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二百代目勇者、今日は低気圧につき休みます  作者: 灯吉郎


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第十二話 グランベルへようこそ

酒場からほど近い、宿屋へ入る。


「いらっしゃいませ。当宿は、三階の個室が一泊三ゴールド、二階の相部屋が、お一人様一泊二ゴールドとなっております」


「わらわは、相部屋で良いぞ」


「ラナさんと一緒のお部屋がいいです」


ラナとスイが頷き合う。


「コンさん、俺らどうします?」


「儂は相部屋で構いませんぞ」


「うーん。俺とクロウが相部屋で、ドーガは個室にしよう。


すいません。相部屋ふた部屋と、個室をひと部屋。十日ほど連泊したいんですけど」


クロウとドーガの言葉を受け、勇者が宿屋の店主へ告げる。


「かしこまりました。それでは、合わせて百十ゴールドになります」


「うっ!」


「はは。合計すると、もう幌馬車買えそうな金額っすね。


先に支度金貰っといて正解だったっす」


クロウが苦笑する。


それぞれが支払いを済ませ、鍵を受け取った。



「……ダイ殿。早めに宿を引き払えば、払い過ぎた分のゴールドは戻りますゆえ……」


「うん……」


「あと、あれっすよ! ここ、通り沿いで人気なんで。他の宿屋探すのもアリっす!」


「うん……」


予想外の出費へ落ち込む勇者を、ドーガとクロウが慰める。


「難儀よのう……」


「実際、幌馬車の予算に近い金額でしたから……」


ラナが呟き、スイが眉を下げる。


「まぁ、幌馬車も買えば終わりではないがな。維持費は掛かる」


「そうなんですね……。旅になると、色々ありそうですもんね……」


ラナの言葉へ、スイが首を傾げる。


「じゃ、夜市までは部屋でゆっくりするってことで」


「うむ。クロウ殿、ダイ殿を頼みますぞ」


「うっす」


ドーガが頷き、三階へと上っていく。


「じゃ、コンさん。入りますよ」


「うん」


クロウの言葉へ、気を取り直した勇者が頷いた。



夕刻の鐘が鳴る。


にわかに、外が騒がしくなってきた。


「何だろ……?」


勇者が、窓の外を見る。


「“入れ替わり”っすね。……コンさん、外見ててください。楽しいっすから」


「うん」


クロウの言葉へ頷き、窓の外へ目を向ける。


すると、どこからともなく、屋台を引いた人々が街の奥へと歩いていく。


「わ、凄い。屋台がたくさん……!」


「でしょ? あれが並んで、グランベル名物“夜市”になるんすよ」


「“夜市”?」


「そっす。昼間は普通に市場やってる場所なんすけど、夜は“屋台街”みたいになるんす。


まぁ、“屋台”だけじゃないんで、まとめて“夜市”って呼ばれてるんすけどね」


「へー!」


「本番はもう少し先なんで、楽しみにしててくださいね」


「うん!」


クロウの説明へ頷き、目を輝かせながら外を見る。



やがて屋台の列が落ち着き、辺りが薄闇に包まれた。


「……じゃ、そろそろ行きましょうか」


「俺、ドーガ誘ってくる!」


クロウの言葉に、勇者が飛び跳ねるような勢いで部屋を出る。


「……子供みたいっすね」


まだ大人になったばかりだとは聞いていたが、こうして見ると実感する。


思わず、クロウの口元へ笑みが浮かんだ。


(“夜市”、しっかり見守らないと……)


ドーガとラナにも見守りを頼まなくてはと思いながら、鍵を掛けて隣室をノックする。



「すでにいい匂いがする!」


外へ出ると、夜風に乗って炭焼きの香ばしい匂いが漂ってきた。


「あー。これ、あれっすね。“夜市名物”の、“ワイルドボアの串焼き”っす」


「ワイルドボア!」


「コンさん、走ったらはぐれますよ」


「先に行くか? ダイよ」


「いや、大丈夫。みんなで行く」


「偉いですな」


(……なんすかね、この家族みたいな雰囲気は……)


ドーガとラナに見守りを頼んだものの、はしゃぐ子供を相手にしているような気持ちになる。


「でもほんと、いい匂いですね……」


早足になる勇者へ歩幅を合わせながら、スイが微笑む。


「あの串焼き、エールが進むんすよ……。


独自の香辛料文化があるんで、“あの味はグランベルでしか再現出来ない”って言われてるんす」


「早く食べたい!」


市場までの緩やかな上り坂を、勇者たちが歩いていく。



やがて、たくさんの灯りに照らされた“夜市”へ辿り着いた。


「わぁ……!」


市場に、整然と並ぶ屋台。


合間には簡易テーブルが置かれ、食事スペースが取られている。


早々にエールを飲む冒険者たち。


人気の串焼き屋台には、すでに数人が並んでいた。


「行こう!」


「コンさんと並んで来ますんで、近くのテーブル席キープしといてください」


「分かった」


「エールはいくつ買うかの?」


急ぐ勇者を引き止めつつ、クロウが告げる。


ラナが頷き、反射的にドーガがエールの数を尋ねた。


「みんな飲むなら、串焼きのあとでも大丈夫っすよ。テーブル席で注文出来ますんで」


「便利になっておる……」


ドーガが瞬きをし、クロウが笑って手を振る。


「串焼き! 俺、二本食べたい」


「美味そうっすよね。確かに……一人二本いっときましょうか」


“夜市”の喧騒に紛れ、屋台に並ぶ。


「本当に賑やかですね……!」


近くのテーブル席へ座り、スイが忙しなく辺りを眺める。


「そうじゃの。……で、スイはエールで良いのか?」


「あ、すみません。果実水でお願いします」


「だそうだぞ、ドーガ」


「かしこまりました」


スイの様子を微笑ましく眺めつつ、ドーガが近くの店員を呼び、注文する。


「ありがとうございます! エール四つと、果実水ひとつですね!


合わせて二ゴールドと三シルバーになります!」


「では、これで」


「はい! では、こちらの札と引き換えになりますので、ここでお待ちください」


「分かりました」


店員が、樽の並ぶ飲み物屋台へ戻っていく。


「なるほど、便利ですな」



串焼き屋台では、勇者とクロウの順番が回って来ていた。


「おじちゃん! 串焼き、十本ちょうだい!」


「あいよ! ……おや。お客さん見ない顔だな。“夜市”は、初めてかい?」


「うん! 凄い美味そうだね」


「ははっ。そうだろう。“一度食えば、もう他の串焼きは食えねぇ”って評判だからな。


……ほらよ、十本で十ゴールドだ」


「ありがとう!」


五本ずつ包まれた串焼きを、大事に抱える。


「……兄ちゃん」


「ん?」


「……オマケだ、持ってきな」


「うわぁ! おいちゃん、ありがとう!」


さらに満面の笑みを浮かべる勇者へ、屋台のおじさんも、日に焼けた顔をくしゃくしゃにして笑った。


「……良かったっすね」


包みを半分引き受けながら、クロウが勇者に微笑みかける。


「うん! 美味しそう……」


「ちゃんと前見るんすよ」



テーブル席に戻った。


「お待たせしました。おっ、エールも来てますね」


「今来たところじゃ」


クロウの言葉へ、ラナが頷く。


勇者が席へ着き、串焼きの包みを広げた。


「わぁ、美味しそうですね!」


「おっちゃんが、オマケしてくれたんだ!」


スイの歓声に、勇者が串焼きを掲げて見せる。


「せっかくですし、乾杯しましょうか」


「そうですな」


「いいですね!」


「うむ」


クロウの言葉へそれぞれが頷き、ジョッキを持つ。


「……では、グランベルでの新たな旅路に」


「乾杯!」


ドーガの言葉を勇者が引き継ぎ、皆でジョッキを合わせた。


「串焼きうまーーーい!」


「本当じゃの。しばらく来ぬうちに、さらに複雑な味へ仕上がっておる」


「肉汁も凄いです。食べやすいのに、しっかりしてて……」


「ね。“ここでしか食べられない”感じするでしょ?」


「俺、毎晩食べたい」



──賑やかな“夜市”は、まだ始まったばかりだった。



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