第十一話 冒険者と商人の街、グランベル
翌朝、野営地を後にする。
「やー。やっぱり、大きい街道は歩きやすいっすね!」
左から差す朝日に目を細めながら、クロウが伸びをする。
「ホントにねー。道幅も広いし、馬も歩きやすそうだよ」
後ろを歩く勇者が、頷く。
「次の街までは、確か二時間ほどじゃったか」
「そうですな。そこまで遠くありません」
ラナとドーガの会話に、スイが声を弾ませる。
「割と近いんですね……!」
歩くこと、しばし──
「……あ! 見えて来ましたよ!」
スイが、ぱっと表情を明るくする。
商人たちに混ざり、検問を待つ。
「……そういえば、この街ってなんて名前なの?」
「ここは、冒険者と商人の街“グランベル”っすよ」
「へぇ、“グランベル”……!」
高い外壁に囲まれ、まだ街の全容は見えない。
勇者とスイが、期待に目を輝かせる。
やがて、勇者たちの番が回ってきた。
「こんにちは。勇者一行です」
勇者が胸元からペンダントを取り出し、門番へ見せる。
透明感のある青い石だった。
結界石と同じ紋様が刻まれており、勇者が触れると淡い緑に輝く。
「これは……確かに勇者の証」
「どうぞ、お通りください」
門番たちが敬礼し、道を開ける。
「ありがとう」
街へ足を踏み入れる。
「わぁ……!」
広いが、年季の入った石畳の上を、商人の荷馬車が行き交う。
冒険者らしき人々が、酒場へ吸い込まれていく。
軒先には数多くの看板が下がり、客を呼び込んでいた。
道端には屋台、路地には露店。
人々の活気が、街を賑やかに彩っている。
「すごいですね……」
「ホントにね……」
スイと勇者が、思わず足を止める。
「とりあえず、冒険者用の酒場の近くに厩あるんで。そこへ預けちゃいましょう」
「わかった」
クロウの提案に、勇者が頷く。
「はい。馬二頭に、荷物が四つですね。こちら、盗難紛失保証金をつけておりますが、貴重品がある場合は上乗せ出来ますが。いかがでしょうか?」
「貴重品とか、あります?」
「無いよ」
厩番の言葉にクロウが重ねて尋ね、勇者が答える。
「では、標準でお預かりします。一日で、合わせて八ゴールドになります」
「はい」
勇者が支払いを済ませ、厩を後にする。
「どうしましょうか。まだ荷物ありますし、先に宿決めます?」
「そうじゃの。ここを暫しの拠点にするのであれば、連泊も視野に入れて良かろう」
クロウの問いかけへ、ラナが頷く。
「そうですな。ダイ殿、レベル上げと依頼を視野に入れておるのであれば、“西洞窟”がおすすめですぞ」
「幌馬車の予算て、百二十ゴールドくらいかな? 何日くらいで達成出来ると思う?」
ドーガの提案を受け、勇者が顎へ手を当てながら問いかけた。
「……そうですな。となると、先に酒場で話し合った方が良さそうですな」
「そっすね。立ち話もなんですし」
「そうだね。酒場、すぐそこみたいだし」
頷き合い、近くの酒場へ入る。
「シーダの酒場へようこそ! 五名様ですね? あちらのテーブル席へどうぞ!」
元気な店員に案内され、テーブル席へ腰を下ろす。
「ついでに、昼飯も頼みましょうか」
「そうしよう! おすすめあるかな」
勇者が問いかけると、店員が笑顔で答える。
「本日のおすすめは、“荷馬車シチュー”セットになります! パン付きですよ!」
「荷馬車シチュー?」
「商人さんや冒険者向けに、朝から煮込んでる人気料理なんです!」
「へぇ、美味しそう!」
「じゃ、それ五人分で」
「かしこまりました!」
店員が伝票へ書き込み、別の店員が人数分の水を運んでくる。
「本当に賑やかですね……!」
「王国よりも、活気がありますな」
スイの言葉に、ドーガが頷く。
「……お待たせ致しました! “荷馬車シチュー”セット、五人前です!」
「わぁ……!」
車輪を模した円が四つ、さらに窓を模した紋様が掘られた、可愛らしい四角い器に、シチューが盛られている。
「ウサギの肉っすね、ホロホロで美味いっす」
シチューを掬ってひとくち食べ、クロウが目を細める。
「パンも美味しいです……!」
スイが嬉しそうに微笑む。
焼きたてのパンは、ちぎった場所からふわりと湯気を立てていた。
「器も目に楽しいしの」
ラナが、荷馬車を模した器を眺めて目を細める。
「おすすめなだけあって、量も充分ですな」
ドーガも満足げに頷いた。
「……さて、今後の目標ですが」
食後の紅茶を飲みながら、ドーガが告げる。
「うん」
「まず、先ほども申したように。
“西洞窟”でのゴブリン退治を主軸とし、道中で薬草と毒消し草を探すのが良いでしょうな」
「なるほど」
ドーガの説明へ、勇者が頷く。
「こちらの酒場では、常設依頼が受けられましてな。“西洞窟”のゴブリン退治と、薬草と毒消し草の採取依頼を受けるのです」
「わかった、じゃあ受けよう」
勇者が立ち上がり、ドーガも続こうとしたところで、クロウが止める。
「あ。俺、支度金貰うんで。ついでにコンさんのサポートしますよ」
「分かった、任せる」
「うっす。行ってきます」
クロウの言葉へ、ドーガが頷いた。
「どうも。勇者パーティの支度金と、常設依頼を受けたいんすけど」
酒場のカウンターへ、クロウが声を掛ける。
「かしこまりました。支度金の方、これから用意致しますので、しばらくお待ちください。依頼の方は、パーティ契約で宜しかったでしょうか?」
「うっす。勇者パーティで」
「かしこまりました。魔導契約書をお持ちしますので、少々お待ちください」
受付の女性が、奥へと入っていく。
「魔導契約書ってなに?」
やり取りを見ていた勇者が、首を傾げる。
「ありゃ。コンさん、酒場で依頼受けるの初めてっすか?」
「うん。俺、酒場に入れるようになったの最近で。依頼受けたことない」
「マジっすか。なら説明しますね」
勇者の言葉に驚きつつ、クロウが説明を始める。
「まず、酒場で依頼を受ける時は、個人かパーティか選ぶんす。で、“魔導契約書”を書くんすよ。
この契約書があると、例えば薬草なら、抜いた瞬間の魔力を感知して数を記録してくれるんす」
「へー! 便利だね」
「ですね。で、依頼を達成して酒場へ持っていくと、達成分の経験値が入るんす。
例えば、ゴブリンを倒した場合、攻撃した人と、トドメ刺した人に経験値入りますよね?
それとは別に、“依頼達成分”の経験値が入るんすよ。個人契約なら丸ごと、パーティ契約ならレベルに応じて分配されるっす」
「倒した分とは別に、依頼達成でも経験値が入るのか……」
勇者の呟きへ、クロウが頷く。
やがて、女性が戻ってきた。
「お待たせ致しました。こちらが支度金になります。
次に依頼ですが、ゴブリン退治は数不問で、一匹につき一ゴールド。
薬草はひとつにつき、二シルバー、毒消し草は五シルバーになります。宜しいでしょうか?」
「はい」
「ではこちら、三枚の魔導契約書へ、代表者様のお名前をお願い致します
「わかりました」
勇者が頷き、三枚の契約書へ名前を書く。
紙の表面が淡く輝き、やがて静かに光が消えた。
「ありがとうございます。これで契約完了となります。
パーティの皆様、それぞれフルステータスにて契約内容を確認出来ますので、ご活用ください」
「分かりました、ありがとう」
受付へ礼をして、テーブル席に戻る。
「うわー! 緊張したー!」
「初めての契約、お疲れさまっした」
紅茶を飲み干す勇者に、クロウが目を細める。
「ダイ殿。説明があったかと思いますが、百二十ゴールド稼ぐのならば、十日もあれば充分でしょうな」
「そうだね。幌馬車を買う日のことも考えると、そのくらいあれば良さそう」
ドーガの言葉へ、勇者が頷く。
「では、そろそろ宿を探そうかの」
「そっすね。安いとこ埋まるの早いですし」
ラナが立ち上がり、クロウが頷く。
「夜は、夜市行きたいっすね」
「夜市?」
クロウの言葉へ、勇者が首を傾げる。
「グランベルの、“夜の顔”ってやつです。楽しいっすよ」
「へー!」
「楽しみです……!」
勇者とスイの表情が、ぱっと明く輝く。
──こうして、グランベルでの生活が始まった。




