表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二百代目勇者、今日は低気圧につき休みます  作者: 灯吉郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/23

第十三話 乗りかかった船

「よし! お腹いっぱいになったし、“夜市”もっと見て回ろう!」


ほろ酔い気分の勇者が立ち上がる。


「いいですね……! 私、向こうの露店が気になります」


勇者を見上げて、スイが微笑む。


「良いな。わらわも、向こうの露店が気になっておったところじゃ」


「じゃあ、二手に分かれましょうか」


「そうしましょう。では、クロウ殿。ダイ殿を頼みますぞ」


「了解っす。じゃ、満足したら宿屋に帰還ってことで」


スイの言葉へ、ラナが頷く。


クロウの提案にドーガも頷き、別行動を取ることに決まった。


「うむ。では、またの」


「また明日ですね」


「うん、また明日」


席を立ち、それぞれが歩き始める。


「あの雑貨が気になってまして……」


「わらわは、その向こうの布が」


「儂は香辛料を見たいですな」


「あっ。いいですね……!」


賑やかに話しながら、三人が夜市の奥へ消えていく。



「じゃ、俺たちも行きますか」


「うん、行こう!」


クロウの言葉へ、勇者が頷く。



「……そういえば、俺らそのうち、装備も替えないとですよね……」


すれ違う冒険者たちの装備を見て、クロウが呟く。


勇者も、自分の装備を見下ろした。


「そうなんだよね……。今度のゴブリンまでは、“皮装備”で行けると思うんだけど……」


「俺らはいいっすけど、スイちゃんはまだ“布”っすよね?」


「僧侶って、“布”の次は何を装備するんだろ?」


勇者が、露店を眺めながら首を傾げる。


「俺らと同じ、“皮”なんすかね……?」


クロウもあまり詳しくないらしく、揃って首を傾げる。


「……あっ!」


「どうしました?」


勇者の声に、クロウが振り返る。


「あの腕輪、なんかカッコイイ」


露店に駆け寄り、しゃがむ。


「おやお客さん。お目が高いね。一点ものだよ。装備すれば、たちどころに……」


「おい。止めとけ。それ装備したら、呪われんぞ」


「えっ」


露店商の売り文句へ聞き入っていると、不意に上から声が降ってきた


勇者が見上げる。


特徴的なターバンを巻いた男が立っていた。


素肌へ直接ベストを羽織り、裾を絞ったズボンが動きやすそうだ。


「チッ。……ジンかい。商売の邪魔すんじゃないよ」


「目の前で、“呪いの腕輪”を買おうとする“オノボリさん”だぜ?


俺に見られたのが運の尽きってな。諦めな、婆さん」


「しょうがないねぇ……。ほれ、行った行った!」


「……あ、はい」


露店商へ追い立てられるように、勇者とクロウが離れる。


「……あの、ありがとうございました」


”ジン”と呼ばれた男へ、勇者がお礼を言う。


「気にすんなって。呪われる前で良かったな。そんじゃ」


「あっ、俺。“今代”って言います。名前聞いてもいいですか?」


「コンダイ? 変な名前だな。……まぁいいか。俺は“ジン”。よろしくな。


ま、縁があったら、また会うだろ」


「あ。コンさんは、“今代の勇者”っす」


クロウが横から補足する。


「はー、“勇者”か……!」


ジンが、にやりと笑う。


「てことは、俺は“勇者様”を救ったって訳だ。


 こりゃ、運がいい!」


楽しげに手を叩く。


「……にしても、“勇者”か……」


ふと真面目な顔へ戻り、ジンが顎に手を当てる。


「こりゃあ、“エビ天”様のお導きかも知れねぇな……」


「“エビ天”様?」


勇者が首を傾げる。


「ああ。“エビ天”様ってのは、商売の神でな。


“エビみてぇに、引く時も前を見据える”っつう、前向きさを象徴にしてんだ」


「へぇ……?」


そもそも、“エビ”という生き物自体を知らなかったが、勇者は曖昧に頷いた。


「……という訳で、だ。これも“乗りかかった船”ってやつだな」


ジンが、器用に片目を閉じて見せる。


「俺を、“勇者パーティ”に加えてくれねぇか?」


「えっ?」


「金回りの困り事なら、俺に任せろ」



「……コンさん。正直、かなり“アリ”じゃないすか?


俺たち、装備も幌馬車も買いたいですし、滞在費もかさんで来ますし……」


「……確かに……」


クロウの言葉へ勇者が頷き、改めてジンを見る。


「直近で、なんか困ってんなら話聞くけど?」


ジンが両手を軽く広げ、首を傾げた。


「……色々あるんだけど……」


「じゃ、エールでも飲みながら聞こうか」


親指で飲み物屋台を示し、ジンがまた器用に片目を閉じて見せる。



「はー。マジで今日来たばっかりなのか。……で。どこに泊まってんだ?」


飲み物屋台のカウンター席へ、ジン、勇者、クロウの順で腰掛け、エールを注文する。


「えーと。確か“金の麦”亭だったと思うっす」


運ばれたエールへ口をつけながら、クロウが答える。


「あぁ、あの大通りに面してるとこか。


……確かに日当たりと寝心地は良いが、“皮装備”の冒険者には高くねぇか?」


「うん。高くてびっくりした」


エールを飲みながら問いかけるジンへ、勇者もしみじみ頷く。


「なるほどなぁ。で、さっきの話になる訳か。


装備と幌馬車が欲しいんなら……そうだな。ちと路地には入るが、悪くねぇ宿もある。明日、案内してやるよ」


「えっ! 助かる!」


「……じゃ、パーティの件と合わせて、明日改めて酒場で待ち合わせでいいか?」


「うん。ドーガたちにも話したいし」


ジンが確認し、勇者が頷く。


「そっすね。それでいきましょう」


「じゃ、また明日な。気をつけて帰れよ」


「うん、ありがとう!」


エールを飲み干したジンが席を立ち、ひらりと手を振る。


勇者とクロウもエールを飲み干し、宿へと歩き始めた。


「いやぁ、良かったっすね」


「うん。いい人で良かった」



──グランベルで初めての夜が、更けていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ