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狂気は笑顔と共に、狂気は憤怒の後に

「あ〜〜〜こりゃぁ〜もうどうしようもないかー」


煌びやかでありながら荘厳な大広間。

その中央に置かれた黒き鉱石で作られた円卓に足を乗せながら若き王は、国の重鎮達の前でやんちゃな中学生の様に大声で喋りだす。


いくら王とはいえ、否だからこそ決して部下達に見せるべきではない姿だろう。しかしこの場、この円卓を囲む二人の臣下にはその振る舞いへの怒りの感情は見当たらない。

それどころか、王の振る舞いに便乗する形で騒ぎだす始末だ。


「じゃははははは!!!上手くしてやられたなノア!!!

あれだけやられてしまえばもう文句の一つも言えんわ!!!!じゃはははははははは!!!」


「バッハ殿、いちおうあんなのでも我らが王の前ですので、もう少しお静かにお願いします」


「いや〜カッシアちゃん、まじでシンラツ〜〜。俺の心にダイレクトアタックだよー」


この光景を傍目から見た人には、決して王とその重鎮達には見えないだろう。

それ程までにこの場には緊張感というものが欠落しており、学生が休み時間に机を囲んで談笑している様にしか見えない。


「でもさ〜バッハの言う通りこれはどうしようもないってーー。何年か前に起きたあの馬鹿でっかい戦争に続いて、今回のあの戦争だよ〜〜。

実際戦争へ影達を放って調べさせたけど、マジのマジ。オオマジの戦争じゃんあれ。」


「そうですね。規模から兵装、前準備、そしてその被害に至るまで一切ケチのつけようがありません。

あれに何かケチをつけたなら、逆にこちらが責められてしまうことでしょう。」


「だよね〜〜。出来れば今くらいに世界の基盤にヒビを入れときたかったんだけど、上手く対応されちゃったよ〜。エファーラルおばさんの策かな〜〜」


宙に絵でも描く様に手をもて遊びながら、ノアと呼ばれた少年は言葉を垂れ流す。その見た目は少年と呼称するのが一番自然な容姿をしており、バッハと呼ばれた大柄で顎髭が印象的な筋肉質よ男はもちろん、カッシアと呼ばれた細身で磁器を思わせる白く滑らかな肌が印象的な女性よりも身長は低い。

しかしその少年の座る位置はその空間の中央だ。

円卓が置かれた空間なれど、万人が見れば万人が理解できるほどにわかりやすく主張されていた。

円卓も椅子も灯や窓の配置も、柱の位置からしてこの部屋の全てが今少年の腰掛ける椅子を引き立てる為に作られているのだと。

だがノアはそんな事を気にしない。

己が身分など自分には関係ないと言わんばかりの振る舞いであり、その振る舞いを諫めるべき臣下二人に至ってはもう慣れてしまっていた。


この空間を作らせた者、細部にまでこだわり抜いて完成させた者達はきっとこの三人をみれば嘆き悲しむだろう。「あぁ…この光景はこの空間には似つかわしくない」と。

しかしこの三人そんな事は気にしない。正確にいえば内一人は気にしているが諦めてしまっている為改善される事は有り得ないということだ。


「あぁ〜〜どうしよっかなーー。もう当分は中四国が乱れる事はないだろうからね。あの阿保共との決戦はだいぶん先になるな〜〜。」


「ノアっ!こちらからぶちむいてやればいいだろ!!!」


「「馬鹿がいる〜(馬鹿ですね)」」


見るからに武闘派のバッハの言葉を一瞬で切り捨てるノアとカッシアだが、その光景はどこからどう見ても………以下略。


「それが出来てればこんなに苦労してないって〜いう話でしょ〜〜。

下はあの皇帝が守り固めてるし、中は難攻不落の城塞地下王国。上はおばさんと俺たちの他に、他勢力が多すぎて手が出しづらいでしょー。

ほらっ〜〜無理よりの無理だって。

バッハがあの皇帝をサシで抑えてくれるってなら可能性あるけどさ〜〜」


「馬鹿言えっ!!あの人外を俺一人で止められる訳ねーだろ!!!」


「中と上についても同じです。中はどれだけ戦力を投入しても攻略は困難。上手く攻略できたとしても五年〜十年かかりますし、下手をすれば何十年単位です。あまり現実的ではありません。

上については条件で言えば下や中よりもはマシですが、いかんせん不確定要素が多い上にエルフの女王が相手です。下手に手を出せばこちらが崩されかねません」


「はいっカッシアちゃん説明ご苦労〜さまっ!!

お馬鹿なバッハは、ちゃんとお勉強してくださいね〜〜」


「ああっくそ!!わかったよ!!」


三人の会話の内容はこの場にあったものだというのに、なぜこんな風に………以下同文。

先人達がこの光景を見たならば顔に手を当てて………以下割愛。


「だけどよぉっ!!そう言う問題があるのはわかったが、そんなこと言ってたら何にもできねーだろ!!!」


「いやね〜そう言うわけでもないんだよね。そんなに遠くない未来確実に世界規模の大戦が起きるよ。ねっ?カッシアちゃん」


「そうねノア。遅くても二十年の内に世界規模の戦争が自ずと起こるでしょう。どこがと言うわけではなく全ての国が同時に一歩を踏み出す大戦が」


バッハは完全に思考が止まっていた。話の流れについていけてないのだろう。しかしノアはそんなバッハの状態など気にする男ではない。


「祝福の世代は厄介だよね〜〜。僕の息子もそうなんだけどさ、あれらはまるで流れ星だよ。光り輝き人々を魅了し、最後は何も残さずパァッだからね。出来れば僕たちの世代までに色んな問題片付けたかったんだけど、もう叶いそうにないよね〜」


「いやっおい!!??どう言うことだよ!!」


「言葉そのままの意味ですよバッハ。事の始まりは私達の手から離れましたが、無くなったわけではありません。各国が力を溜め切った時自ずと始まる様になっただけです。」


「ほんとっ〜〜に困った神様だよね〜〜」


バッハはその足りない頭をショートさせ、カッシアはただ悲壮な顔で俯き、ノアはただカラカラと笑う。無邪気に高らかに笑い笑って笑う。


「バッハもカッシアも笑いなよ。」


「あっ!?どこに笑うとこがあんだよ!!??」


「今貴方に付き合う気にはなりません。やっとここまで来た矢先にこれなのですから。」


「だからだよ。だから笑いなって言ってるのさ」


このノアの発言には流石のバッハにカッシアとはいえ困惑の色を隠せてはいなかった。何故ならこの二人は知っていたから、ノアこそが種族の怒りの権化であると。その生涯をただただ奴等を根絶やしするために捧げてきたことも。

そのノアが笑い狂っているのだ。幼き頃から付き添ってきた二人だからこそ困惑してしまうだろう。

そんな二人を眺めながらノアは言う。


「あの時と同じだよ……。僕たちの無力さを笑おう。世の理不尽を笑おう。人の救えなさを笑おう。この世界の全てを笑おう。」


「「・・・・・」」


「その後にまた誓えばいいんだよ。

………あの屑どもに思い知らせてやると!!

我が憎悪を、我が憤怒を思い知らせてやると!!

その肉片一つ、面影一つこの世に残させるものかとなぁっ!!!!

はっ!ははっ!!ははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」


祝福の世代は流れ星だとノアは言った。だがノアこそが流れ星なのだとバッハとカッシアは確信しているだろう。

その体に種族の憎悪を積み込んで、進む希望の船。

苦難の空を飛び、その身を焼き焦がしながらも進み輝く狂気の星だ。

酷く人を惹きつけるその輝きを最も側で、最も長い間浴び続けてきたバッハとカッシアはもう正気には戻れない。

バッハはノアと共に笑い狂いだし、カッシアはその目に涙を浮かべながら悲痛に笑う。


狂気と希望の魔王【憤怒の方舟ノア】

絶対的な忠誠心【撃剣随順のバッハ】

滅私奉仕の伴奏者【賛美供奉のカッシア】


魔族領最大の国【ロンゴミア】においてこの三人は民達から最も愛された魔王と魔将であった。


初の魔族回でした。

ダル対マーリンもどうするか決めましたので、次回は話が戻ります

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