第十四話 二日酔いの朝
──翌朝。
「……うぁ、頭痛い……」
「大丈夫っすか?
とりあえず、水どうぞ」
勇者の呻き声へ、クロウが眉を下げつつ、水差しからコップへ水を注いで渡す。
「二日酔いっすか?」
「……うーん……。“二日酔い”って何?」
勇者が水を受け取り、飲みながら首を傾げる。
「そっか。コンさん、お酒飲めるようになったばっかりでしたね……」
「うん……。
そういえば、二杯飲んだの初めてだ……。これが“二日酔い”……」
風邪を引いた時のような頭痛と、絶妙な気持ち悪さが勇者を襲う。
「酒場で、温かいスープでも飲んだらいいっすよ」
「そうする……」
勇者が立ち上がろうとするが、やはり顔色が悪い。
「……いや、ちょっと待っててください。
スイちゃんに“二日酔いに効く薬草”持ってないか聞いてきますんで」
クロウが、勇者をベッドへ座り直させる。
「うん、わかった……」
勇者へ頷きを返して、クロウはなるべく音を立てないよう扉を開け、隣の部屋へ向かった。
「……えっ。“二日酔い”ですか……!?」
「そっす。実は昨日、知り合った商人と二杯目飲んだんすよ。
それでコンさん、今かなりキツそうなんす」
クロウが、昨夜のことを掻い摘んで説明する。
「分かりました。症状を落ち着ける薬草を調合するので、ちょっと待ってくださいね」
「助かるっす」
スイが頷き、リュックから乾燥させた薬草をいくつか取り出し、すり潰し始める。
水差しから水を継ぎ足し、滑らかになるまで混ぜていく。
「あとは香り付けに、ハーブを混ぜて……完成です!」
「うわぁ……」
笑顔のスイとは対照的な、どろりとした緑の液体。
「じゃあ、コンさんのところに行ってきますね」
「そちらは任せる。わらわはドーガへ話して、先に酒場へ行っておくからの」
「はい!」
「よろしくっす!」
頷き合い、部屋を出て鍵を閉める。
「コンさーん、戻りましたよ」
勇者の待つ、隣の部屋へ戻った。
「コンさん、大丈夫ですか……?
ひとまず、“浄化魔法”掛けますね」
「えっ。“浄化魔法”で、“二日酔い”解除出来るんすか?」
スイの言葉へ、クロウが驚きの声を上げる。
「うっ……!」
クロウの声が響き、勇者の頭へダメージ!
勇者のHPが減った。
「あっ。すんません……」
「体内の“毒素”扱いになるので、スッキリするんですよ」
「なるほどっす」
「じゃあ、掛けますね。コンさん」
「ありがと……」
スイが、杖を勇者へ向ける。
ふわりと、スイの周囲へ魔力が集まっていく。
「“浄化”」
「わ……! 凄い、頭スッキリした!」
先ほどまでの、天地が回るような不快感が消えていた。
勇者が感動している間に、スイが笑顔で緑の液体を差し出す。
「……ん? これは……?」
「“二日酔い”に効く、薬液ですよ」
スイが、にこやかに迫る。
「え。俺、もう大丈夫だけど……」
「“浄化”で“毒素”は抜けましたけど、お腹に優しいものを飲まないと、本当の“回復”ではありませんので」
「えっ。いや、でも……」
窓際へ後退する勇者に、スイがじりじりと距離を詰める。
「ダメですよ、身体を大事にしないと」
「……クロウ……!」
「コンさんはまぁ、次回から二杯目禁止っすね」
「さ。コンさん、どうぞ」
──あっ……!
勇者のMPも削れた。
「ダイ、こっちじゃ」
「ラナ、ドーガ! お待たせ……!」
酒場へ到着し、先にテーブル席を取っていたラナたちと合流する。
「ダイ殿。二日酔いは大丈夫ですかな?」
「うん。心配かけたね、スイが治してくれたよ」
「それは何よりですな」
ドーガの言葉へ、勇者が頷く。
「わらわはウサギスープにするが、ダイはもっと野菜が多い方が良いか?」
「野菜……!」
「薬草ではないっすよ。というか、薬膳スープはあるみたいっすね」
ラナの言葉へ過剰反応する勇者に、クロウが突っ込む。
「二日酔いならば、薬膳スープは胃に優しいのでおすすめですな」
「……美味しい?」
「注釈がありますぞ。“北風鳥の出汁”と書いてありますゆえ、コクがありそうですな」
「なら、薬膳スープにする」
「私も薬膳スープにします」
ドーガの言葉へ勇者が頷き、スイも追加で注文する。
「あれ? スイちゃん、お酒飲んで無かったっすよね?」
「朝は、軽めの方が好きなので」
「なるほどっす。あ、俺はラナさんと同じウサギスープで。あと、石焼きパン」
「儂も同じものを」
「はい、かしこまりました!」
それぞれが注文し、店員が厨房へ戻っていく。
「……それで、このあとに商人と合流かの?」
「うん。あ、名前は“ジン”って言うんだけど──」
「呼んだか?」
「わっ!」
ラナの言葉に勇者が頷く。
頭上から聞こえた声へ驚き、勇者が見上げる。
「ジン!」
「……昨日も、上から声掛けられたっすね」
見覚えのある光景へ、クロウが苦笑する。
「俺も朝飯頼んだとこだ。同席していいか?」
「どうぞ!」
ジンの問いかけに、勇者が頷く。
「お主が、ジンか。わらわはラナ。魔法使いじゃ」
「ハーフエルフか? 珍しいな」
「まぁの」
ラナの自己紹介へ、ジンが眉を上げる。
「儂はドーガ。戦士をしておりますぞ」
「めっちゃ強そう」
ドーガの雰囲気に、ジンが思わず手を叩く。
「スイです。僧侶です、よろしくお願いします……」
「あ、キミが例の。よろしく」
「例の……?」
「装備、心配されてたよ」
「ちょ。ジンさん!」
スイの自己紹介へ頷きつつ、ジンが悪びれもなく答える。
「どっちにしても、ドーガとラナ以外は装備見直した方がいいだろ」
悪びれることもなく、ジンが続ける。
「ほう。わらわの装備も、見直し不要と申すか」
「見りゃ分かるよ。上級かどうかぐらい。俺、商人なんで」
ラナの言葉へ、ジンが器用に片目を閉じて見せる。
「で、ドーガのは明らかに“使い込まれた鋼”だろ?
この辺じゃ、それ以上のは売ってねぇし」
「左様ですな」
ジンの言葉へ、ドーガも頷く。
「……さすがっすね」
商人の目利きへ、クロウが観念したようにため息を漏らす。
「お待たせ致しました!」
「……じゃ、諸々は朝食のあとで」
「うっす」
──こうして、賑やかな朝食が始まった。




