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酒を飲みてぇ、

タァッーン タッタァ〜ン タァッタッタタ、タァッーン タタッタァーン タタタッターン


「(ちょっと違うかなぁ……)」


足でリズムを刻んで腕からは力を抜く。

跳ねて跳んで、その勢いのままに腕を振るう。


タタッ〜 タァン ダァッン


「(あぁ…またズレた)」


どうしても足のリズムに気をつけると腕がズレる。逆も同じ。やっぱりこのやり方は僕には向いてないのかな?完成形がちゃんと僕の頭にあるから、ここまでやってできないならもう僕には向いてないとしか思えないんだよね。


す〜ったッ。ホォン!ダッダダッ!!


目の前から僕に迫ってくる白い人形へいつもの僕のやり方で反撃する。

もう何回目かすら覚えていないくらい吹き飛ばしている白の人形。殴っても蹴っても何をしても立ち上がって僕を襲ってくる。

十回目くらいまでは一応倒し切ろうと頑張ってみたんだけど、一向に力尽きてくれる気配がないので倒し切ることを諦めた。

そんな僕が何をしているのかと言うと、いろんな戦い方を練習している。さっきまでは僕が思い浮かぶ中で一番強い人の戦い方を真似してたんだけど、うまくいかなかったから通常の僕の戦い方で白い人形を吹き飛ばした。

白い人形は倒れたらすぐには立ち上がってこないので、その間は自身の手足の感覚や、動きを確認する時間がある。


「やっぱりこのやり方の方がしっくりくるんだよね。まぁ今は練習だし、ある程度はやってみるんだけど」


僕が動きの確認をし終えたところでタイミングよく白い人形が立ち上がってくれた。

白い空間に白い人形。あの空間よりもは狭いけど人形がある分あの時よりも随分と環境が良い。


「(そういえばなんで僕こんな事をやってるんだろう?)」


時々頭をよぎる疑問は目前に迫ってきた人形への警戒でまたどこかへ消えていく。

人形の攻撃パターンはかなり複雑。だけど動き自体はまあどうと言うことはないくらい。十分に対処できる。


「(次は手刀、下段刈り、正拳突き、中段蹴りかな?)」


タァッン タタァッーン タッ、ドガァッ!!


「(予想通り。正拳突きを交わし人形の頭に上段蹴りを入れて、そのまま空中で回ってもう一発)」


バァゴォッン!!


「っはぁ…」


人形が倒れたのを確認して一息つく。


「(やっぱり回避と攻撃を同時にやっていきながらどんどん攻めていくのは疲れるね。)」


攻撃を流し、躱して相手にできた隙を責める。わかりやすい。

でも攻撃をしながら、わざと管理できるだけの隙を晒して戦うのは疲れる。

今の僕じゃまだ攻撃の分量とわざと晒す隙の分量をうまく管理できない。しかも動いているうちにちょっとずつ足と腕がズレていくし、問題点が多すぎる。

その原因が単なる僕の鍛錬不足なのか、それとも生来の才能不足なのか。

あの時と同じでわからないまま、とにかくやっていくしかない。


「あはは、あぁ…なんて言うか。うん。」


悪くないと思う。状況も理由も目的も何もわからないまま、全てを手探りでやっていく。

あの時と全く同じ。ゆっくりと心が麻痺していくのを感じながら、背負っていたものが流れ落ちていく。

軽い。軽い。軽い。軽い。体が、心が軽いんだ。


「……すごく気分がいい」


笑みが自然と顔に浮かぶ。

きっと今僕はとてもいい笑顔をしていると思う。

「(だってこんなに楽しいんだから)」










「ガハッ!、ガハッ!。はぁ〜はぁ…。あぁぁっくそったれが…」


壁にもたれかかりながら離れた場所に佇むマーリンを睨みつけ、俺はそんな事しか言えなかった。


「ああ……っくそ。」


何十回目かの敗北によりもう俺に残ってる余力はそう多くはない。俺の頭にあるのは何が悪かったのか、何が原因なのか、そんな疑問だけが浮かんでは消える。


「もともと…勝ち目なんかなかったのかねぇ〜?」



あの時マーリンの首を掴んだ俺は勝利を確信していた。油断なんかしてね〜容赦もしてね〜。俺ができうる限り徹底的にやった。

最後の最後マーリンの抵抗が無くなってからも、マーリンの手から獲物が落ちてからも、俺は一切首を絞める手から力は抜かなかったぜ。


そうあの瞬間、マーリンの身体強化が解け手に伝わる抵抗がなくなる瞬間までは俺の心に隙はなかった。


「(まぁ、最後の最後に油断したから今こうなってるわけだがな)」


マーリンの首を掴んでいた俺の手が、感じていたら抵抗がなくなった事で一瞬弛緩した瞬間だ。

気づいた時にはマーリンの両腕が、首を掴んでいる方の俺の腕を掴んでへし折ろうとしていた。

咄嗟に首を握っいた手を離し、振り払う事で完全に折られずにすんだわけだが、替わりにマーリンが自由の身になったというわけだ。


「(今思えばあれが勝負の分かれ目だったな)」


手を振り解いた俺はマーリンが体勢を整えるさせない為に攻撃をしたわけだが、ありゃあ完全に悪手だった。あそこは一旦引いて様子見をしたほうが良かったと今更になって思う。

そうすりゃあ、マーリンの様子がおかしい事くらいは気づけたはずだからな。


攻撃を仕掛けた結果を先に言っておくなら惨敗。

一切の抵抗もできずただやられるがままやられたね。

理由として挙げるなら、手を離してから俺が攻撃するまでの一瞬でマーリンが完璧に身体強化を完成させていた事。それをさせない為に無理に攻めた俺は予想外の事態で対応できなかった。

後はマーリンから一切の手加減が消えたことくらいか。確かにあった俺を死なせないための手加減が消えて、まるで人形でも叩き壊すかの様に攻撃してくる様になった。

しかも感情の無い顔でだ。俺からしたら人形はマーリンの方なんだが、そんな俺の煽りにも耳を貸しやしねぇ。


「(あの時点でもう俺にはマーリンに付け入る隙がほぼ無くなったわけだな)」


そんな感じマーリンに叩きのめされては立ち上がり、追撃を躱してまた叩きのめされた。

本当に一方的な戦いで、俺は殺されないように耐えるのが精一杯だ。

何十回か地面に叩きつけられたところでマーリンから俺へ攻撃してくることはなくなり、俺が立ち上がるまで洞窟内を歩き回ったり、その場で軽く動いたり、意図が読めない行動をしだした。


訳がわからなかったが、それでも好機だと感じた俺は音を立てないように立ち上がり一旦距離を取る事にしたわけだ。音を消し気配を消せば俺の力量でもマーリンから気付かれないのは確認済みだったからな。

距離を取って石でも投げてればいいかなんて考えてたわけだよ。白状するなら完全に油断してたわけだ。

そんな油断し切った俺にすぐさま気付き、距離を作る暇もなくボコボコにされ地面を転がされたわけだがな。

ありゃあ素直に驚いた。

バレないと思っていたことがバレた事もそうだが、通用すると考えていた俺の力は実際には通用していなかった事がなによりもショックだったわけだよ。


これでも生まれてこの方そこそこの実力者だって言う自負はあったからな。そんな俺のちっぽけなプライドが粉々に砕かれたわけよ。

無様に地面に転がされて放心してる俺を、感情の無い表情で見つめてくるマーリンを見て流石の俺も笑うしかなかったぜ。

いやでも思い知らされる力の差って奴だ。【無双】にボコされた時や、最初にマーリンに挑んだ時とは違う。相手にすらされ無い弱者の気分ってのを初めて思い知ったぜ。いや思い出した。


「(ああ……本当にマーリン。お前は嫌なことばかり俺に思い出させる)」


思い出したくね〜失敗を、後悔を、あいつらとの記憶を俺に思い出させてきやがる。


「ああぁぁったくよ〜〜!マーーリン!!!!」


背にある壁を支えにしながら立ち上がり叫ぶ。酒がない状態で動きが止まればこれだ。いらね〜思考がすぐに俺の邪魔をしやがる。これならまだマーリンにボコされてる方がマシだ。


フォンっ ファンッ ドドッ!!


「うぐっ!」


戦えば戦うほど当たる事が無くなっていく俺の拳に、鋭さを増すばかりのマーリンの反撃。


「ウラァっ!!」


ファンッ ドスっ!! ダダァッン!!


「ガハッぁ…!、」


お前らがここを訪れなきゃ俺は諦めれたんだぜぇ。

あいつらとの誓いも、あいつとの約束もどうにもなんねー事だってよぉ〜諦められたんだよ。


「クソォッォオ!!」


ガッ、 ドドっ!! バゴッ!ドスッ!!


「オゥェッ!」


誓いなんかとうの昔に果たせなくなった。約束なんてとうの昔に守れなくなった。仲間は俺を行かせる為に全員死んだ。あいつは俺がたどりついた時には遊ばれ尽くされて死んでいた。


「はぁっ…はぁつ…」


ドガッ!! バゴッ!!  


「グオォッ!」


結局あいつが連れて行かれた時諦めた様に、最後まで諦めてたら仲間のあいつらまで失うことはなかった。

逆にあの時、全部捨ててあいつを助けようとしたら、あいつだけは助ける事ができたのかもしれない。

もう全部遅い後悔だがな。


「オェッ、ガハッ!!」


ドッ! ドドっ!!  ドガァッッ!!!!

ドカッッ!!、どさ。


「かっは!!  はぁ…はぁ…」




ああ……酒が欲しい。


「(・ダル!!お前が助けに行かなきゃなんねーんだろうが!!あのゲス野郎がアンネに何するかぐらいわかってんだろ!!!???・)」


酒だ……安酒でいい、今すぐ飲みてぇ。


「(・剥製卿って呼ばれてる理由くらい知ってるんだろうアンネ!!??・)」


「(・知ってるよ。だからダル。私の代わりにみんなの事よろしくね・)」


くそ、酒だ、


「(・最初からそう言えばいいんだよ!!!

ずっとダルやアンネに守られてきたんだぜ俺たちは!!!絶対にアンネを助け出そうぜ!!!・)」


ああ……酒が足りねえ


「(・あぁ…あの娘の横におった小僧か。もうあの娘ならおらぬぞ。儂の自慢のコレクションに生まれ変わったからなぁ〜。

かかっか。特別にお前にも見せてやろか?・)」


ああああああ?、お???お!!あ!あ!あ?あ、あ!あ!ああ、!?、あ、あ、あ?あ、あ!あわ!、あ、あ!あ、、あ、?あ、、あ、!、あ、、!!あ?あ!、あ?!!?あ!!??




仲間は死んだ。あいつは剥製にされた。

もうどうしようもなんねー。酒を飲んでバカやって、また酒を飲んで忘れるしかね〜。

飲んでバカになって、さらに飲んでアホになれば、その間だけは考えなくて済む。そうやって生きてたんだよ。


「ぞれ、だってのによぉぉ。おまえらが、まだ俺にがのうせいを、みせやがる。」


守りたかったもんを全部守ろうとして結局全部零ちまった。せめて半分なら守れたはずなのに、俺は全部を零しちまった。


アンネとの約束はもう守れねぇ……。

あいつらは死んじまった。死んだ奴らは生き返らせることはできねーんだから。

だがあいつらとの誓いなら、アンネを取り戻す誓いはまだ可能性がある。

死んじまってるんだとしても、剥製にされてるんだとしても、あのクソ野郎からアンネを取り戻すことは出来るんだよ。


そりゃあ、あいつらと交わした誓いとは少し違うがよ。それでもまだやれる事はある。

あのクソ大貴族の宝物庫から盗み出せる力さえありゃ叶えられるそんな可能性が。


普通に考えりゃあ無理なんだよ。どんだけ個人で強くとも、俺が強くなろうとも相手は三大国家の大貴族。万に一つも可能性なんかありゃしない。

だから俺は諦めてたわけだよ。


だがよぉ〜あの【無双】なら難なく達成させてしまうだろうぜ。もう流石としか言いようのないほど鮮やかにな。まぁそれならまだ良いさ。最初挑んで敗北した時に俺の中に生まれた感情も、俺の考えていた最後の可能性を諦めるとっかかりになるものだったからな。 


問題はマーリンお前だよ。

お前なら諦めずに取り返しにいくんだろう?

俺みたいに迷ったりせず両方守りきるんだろう?

なんたってほぼ知らない人間助ける為に【命の境界線】に魔法術が使えない身で行っちまうくらいなんだからよぉ。その上で本当に全員救い出しちまうんだろうぜ。

こんなところで腐ってた俺には酷く眩しい奴だよお前は。

そのお前を超えられたなら俺はちゃんと前に進める気がしたんだよマーリン。

だってのによぉぉ〜!そのお前はなんて顔してやがるんだよ!!


「はっはっ、ガハッ!!……んっ、べっ!!」


ベチャッ


「なはっ、ならははは!ならはははははは!!」


確かに今の人形みてぇなお前は強〜よ。

だがな【無双】には程遠い。そんな中途半端な強さの奴と戦いたかったわけじゃねぇ。そんな中途半端な奴に変えたかったわけじゃねぇんだよ。

俺が戦いたかったマーリンはな、俺が憧れたマーリンはクソガキで、理想家で、呆れるぐらい…カッコいい奴なんだよ。


「だからテメーはサッサと引っ込みやがれぇー!!」


感想ご意見あれば教えてくれると嬉しいです。

作者自身これでいいのかあまり自信がないので

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