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デスマッチ

「はぁぁーーー、ふぅっ」


肺に溜め込んだ古い空気を全て吐き出して、新しい空気を勢いよく肺に取り込む。

吸い込む空気も淀んだ空気で、気持ちのいいものでは無いけど、こればっかりはいる場所がいる場所だけにどうしようもない。

そして今は、そんなどうしようもない事に思考を回すだけの余裕はないんだよね。



「ならははぁ〜!!マーリン坊ーー!そろそろ降参してくれてもいいんだぜぇ〜?」


「ダルさん。いまはお互いにそんな冗談は通じないと思うんだけど!」


岩で密閉された空間とそこに閉じ込められた淀んだ空気。

聞こえるのは僕とダルさん、それに岩の崩れる音だけであり、空気が外に流れている音は聞こえない。

そんな空間で僕が発した声はよく空間に響いて残るんだけど、それが消える前に音を塗り替える様にして、新たな音が発生する。


ドガァッ!!


四時の方角で岩の破裂音が響くと同時に僕は高く跳び上がり、岩の天井に足を着け音のした方向目掛けて跳ぶ。だけどそこにはもう誰の気配もしない。


「いや〜なはは!!!!驚きだ〜!!!まさか数メートルはあるこの洞窟の天井を足台にして飛んでくるなんてなぁー!!」


空間の中を反響するようにダルさんの声が響く。

最初の発生源で一瞬だけダルさんの位置は把握できるけど、そこから声が反響してしまえばもう音で場所を特定することは難しい。

昨日と今日の稽古で少しだけ視力が効かない状態での戦いにも慣れることができた。とはいえこんな密閉空間での視力なしでの戦闘なんて経験にない。


頼りにするのは聴力と相手の気配。後は経験からくる勘ぐらいしかない。

そんな視界の効かない今の戦い方はどうしても戦いでの集中力の消費が早い。視力が効く時の三〜五倍くらいは軽く早いと思う。

少しでも頭を休ませられるなら休ませたい僕は、一旦ダルさんと会話する事で時間を稼ぐ事にした。


「そういうダルさんの方こそ驚いたよ。師匠の言った事に一番反応しないって思ってた人がさ、新海さんよりも早くに反応するんだからね」


「ならはははぁっ!!そりゃ日頃飲んだくれな俺でもねぇ〜〜。

………"マーリン坊を殺せば願いを聞いてやる"なんて言われりゃやる気にもなるぜ」


声音と雰囲気が変わったかと思うと、僕の真後ろから僅かな殺気を感じた。


「(喋りながら移動してたって事かな?)」


僕は振り向く時間がない事を理解すると、前方に転がるようにして跳び、地面を転がりながら体の向きを反転させるようにして体勢を整える。


僕が前方に跳ぶのと同時に頭のすぐ後ろを何かが通りすぎた気配がし、続け様にまた岩が吹き飛ばされる音が響く。


「(地面の殴っての岩の弾丸。回避は無理そうだね)」


流石に無機物を視界以外で正確に捉える事はできないから、木剣を盾にするようにして構えて飛んでくる岩の衝撃に備える。


ガガッ! ガンッ!


耐えている最中もダルさん本人からの追撃を警戒したけど、一向に追撃に来る気配は感じなかった。


「いーやぉ〜〜流石だねぇ〜。未熟者の俺なんかが殺気隠したとしても意味ねぇってかぁ。」


「本当に容赦ないんだねダルさん。後ろに回られるまで全く気配を感じなかったよ」


「あぁ〜そりゃぁそうだろぉ〜よぉ。目が見えなくてもザイバにルーン デンタに真っ向勝負で勝つ奴が間だぜ。近接戦オンリーでマーリン坊に勝てるなんて思っちゃいねーからなぁ。ついでに今でも本職の泥棒は捨ててね〜んでねぇ。

……それによぉ、容赦ねーっていうのはお前の師匠みたいな事を言うもんだろ?」


「…はは、否定はできないのが辛いところだね」



今ここで僕とダルさんが戦っている、いや殺し合っている理由を作ったのは僕の師匠であるスカイその人だ。

師匠は僕から視力を奪った次の日、あの七人にある提案をしていた。というか僕たちが稽古をしている時にいきなり宣言してきたんだよね。


「お前達は最初に私へ答えを求めたな。

だが私からお前達に教えてやれる答えはない。その上で私の力、知識でお前達が望む何かを叶える手助けができるならば考えてやらんでもないぞ?

もちろん条件はあるがな。

条件というのは、私が決めたルールの元私の弟子であるマーリンを殺す事だ。

やりたい者から前に出ろ」


普通に弟子のいる前で提案というか宣言する事じゃないよね。

しかも提案している相手はそこいらにいるような盗賊や犯罪者達じゃなく、間違いなく達人の域に達しようとしている武芸者達だ。

しかし残念なことに冗談の類ではない。それくらいの事はあの場にいた師匠を除く僕たち八人全員が、師匠から発せられていた濃密な殺気で理解していたと思う。

まぁそれでも身の危険をひしひしと感じ、事前に説明されていなかった僕は黙っていることはしなかったんだけどね。

師匠が提案内容を口にし始めだと同時くらいに、咄嗟に提案の撤回を師匠に求めようとしたんだけど、思いっきり僕の鳩尾へ師匠の踵を入れられて黙らされたよ。


そして僕が床に蹲っている時に、その師匠からの提案に真っ先に行動したのが、さっき会話にも出ていたダルさん。

師匠と新海さん以外の全員が動揺した。というよりも素直に驚いていたよ。


そんな僕たちだけど、師匠は予想していたと言わんばかりに話を進めていった。

ダルさんへ師匠が提示した条件は洞窟内での一対一の死合。魔法術無し。武器は自由。スキルあり。時間制限あり。

時間制限は洞窟内で息ができなくなり窒息死するまでの間。時間制限がきてなお勝敗がつかない場合は両者死亡で終わり。判定は師匠スキルを用いてする。


「(改めて考えても弟子への容赦なんて一切ない様に感じる程厳しい条件だね。だけど確かにその中に師匠としての優しさはあるからなんとも言えない)」



僕は今日の数時間前に起きた出来事を思い出しながら、ゆっくりと思考を回転させていく。

こんな時に《明鏡止水》か《clown mask》があればと思う自分がいるんだけど、今は《天性の肉体》以外は封じられてる。


「はぁ…、一回体験しちゃうとどうしても贅沢者になっちゃうね。数ヶ月前の僕が今の僕を見たら笑うだろうけど」


「ん〜?どうした、負けでも認めてくれんのかぁ?」


「独り言だよ」


この死合が始まってから既に数分。広い空間の洞窟とは言っても着実に中の酸素は少なくなってきている。

僕は今の状況で取れる選択肢の少なさを自覚してから、何処にいるのかわからないダルさんに喋りかける。


「そういえばまだ聞いてなかったけど、降参してくれたりとかしないよねダルさん?」


師匠の出した条件の中には僕がどういう風にダルさんに勝てとかはなかった。きっと僕のやりたい様にやれって事なんだろうけど、僕がやりたいというかしたいのはダルさんに降参してもらって、お互い無事に終わることなんだよね。

その意図が伝わらない筈がないダルさんはいつもの調子で言葉を返してきた。


「あぁ…優しいねぇ〜。優しいぜぇ。感動のあまりこの俺が泣いちまいそうだぜ」


言葉が洞窟内に響いたと同時に、真正面から隠そうとされていない気配が現れた。まず間違いなくダルさんだろう。

そして言葉と真逆の感情がそのダルさんに宿っていることは雰囲気や気配で理解できる。


「だがなぁ…ならははぁ〜、それも時と場所次第じゃあ人の機嫌を損ねることもあるんだぜっ!」


ダルさんはそう言い切った後も、そのまま僕の真正面から一直線に距離を詰めてきて、僕がその動きに反応して構えた剣の防御を無視するかの様な勢いで拳を打ち込んできた。


「うっっそ!!」


予想以上の力と衝撃に、完全に受け止め切ることが出来ず僕の足は地面から離れる。予想外の威力と事態に一瞬だけ思考が停止してしまう。

そしてそれを見逃すようなダルさんではない。僕の体が地面から浮き上がると同時に、僕の下顎へ固い棒が直撃し、空中で完全に死んだ僕の体の鳩尾めがけての蹴りが入れられた。


ドッガァァ!!


「ガハッ!!んっ…げボォ!!」


蹴り飛ばされた僕はそのまま壁に打ち付けられ、その衝撃と下顎を襲ってきた攻撃のせいで思考が働かない。


「(正拳、トンファの一撃、最後のは蹴りの入り方から回し蹴り?

いやそれよりもダルさんの動きに何か違和感…」


「ぼぉ〜っとしてんじゃねぇーヨっ!!」


回らない思考でのんびりさっきのダルさんの攻撃を考察していると、俯いていた僕の顎を蹴り上げるようにして蹴りを入れられ、体が起き上がったところで首を掴まれた。


「ははは〜…流石のマーリン坊でも目が見えねぇんじゃぁこんなもんかねぇ〜…」


ぐぎぎぎっ…


「あっがぁっ」


いくら身体強化をかけた状態の僕でも首を絞めらたらどうしようもない。どれだけ魔力で肉体を強化したところで、肉体の機能の仕方は身体強化をしていない時と同じだからね。それにこの体格差でへし折られていないだけ儲けものといったところだし。


「んっん……」


「ならはははっはは!流石マーリン坊だねぇ〜。首をへし折るつもりで握りしめてんのに喉を締めるのが精一杯ときやがる。

っウォッ〜とっ!」


バゴォッ!!


「グゥァっ!」


余力があるうちに僕の首を掴んでるダルさんの腕をへし折ろうとしたら、もう片方の腕で動かした腕ごと顔を殴られた。


「いや〜ならはは、マーリン坊相手に油断するわけねぇ〜って。まぁ悪いけどよ、……このまま殴り殺すことにすっからな」


バゴッ!バキッ!バキッ!ドゴッ!バゴッ!ドゴッ!バゴッ!バキッ!バキッ!ドゴッ!バゴッ!ドゴッ!バゴッ!バキッ!バキッ!ドゴッ!バゴッ!ドゴッ!


僕の首を締め上げたまま無言で打ち込まれる拳は

顔を重点的に狙いながら、鳩尾や脇腹、股間を徹底的に潰しにかかってくる。

僕の方も腕や 足で防御はするものの、目が見えないが故に正確に 受け止める ことすらできず、 一方的 に体を潰されていく のに耐えること しかできない。


「(というか もう頭に 血がのぼっ…って、)」


息というか それ以前に 思考が 働かない

視界が チカチカ する し

体 に 力 が入ら ない

音が 痛 みが 観覚  が  遠 い


「す なねぇ マー  坊  お前  ち 願  かな させて 貰  ぜ」


最後  に 聞こ え  た ダル さ んの 声 は  ひ どく つ よい ダ ルさん の  

 強 い感 情が こめ  られて  い る  よう

に 感じ  た

書いているうちにマーリン優勢のストーリーが何故かこういう結果になりました。

明日以降、少しマーリン以外の話を書いて、この戦いの展開をちゃんと考えます。

決着はお待ちください。ちゃんと考えます。

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