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器から溢れる酒

メーフェが家に戻って行った後に一分ほど考えてみたけど、これ以上考えてもわかりそうになかったからいったん答えを出すのを諦めた。

そして雪に埋まっているユグドラシルの剣を手探りで探し出して、僕も屋内に行こうとしたんだけど、聴き慣れた声が僕に話しかけてくる。


「ぷはぁー!!あぁ〜酒はいいねぇ、なんたって気分が良くなる体も温まる。ついでに頭も回るってんだからなぁ〜マーリン坊?ならははははは!」


「いつからいたのかなダルさん?」


「えぁ〜っと、いつからって言われると覚えてねぇーがなぁ。【無双】とマーリン坊の戦いが終わって少ししたくらいか?

本当はその戦いを肴にして酒を飲もうと思ってたんだがよぉ、【無双】からの殺気がやばかったんでやめといたってわけよ」


戦いが終わって少ししたくらい?

つまりは僕が雪の中倒れていたくらいからって事だよね。


「ねぇダルさん。」


「おう!どうしたマーリン坊?」


「メーフェが来なかったらダルさん、僕を起こすつもりあった?」


「・・・・あったりめぇ〜よ!もう少ししたら俺も起こそうと思ってだぜ!」


なんて人なんだろう。起こす気がなかったのか。本当に死ぬギリギリに起こすつもりだったのかはわからないけど、子供が雪に埋れていく様を見て楽しんでたとか怖すぎる。


「ダルさんはちょっと人としてダメなんじゃないかな?」


「ならははははは!!ルーンの奴と同じこと言いやがる。だがよぉ、さっきメーフェ嬢ちゃんと話してた事を聞いてた限りマーリン坊もかなりダメだと思うぜ」


「うそ、聞いてたの?」


「そりゃあなぁ聞こえるもんは聞くし、それが面白そうなら酒の肴にするもんだろう?」


あんな恥ずかしい話をよりにもよってダルさんに聞かれていたとは、これはあれかな?話のネタにされて晒される感じの流れかな?


「ダルさんちょっとだけお話をしない?」


「おういいぞぉ〜。村長が隠し持ってる鉱人の火酒を俺にくれるってんなら、もう俺から言うことはねぇ〜ぜぇ〜〜」


酔っ払いのくせして無駄に頭の回転が早いね。

いやどちらかと言うと、こういう展開を予想して予め考えてたのかもしれないか。まぁどちらにして知恵が働くのはまず間違いないね。だって頑張れば交渉できなくないくらいの条件ではあるんだから。


「その前に一つ質問していい?どこで村長が僕に借りがある事を聞いたのかな?」


「ん〜っちょっと前にティッティの奴が村長にマーリン坊が何かですげぇ感謝されてたって言っててよぉ。あのじじいがそんなに感謝するって事はそういう事だろうって思ったわけよ。」


「なるほどね」


「ならははは〜あのじじい年齢の割に元気だしよぉ。その割に周りに注意が払えててなかなか弱み握れなかったわけだが、他所から来た奴への対応が頭から抜けてたんだろうなぁ〜」


ダルさんはそう言いながら何かを飲む音の後にゲップを吐いた。多分お酒なんだろうけど、さっきの音は水やジュースでも一気飲みしてるのかと思うくらいの音だったよ。

表裏がある人だけど、表が酷すぎて裏の顔を覗けたとしても認識を改めにくいところがある。

今だって観察眼が鋭く推察力もあるって確信できたのに、前方から"チャプチャプチャプチャプ"酒場で聴き慣れた酒の残りを測る音を聴けば、改めようと思った考えが少しだけ鈍る。


「まぁ〜ラッキーハッピーって奴だな!んでどうすんだぁ?」


「はぁっ…仕方ないね。村長からも何かお礼って言われてたし、口止め料としてもらってダルさんにあげるよ」


村の共同浴場の女性側、その壁の外側にもたれかかり、中から聞こえてくる声を楽しみながら晩餐していたこの村の村長。

その帰りに気分よさそうに独り言を漏らして帰宅しようとしていた村長とバッタリあった僕は、村長の独り言から何をしていたのかを知ったというわけ。

最初は村の女性人にバラそうと思ったんだけど、村長がひどい泣き面で懇願してきて結局話を聞くことになった。

今までは入念に村の人の行動を踏まえた上で月に一度ほど実行していた楽しみだということ。

覗きは自然でバレる可能性が高い為していないということ。

やった理由については同情の余地がないということ。


その上で僕がよそ者でありこの村の住人でない事や、村長がもう二度としないという誓約を自身にかけると言った事から、それ以上は関わらない事にした。あまり関わりを持ちたくないという理由が一番の決め手だったと思う。

お礼というか実質的な口止め料の話もそれが理由で断っていたんだけど、まさかこんな理由で使わないといけなくなるとは考えてもいなかった。


「ならははぁ〜そうかいそいつは太っ腹なこって。まさか言いふらすつもりなんてなかった事で念願の酒が手に入るとはこいつぁラッキーだぜぇ」


「えっ!?」


「あんな話しても面白くね〜だろ?面白くね〜話なんか相手に話せるかってんだ。笑えるところなんぞ最後のマーリン坊のとこくらいだぜ〜?」


そういいながらダルさんはしゃがみ込んだ様で、しばらくガサゴソとした後、何かに酒を注ぎながら僕の方へ歩いてきた。


「その前の話なんてのぁな、話のネタにはなるが面白味がねぇ。特に俺らなんかの間じゃあな。」


ダルさんの気配は僕のすぐ目の前まで移動してきて、僕の額に何か軽くぶつけてくる。


「残りの酒だ。酔いも覚め始めたしよぉ、こんくれぇの酒なら無いと同じだからなぁ。マーリン坊にやるぜ。とは言っても盃いっぱい入ってんだがなぁ」


そう言ってもう一度僕の額に盃?をぶつけてくるダルさん。額に酒がかかった感触が無いのでうまく力の調整をしてくれているらしい。

なんとなくの勘?気配?でその盃を僕が受け取ると、ダルさんは僕の横をすりむける様に歩き出した。


「その盃はかなり丈夫に俺が作ったから壊れるこたぁねーから安心しな」


僕の真横らへんでそうダルさんが呟き、ついでとばかりに少しだけ力を入れて僕の肩を叩いていく。。

油断していた僕はそんな軽い衝撃で体の重心が揺れてしまい、衝撃を殺しきったときにはさっきまで手に感じていた酒の重さが半分ほどになってしまっていた。


「ダルさんちょっと力強すぎだよ!」


顔だけ振り向く様にしてダルさんがいるであろう方向を向き抗議の言葉を言う。

ちゃんと僕の言葉はダルさんに伝わった様で気が抜けた様な声が帰ってきた。


「ならはは…、ちと強かったか。

だがよぉマーリン坊。いくら丈夫でデカい器だろうがよぉ。そこいっぱいに何か入ってりゃあ、今みたいな不意な出来事で溢しちまうってのはよくある事なんだぜ。」


いつもの気が抜けたダルさんの声。覇気なんて一切感じない間の抜けた声なんだけど、いつもと何か違う違和感がある。

そしてダルさんの足音と気配が止まった。


「だからよぉ、マーリン坊。お前が今維持できてるくらいが丁度いい量って事だ。

特に溢しちまいたく無いもんが入ってるほど、入れる量は控えるもんだぜ」


そう言ってまたダルさんは歩き出した。機嫌よく鼻歌混じりに笑いながら、いつもの酔っ払いダルさんが僕の前方にはいるんだろう。


忠告という感じではなかった。それも少しは意味として入っていたのかもしれないけど、僕が気になる違和感はそこじゃ無い。

でもその違和感を突き止めるにはあまりに考える為の情報が足りなかった。


僕はダルさんからもらった盃を少しだけ揺らす。

感じる重さは確かに減っているけど、そこまでじゃ無い。

ぐいっと盃を口につけ中に入っていた酒を一口で煽り、飲み込んでから軽く息を吐く。

強めのお酒でやけに口に残る香りと味。

それ口いっぱいに感じながら自然と言葉がこぼれ落ちてくる。


「はぁ…思ってた以上に少なかったんだね」


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