強き獣と信義の教育者
「おい?なぜ私がこんなところに来なければいけないんだ?」
「そりゃあお前、我らが王からの命令だよ。この前聞いてただろ?お前がやらかした事への罰みたいなもんだ。受け入れろオフェリア」
「それは私も納得している。が今はその内容について聞いているんだ」
「見たまんまだろ?」
ディエゴはそう言って目の前に建っている馬鹿でかい建物を指差す。
「ここで私に何をしろというんだ?」
「安心しろ。ちゃんとした仕事だ」
建物に入るための門の前で中の様子を見ながらそういうディエゴだが、私からしたら正気を失っているとしか思えない。
そんな感情が顔に出ていたのか、ディエゴは私の顔を見ながらその平凡な中年顔で笑いかけてくる。
「もう大体わかったと思うが、オフェリアにはこの王都の教育施設で月一で臨時講師をしてもらう事になった。やり方は自由だが生徒は殺すなよ」
「いや少し待て」
「担当は前期の三年の上位クラスだがお前基準で言えば全然だ。壊れ物扱うつもりでやれよ。俺はこれから手続きしてホノルルティに帰るから、その後は全てお前に任せる」
私が予想していた罰と違いすぎる内容に言葉が出ない。
頭の中ではディエゴや王都で謁見した王への罵詈雑言の嵐だが、無慈悲にもディエゴは書類手続きを終わらせ、ランガルに乗って帰って行った。
そして教育施設の一室には混乱した私と、ディエゴと共に書類を制作していたこの教育施設の名誉理事長という女がいるだけだ。
見た目は五十半ばか後半に見えるが年齢は定かではない。がかなりの実力者である事は纏う雰囲気や仕草で十分に伝わってくる。
その女は先ほど書き上げた書類を纏めてから改めて私を見てくきた。
「では改めましてオフェリアさん。私はこれから貴方と教育施設の間に立ちサポートしていく事になるヴィオレラです。
これから教育施設での事で不明な点があれば私にご質問くださいね」
「そうか、よろしく頼む。早速一つ質問だがいいか?」
「ええ構いませんよ」
「なら月に一度の臨時講師というのは何をすればいいんだ?教育施設という言葉から何のための場所かはわかるが、もう少し具体的な情報が欲しい」
書類まで作成されているのならもう臨時講師をする事は決定事項なんだとしても、これまで全く関わる事がなかった物事をいきなりすることはできない。これは一応正式に下された私への罰である事を考えれば適当に終わらせる事は許されないだろうしな。
「……?、あぁそういえば【命の境界線】周辺の村が出身でしたか、なら教育施設と縁がないのは当たり前の事ですね。
教育施設は国が運営する知識と経験を若き人達へ伝える場です。そして講師はそれらを提供する者。
基本的にこの国では十二歳までは各村に設置されている初等教育施設までが義務であり、そこから八星都市 衛星都市 王都の教育施設に進むかは各人の能力と意思次第です。
オフェリアさんにこれから臨時講師をしてもらう王都はこの国で最も大きな教育施設であり、そこで教えていく知識と経験の種類と量は間違いなくこの国一番の場所でしょう。
ここまでに質問はございますか?」
「いや大体は理解できた。私の村にはなかったものだが、名前だけは耳に入っていたからな」
【命の境界線】を離れて約二年、部下や時々話をする国の役人から言葉自体は聞く事が多かったが具体的な説明を受けた事が一度もなかった。
一つの疑問が解消され私としては満足いく話だったが、ヴィオレラの表情は少しだけ陰っている様に私の目には写る。
理由が私にはわからないが、何か罪悪感を抱えている雰囲気だ。あの時のマーリンと同じかそれ以上に濃い?様に感じる。
「どうかしたのか?少し顔色が優れない様に見えるが?」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。
こうして私個人の問題で貴方に迷惑をかけてしまっていることもそうですが、【命の境界線】への教育施設設置を断念した事をお詫びしたいのです。
貴方が【命の境界線】を離れるまで知らなかった事には貴方に一切の非は無く、責められるべきは私を始めとするこの国の上層部の力不足です」
なるほどそういうことか。
マーリンも同じ様なことで自分を責めていたが、私から見ればマーリンにも、今のヴィオレラにも自身を責める必要は感じない。
生まれた場所の違い、個人の力の違い、容姿の違い、違いは探せば探すだけ存在するものだ。
それは誰の責任では無い。強いて挙げるとするならば、その違いを克服しようとしなかった者の責任だろう。
「(自分の力不足を人に押し付ける事には、何一つ意味がないのだから。)」
だがマーリンもヴィオレラもそんな事は自身でよくわかっているのだろうな。
でなければそこまでの強さは持ち得るはずがない。
とは言え
「私にはわからないな。あいつもヴィオレラ、お前も。それは背負わなくても良いものだろう?役職における責任なのだとしてもそれはお前だけが背負うものでは無い筈だ。
その上で自らそれを背負い込むのは何故なんだ?」
「あいつも、ですか?その方がどなたかは存じ上げませんが、私個人として背負い込んでいるつもりはありませんよ。自分の信義に基づく事を自分ができる範囲でやっているだけです。
今回の事はただ私の信義に触れたというだけの事なんですよ」
信義、自身の守るべきと定めた道か。
ならマーリンはなんだったのだろうな?
目の前のヴィオレラの理由の信義はまだ理解の範疇に収まるものだ。
叶えたい願い、護りたい矜恃の為に生きる。ヴィオレラには、はっきりとしたその理想の姿がありそれが職や役割として現実に実体になっている。
だがあの少年は違った。ルールはある。護りたい何かもあるのだろうが、実体にはなっていない。
どうしても掴みきれない影、もしくは形があるだけの雲。
あの夜、マーリンを掴もうとした私の手は、何も掴む事も出来ず空を切ったわけだしな。
「はぁ……結局わからないままだな。
すまない、余計な事を聞いた。信義に触れたという事だったが気にしなくて良い事だ。
私がこう言ったとしても気にするのだろうが、一応言っておく。」
「えぇこちらとしてもそう言ってもらえると助かります。もう曲げる事が出来ないものですから。
では少し長くなりましたが詳細なこれからの予定について話しましょうか」
「ああよろしく頼む」
ヴィオレラからの説明で、どうやら私は王都の教育施設と部下の訓練場を往復する生活をするらしい。
立場としては月一の臨時講師で間違いないが、他の学徒と同じ様に教育施設で教育を受けれる事ができる。
そして実際に講師として仕事をするのは担当する前期の新三年が元々する予定だった課題をある程度片付けてからになるらしい。
私にはそれまでに教育施設に慣れていて貰いたいとのことだ。
流石に今の私に国の才能達を預けるのは不安なのだろう。
「私が教育施設に行く回数は自由だと聞いていくるが、最低限守るべき回数はあるのか?」
「そうですね。せめて数度は実際に講師をする前に学徒の戦闘訓練の授業を見学してもらいたいです。私達の基準で言えば貴方に講師をしてもらう学徒はその年齢の割には十分な実力を持っていますが、人によっては異なるでしょう。
その認識の違いを確認して貰えれば、後は何も。
講師をする日のみ教育施設に訪れるという形でも構いません。」
「それは以外だな」
この国の上は私に何かしらこの教育施設でな変化を求めている様に感じたわけだが?
「なるほど、あの人達が色々と動くわけですね。
力だけでは無く、確かな聡明さも持ち合わせている稀有な人材ともなればあの人達の考えも理解できます。
ですが安心してください。私の名の下、学び場での貴方の自由を保証します。
貴方は己の進みたいがまま進めば良いでしょう」
「いちおう礼をいっておく、ヴィオレラ」
「貴方にとって学び場での時が良き糧とならんことを」
面白い。
部下達がいる訓練場へ向かいながら思い出すヴィオレラのあり方。
故郷にいた強者とも、これまで会ってきたこの国の強者達とも違う、強者としてのあり方だ。
個として高みを目指すでも無く、生きる為でも奪うでも無い。戦場という場で勝つためでも守るため、戦う為では無い。
ただ自分の理想とする姿で生きていく為の強者としてのあり方。
あの不思議な少年とは似て非なるあり方だが、それでも今まで見た中では非常に近い。
気になる。何故あの様なあり方であれ程の高みへ辿り着けるのか、今の私には想像すらできない。
「はっはははあはははは!!!!ああぁ、まだ知らない事が多いな、私には」
そう知らない事が多い。それはまだ私が強くなれる証拠だ。ファブニールとの再戦でまたあいつを打ち破れる様に、どんな障害だろうと切り開けるほどに私は強くなろう。
そしていつか宣言通りお前を私で染めてやろうマーリン
オフェリアとスカイ・アザーレは似ていますが根本的に違います。
その違いは話が進む内になんとなく伝わって欲しいですが、伝わらなかったらどうしましょうか。
強い獣がオフェリア
武人がスカイ・アザーレ
今の所はこういう認識お願いします。




