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見捨てたくない人

「起きろ馬鹿弟子」


パコッン


「っえ!…と師匠?」


ばこっ!!


「いだぁっ!」


「私の声を忘れたのかマーリン?なんなら今からまたお前に忘れられぬ記憶を刻み込んでやってもいいんだぞ」


「申し訳ありません私の偉大なるお師匠さま。それだけは勘弁してください!!」


ダルさんと戦って必死に勝った後に師匠との戦闘とか絶対に死ぬ。師匠に僕を生かすつもりがあったとしても半分くらいの確率で死ぬ。なんかの手違いで普通に師匠は僕を殺してしまう可能性がある。そんなアホみたいな理由で死ぬのは避けたいというか嫌だ。


「全く先の戦いぶりといい、その結末といい、少し悪い意味でお前はここに馴染みすぎたか。

意識なき人形となった時はつまらぬと思ったが、最後のあれはなんだ?あれならば儂の幼稚な真似をしてやった方が良かっただろうが!!」


ドガっ!!


「ぐぅっあ!」


本当に痛いです。割と強めに蹴ってくるんだけど、本当に痛い。

でも言ってくる事が全部正しすぎて何も言い返せないから、黙って這いつくばるしかないんだよね。最後のあれは実際、ダルさんが弱っていたから冷静に戦ってダルさんの限界を待つ方が正しい判断だと僕も思う。

それでもあんな戦い方をしたのは僕の個人的なこだわり?みたいなものだったからね。後悔自体はしてないけど、師匠にそんな言い訳をしようとは思わない。そんな事をしたら本当にボコボコにされるだけだからね。


「儂がお主の視力を奪った理由を述べてみよ。」


「僕が自身のできる範囲を自分で正しく認識する為です」


「それで?お主があの小僧にした事はお主の身の丈にあった事であったか?」


「……いいえ、僕の力量に合っていたとは思いません」


この師匠に面と向かって白状するのは本当に心にくる。素直に怖い。これがシェーラ母さんとかならある程度のお仕置きは来るけど度を越す事はないからここまで怖いことなんてない。

でも師匠の場合は、刀持った介錯人の前に首を出して許しを乞うている気分になるんだ。


「・・・・・・・」


「・・・・・・・・師匠?」


「数度だ」


「?」


「今のお主が目指すそのやり方で儂とまともに刃を交わせる域に至るまで、最低でも数度は儂と戦いその上で生きておらねばならん」


…あんまり深くは考えてなかったけど確かにその通りだと思う。前に師匠と試しでやった時はとっかかりすら掴めず転がされたんだよね。

あれが最低でも一回あるとして、取っ掛かりを掴んでうまく行ったとしても、あのやり方で師匠の勢いについていくのはかなりきつい。

最低でも五回〜十回は真剣な死闘をしないと、僕の目指すやり方で師匠と戦える様になるのは無理だね。


「出来れば五十回くらい模擬戦がしたいです」


「儂がそんなままごとの様なものを求めていると思うか?」


「思いません」


「ならばどうする?儂と本気で十度ほど死合いその全てを生き残ってみる難業を試みてみるか?」


師匠と出会った時と同じくらい本気で十回死合?

多分というか絶対僕が負けるね。その上でその難業を乗り越えれたとしても師匠の武力に並べてるとは思えない。やり損だ。

というか師匠に勝つのってかなり無理難題じゃないかな?多分ギリシャ神話の二代英雄ヘラクレスでもこの試練は乗り切れないよ。会った事はないけどね。


「多分一回目で死ぬと思います。」


「そうだな、生き延びれて三回といったところだろうよ」


僕としては師匠に勝てるとか全然思わないんだけど、それをいったらどんな事態になるか分からない。最悪殺されて、悪くて地獄の特訓、よくて僕から興味を無くすってところだけど、どれもなんか嫌だ。殺されるのも、特訓も、スカイをわざと失望させるのも選ぶのも選択肢にない。

師匠は槍で遊ぶ様に軽く振るってから


「……どうだ?儂の弟子である事を、我が願い託される事を拒んでみるか?」


「(……、なんでこの人は)」


「確かにお主には可能性がある。だがな芽吹くのみで咲き誇ることがないならば致し方ない。儂の前から去る事を許す。かけた封印も何もかもを解き、自由にしてやろう。」


「(そんな声で、こんな時にそういう優しい事を言うんだろうね)」


その声はあの時僕へ降参を進めてきた時と同じだ。この人は最後の最後に優しい。ううんちょっと違うかな、弱いんだ。表情は見えないけどなんとなくわかる。師匠のこの問いかけは、僕だけじゃなくて師匠自身にも問いかけてるんだろう。

なにより今の僕は、師匠の、スカイのその部分にもう一度触れようとしてる。


「師匠は、…どうするの?」


「……どうするもこうするもなかろう。また彷徨うだけだ。まぁ如何ともし難くなれば、また神に挑むも悪くないかもな。望む者とは違うが、行き詰れば仕方あるまい」


うーん……それは嫌かなぁ。よっちゃんと師匠が戦ったらどっちが勝っても悲しいだけだし。

そういえば師匠っていつから旅を始めたんだろう?一回もそこら辺聞いた事なかったっけ?


「(まぁこれから聞いてみるのも悪くないかな。うん、いいねそうしようか。何かの縁で出会って師弟の関係になったんだ。この関係は大切にしたい。それに僕はこの人を悲しませたくないんだよね)」


「決めたよ師匠。僕は師匠からの願いは受け取らないよ」


「……ふっそうか。それも、仕方ないな」


僕の言葉を聞いても師匠の声音に変化はない。平坦で優しさを覗かせる声だ。

でも、僕が思う師匠の声じゃない。


「でね。僕が僕の意思でいつか叶えに行くよ。だから師匠はもうちょっと待ってて、必ず行くから。

どうすればいいかまだわからないけど、絶対行くからさ」


はは…やっちゃったよ。あははははは、また同じことやっちゃった。もう笑うしかないね。

全然後悔なんてないけどさ。はははははははっ、あはははははっ!あの夜と同じことやっちゃった、


「……マーリン、言ったはずだぞ。背負いきれぬものは背負わぬことだ。途中で倒れれば御主だけではなく、背負われた者まで傷つくのだからな。

背負わぬ事が優しさになる事もある。」


僕もそう思う。師匠のいう通りだと思うけど、今回はその手段は取りたくない。きっと最善なんだろうけど、最良じゃないから。

二人ともが僅かなりとも後悔する手段だと思うから。

だから


「その時はごめんなさい。また頑張って師匠は次の人を見つけてくださいね。」


「…随分と軽く言うものだな。」


声に乗ってる殺気が半端ないね。まぁ大切にしてきたところにずかずか踏み込んで、失敗したらまた頑張ってって言ったんだから当たり前か。

でもここはちゃんと言っておかないといけないんだよ。ここで誤解を残しておくわけにはいかない。


「軽くなんて言ってませんよ。…弟子の僕が命をかけて頑張りますから師匠も頑張ってください。僕はそう言ってるんです。」


「…っはぁ?」


素でその反応は逆に困る。結構勇気振り絞って言ってるんだからそこら辺を師匠として上手く察してほしいです。


「えぇっとだからね。僕は死ぬ気で師匠の願いを叶える為に努力するから、それでも失敗した時は師匠がまた死ぬ気で頑張って次の人を見つけてください。って事」


つまりは頑張りますけど、師匠にも頼りますって事だね。流石に師匠にも頼らせて貰わないと駄目だ。だって師匠は僕よりも強いからね。それも馬鹿みたいに強い。

僕が誰にも頼らずに師匠の願いを叶えにいくなんて、僕だけの力じゃ無理だ。


「くっくはは!!!はははっはは、なるほどな。

だがマーリン、お主は儂の願いすら知らずにそれを誓って良いのか?」


そういえば師匠からまだ内容についてまだ一個も聞いてなかったっけ?

まぁ仕方ないよね。もう決めちゃったし、覆そうなんて思えないしね。


「大丈夫です。もう決めましたから」


「そうだとしても聞こうとは思うだろう?」


「なんでですか?、特に気にならないですよ?」


「いや、気になるものだろう?お主が命をかけることになるものだぞ?」


確かに師匠のいう通りだけど、ことここに至ってしまえばもうそこまで重要じゃないと思う。師匠が僕を強くするって事は強くならないと達成できないって事だし、それはこれから頑張るしかない。

わかってる条件が達成できてない今、それ以上のことを聞いても意味がないんだし、


「決める前ならその判断の基準になるけど、決めた後ならもう内容を聞いたところで何も変わらないんだから重要じゃなくないですか?」


「・・・・・」


「出来そうだからするとか、出来なさそうだからやめるとかそんなもので僕は命はかけませんよ。

やるって決断するだけの理由があるからやる。

決断したならやるだけですよ」 


「・・・・」


コンッ!!


「っ!??」


かなりいい事を言ってたつもりなのに何故か師匠に槍の石突?で頭を叩かれた。

一瞬面食らった僕を師匠が服を掴んで立ち上がらせてくる。


「っえ??っと、」


「何ボケっとしている?つまりは儂の弟子を続ける訳だろう?」


「う、うん。そうだけど。」


「なんだ?はっきりしろ!」


「はい!これからもよろしくお願いいたします師匠!!」


「いい返事だ。これから残りの六人と順に試合ってもらうから覚悟しておけ」


「師匠、体がもう限界なんですが」


「ん?もう万全だろう?」


そう言われて軽く体を動かしてみれば、確かに問題ないくらいに回復してる。寝ている間に師匠がやってくれたんだろうか?


「それとその試合が終わればあの村を出るからな。別れを済ませたい相手がおるならさっさとやっておく事だ」


「あー別れはいいかな。なんか恥ずかしいからね。それよりも村を出たらどこに向かうんですか?」


「【命の境界線】の中を適当に巡る。お主は人里に長期間おると勝手に死にかけるからな。

そのまま【命の境界線】を横断する形でディミトリアまで行くことにした」


またこの人は普通じゃないことをさも当たり前の様に。いいんだけど、なれてきたけどさ。

師匠は歩き出す前に


「マーリン、私はお前を殺す気で鍛える。だからお前も死ぬ気で励めよ」


念押しというよりも師匠なりの意思表明なんだろうね。その声は聴き慣れた師匠の声だ。

僕がそうあって欲しいと思う師匠の声だ。

ならちゃんと答えておかないといけないよね。


「全力でついてくよ師匠」


「死力を持ってついてくることだ我が弟子」



ここで一応【命の境界線】は終了です


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