”が、パーティ組んでやがる……」
「しかも冒険者。いや、“勇者”か……?」
「マジかよ……明日、雨でも降るんじゃねぇか?」
「……“雨”?」
勇者が、ぴくりと反応する。
「本気にすんな。言葉の綾だ」
ジンが苦笑した。
やがて、奥で手続きをしていた受付の女性が戻ってくる。
「……お待たせ致しました。こちら、支度金になります」
「どうも。……すげぇな、三十ゴールドか」
金額を確認し、ジンが思わず口笛を吹いた。
「よし……。これで、俺も正式に“勇者パーティ”って訳だな。
改めてよろしくな、コン」
「うん。よろしく、ジン」
ジンが差し出した手を、勇者が握る。
「……早速だが、宿引き上げて来い」
「──ジン! お待たせ」
しばらく後、リュックを背負った勇者たちが戻ってきた。
「よし。次は馬の引き取りだな」
「うん」
ジンを先頭に、ぞろぞろと着いて行く。
厩から馬と旅の荷物を引き取った。
「……じゃ、こっちだ。ついて来い」
「うん」
しばらくぶりの、手綱の感覚。
勇者とドーガが馬を引きながら歩く。
「ここだ。この厩なら、表通りの半額……一頭辺り、一ゴールドで済む」
「やっす!」
思わず、クロウが反応した。
素直な反応へ、ジンが眉を上げる。
勇者とドーガが、馬を預けた。
「よし……先に荷物か。
俺の住処、この奥」
野営道具を見て頷き……少しだけ躊躇したあと、親指で奥を示す。
「あ。いま、“家に人呼ぶの嫌だな”って思ったっすね」
「そりゃそうだろ。一人暮らし用の住居だしな。人呼ぶ規模じゃねぇ」
クロウの突っ込みへ、ジンが少し唇を尖らせる。
(それでも、荷物置かせてくれるんすね……)
ジンが奥へ歩き始める。
クロウは声に出さず、小さく口元を緩めた。
しばらく歩くと、カラフルなアパルトメントが立ち並ぶ下町へ辿り着いた。
上の方には、通りを縦断するようにロープが張られ、洗濯物がはためいている。
子供たちが走り回り、家庭料理の匂いが漂ってきた。
「……ここの二階だ」
薄いコバルトブルーのアパルトメント示し、ジンが階段を上っていく。
「……不思議な感じ……」
「私たちの王国では、見ない建築ですね」
勇者とスイが、壁へ触れながら階段を上る。
「……ここ。入れ」
鍵を開け、招き入れる。
生活感のある部屋だった。
入ってすぐの場所へ、商品らしき木箱が積まれている。
奥には年季の入ったベッドと、たくさんの紙が積まれた書斎。
机の端には、小さな木彫りのエビ天像。
厨房へ接した場所には、作業台も兼ねた二人掛けの四角いテーブルセットが置かれていた。
「そこの木箱の奥、荷物置いてくれ」
ベッドへどかりと腰を下ろしながら、ジンが五人分の荷物を置く場所を指し示す。
「わかった、ありがとう」
ぺこりと頭を下げ、勇者たちが荷物を置いていく。
「椅子、二つしかねぇから、誰か適当に……。ラナとドーガでいいか。座ってくれ」
「では、お言葉に甘えて」
「失礼するぞ」
指名された二人が座り、勇者、スイ、クロウは所在無さげに立っている。
「とりあえず、ステータス見たら宿取りに行くからな」
「うん」
ジンの言葉へ勇者が頷き、順番にステータスを開いた。
【ジン】
種族:人間、職業:商人
年齢:28、レベル:31
HP:C、MP:D
筋力:D、耐久:C
敏捷:A、魔力:D
保有技能:
・商談術Lv7・鑑定Lv6
・値切りLv6・短剣術Lv4
・交渉術Lv5・地理把握Lv5
・馬車操作Lv4
状態:
《夜市慣れ》
夜間の視認・索敵能力微上昇
称号:
《孤高の商人》
《グランベルの渡り鳥》
「ジン、“馬車操作”出来るんだ……!」
「あぁ。……まぁ、商人だしな」
勇者が、キラキラした瞳でステータスを見る。
「幌馬車買ったら、運転して!」
「分かった。……そういや、欲しいって言ってたな」
勇者の言葉へ、ジンが頷く。
「予算を百二十ゴールドとしておるのですが、ジン殿の視点からはどうですかな?」
「……そうだな。この街は、荷馬車の流通が盛んでな。
金持ち連中が頻繁に買い換えるから、状態のいい中古も結構出回ってんだ。
だからまぁ、その予算でもフルカスタム出来るぜ」
ドーガの問いへ、ジンが答える。
「フルカスタムとな?」
「あぁ。例えば、この六人が寝られるようにするとかな。
座席下の収納は最近じゃ、標準だしな……」
ラナの疑問へ、ジンが頷く。
「……凄いですね……!」
「快適な旅になりそうじゃの」
スイが嬉しそうに胸元へ手を置き、ラナも頷いた。
「じゃ、まあ、その前に宿取りますか。
ジンさん、案内お願いします」
「分かった。……ところで、クロウ」
「何っすか?」
踵を返そうとしたクロウを、ジンが呼び止める。
「俺のこと、“ジン”でいいぜ。仲間だろ」
「え」
「わらわも、“ラナ”で良いぞ」
「儂のことも、“ドーガ”と」
「えっ」
「“コン”で」
「私は、“スイ”で」
「ええっ」
続々と声を掛けられ、クロウが困惑した声を上げる。
「ふはっ。仲良いな、お前ら」
「……楽しんでますね……“ジン”」
「まぁな?」
少し恨めしそうな目を向けながらも、クロウがジンを呼び捨てにする。
勇者たちは顔を見合わせ、微笑み合った。




