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行動の理由

「マーリン!!」


「…ん?だれ?」


どさっ


師匠に視力を封印されて、雪降り仕切る屋外に放置された僕。

そして僕を呼ぶ声とともに腹部への強烈な衝撃で意識を取り戻した。


「生きてる!?ちゃんと生きてる!?」


「え、ぁうん生きてるよ。それよりメーフェ、どうしたの?」


ばふっ


「っぶはっ、ちょっと冷たいよ!」


「見ればわかるでしょ!旅人さんが一人で家に帰ってきてマーリンの場所を聞いたら外で寝てるって言ったから!!いくら村の中でも外でなんか寝たら十分もしないうちに凍死しちゃうんだよ!」


ばすっ!


「ぐはっ」


ついでとばかりに腹を強めに殴られたらしく、油断して力を入れていない僕の腹筋に思いの外強烈なダメージが与えられた。

話の内容からして危ないところを助けられた事も、メーフェが僕の視力の事を聞いていない事も理解できたけど殴るのはどうかと思う。

これがそこいらの子供のパンチならなんのダメージもないけど、ここに住んでる人は本当に肉体レベルが強くてメーフェの軽いパンチでも備えてなかったら本当に痛い。


「ぐっ、そうだね起こしに来てくれてありがとう。あと今僕ちょっと目が見えないんだよね。だからメーフェが泣いてるかどうかも本当にわからないんだ」


そういうとメーフェは何も喋らなくなってしまった。理由はよくわからないけどまずは、意識がはっきりしてきた事で雪に埋まっているのが辛く感じてきたので体を起き上がらせる事にする。

上半身を起き上がらせてから服に着いた雪を払い、立ち上がってズボンについているであろう雪を払う。  


それくらい間を開けるとメーフェも思考がまとまったのか、立ち上がって僕の服を引っ張ってくる。


クイっクイっ


「ん?」


「…お父さんを助けに行ったせい?」  


「僕の力不足だよ」


直感で答えに窮してはいけないと思った。

少しでも詰まってしまったら多分メーフェはそこから僕の言葉を聞いてくれなくなるだろう。その状態になってしまえば、もう僕にはどうすることもできない。

表情からは感情を読み取ることはできない僕だけど言葉や雰囲気で、今メーフェにとって大切なやりとりをしている事はわかる。

そして僕はここでメーフェになにかを背負わせたらいけない。

それに僕の言ったことに嘘は少したりとも入ってなくて、本当にこの目の視力を失ったのは僕に力が足りなかったからだ。突き詰めてしまえばそこ以外には帰結しない。

しかし僕がそう考えていたとしても、それを相手がすぐに理解してくれるわけはなく、予想通りメーフェは震える声で否定の意志が込められた言葉をつなげていく。


「でもっ!あの時お父さん達を助けに行こうとしなかったらそんなことにはならなかったよね!?

それにマーリンならどれくらい無茶な行動かちゃんとわかってたはずだよね!?」


「無茶な事だとは理解してたけど、成功する見込みがあったからやったんだよ。それにそういう状況になったのも、ちゃんと助けられなかったのも他の誰でもない僕の力不足が原因だからね」


白獅子達を圧倒するだけの力、より早く駆け抜ける力、もっと言うならあの夜師匠に圧倒されることがないくらいの力さえ持っていらばよかっただけの話だ。

起こってしまった事や、起きると確定している事に対して、自分がうまく対応できない理由を他に求めるのは少し卑怯だと思う。

だってそれに対面しているのは他の誰でもなくて、困っているのも自分なんだから。


僕が本心からそう考えていることはちゃんとメーフェにも伝わったのだろう。少し僕の言葉の意味を考えてからメーフェ反論してくる。


「…それでもだよ。この世界で視力を一時でも失うのはそんなに軽いことじゃないよね?それが原因で死ぬ可能性なんて言葉にする必要がないくらいにいっぱいあるんだよ?」


メーフェの言っていることはもっともなことだと思う。この世界での僕の体が前世の時と比べて強靭な肉体なんだとしても、目が見えないが故に起きうる事故や、戦いでのアドバンテージを考えれば非常に重たいハンデだ。


「それを最近あっただけの人達の為に背負うなんて、助けられるかどうかもわからないのに命をかけるなんて…おかしいよ」


師匠やお婆さんではなくメーフェからそう言われると流石の僕でもなにも言い返そうとは思えない。


「なんで、助けに行こうと思ったの?」


はっきりとした性格のメーフェからとは思えないほどの掠れて消えてしまい様な弱々しい声だった。その短い質問の中にはきっと、「わたしが色々話したせい?」という言葉が含まれているんだろう。

そしてそれは正しい。僕はそこを否定することはできないからね。こうなった原因が僕自身の力不足だと判断してなお、そう行動しようとした一つの要因として、あの夜の会話が関係している事を僕は認めている。

だからそこを否定することはできないし、たとえ嘘をついたとしても、なにかしらの違和感をメーフェは感じ取ってしまうと思う。

なら、


「……助けたいと思ったからかな。見捨てたくなかったし、見捨てられなかったし、悲しんでほしくないと思ってね。

理由は色々あるけどそんなところかな…」


嘘をつかずそして誤解させない様に言ってはみたけど、あんまり上手い言い回しはできなかった。

改めて自分がこういうのを得意としていない事を自覚させられる。


「そんな、事で…あれだけの、事で……。

あんな無茶したら、命が何個あっても足りないでしょ!!

マーリンにはわたし達なんかよりも大切な人がいるんでしょ?わたし達とは比べ物にならないくらい一緒にいる人達がいるんでしょ!?

………ならっ!!わたし達を助ける為に死んじゃ、いけないよね!?」


「……うん。そうだね」


「もっと大切な人がいるなら!!自分の命をかける優先順位があるはずでしょ!?

たった数日、数回話しただけの人にすらそこまでしてたら本当にすぐにダメになっちゃうよ…。

体も心も、人はそんなに強くも大きくもないんだから。溢れちゃいそうなら捨てるしかないんだよ」


あぁ本当になんでこう僕は肝心なところで上手くいかないんだろうね。悲しませたくないと思う人ほど、僕は悲しませてしまう。ルーリィやルート兄さん、シェーラ母さんにエル父さん、みんながみんな何かしらで背負わせたくないものを背負わせてしまった。悲しませたく無いのに気づいたら悲しませていた。

気づいた時にはもう手遅れで、気づいたとしても理由はわからない。

割とそういう事は得意な方だと思ってたんだけどね。

また僕はメーフェが言いたくなかった事を言わせちゃってる。

本当にどうしようもないくらいにうまくいかないよ。


「ごめんね…もう少し上手くやるつもりだったんだ。まぁ上手くできなかったけどね。

メーフェの言う通り、人はそんなに強くないと僕も思うよ。実際僕の器じゃまだ僕の望むもの全ては入らないしね。

今のままだといつかきっと器が入れたものの重さに耐えきれなくなって壊れちゃうとも思う」


メーフェから伝わってくる沈んだ感情。

そうさせない為に頑張ったはずなのに、結局は僕の言葉で傷つけてしまっている。

今目が見えなくて本当によかった。今のメーフェの表情を見たらきっと自己嫌悪で後の言葉が続けられないから。


「でもまだ僕は大きくなるよ。これから少しずつ大きくなって、強くなって今耐えきれなくても耐えられる器になるよ絶対。

目に見えるもの全部は背負いきれないとしても、腕が届く範囲にある物くらいは背負い切れると思うから。

まぁだから気にする事ないよ。」


最悪。本当に最悪だ。

もう少し上手くフォローを入れながら僕自身の意思を伝えるつもりだったのに、これじゃあただの意思表明にしかなってない。

フォローの一つどころか、最後はもうメーフェに丸投げしてしまってるしね。


そんな感じで僕の頭の中にはバッドエンドソングが流れ始め、このままメーフェを傷つけて終了する事になる「ふっふふ」だろう。?


「ふふっふふふふふふふ」


「えっ?笑ってるの?」


「ふふふふっふふ、だって、ふふふ。マーリンが思った以上にふふっ」


「えっとあの?」


「ふふふ、マーリンはわたしが思っていた以上にとても欲張りなんだなって思っただけよ。っふふ最初の印象と全然違うくって、ふふっそれがなんだかおかしくなっちゃって、ふふふふっふ」


そこからメーフェはずっと楽しそうに笑っていた。僕はただ訳がわからず笑い続けるメーフェの姿を見ていることしかできなかったけど、今回はたまたま最悪な結果にならずに済んだみたいなのかな?

わからないけど。


数分後に落ち着いたメーフェは荒れた呼吸を整えていつもよりも明るい声で僕に言ってきた。


「ありがとうマーリン!!マーリンのおかげでまたお父さんと会えたの、本当にありがとう!!」


「どういたしまして、僕もメーフェが元気そうで嬉しいよ」


「//…もう本当にマーリンの距離感がわからないよ」


「?」


嘘とか変なことは言ってないと思うんだけど、なんで呆れられないといけないんだろう?

ルーリィやマエルにこんな感じで返しても何も言われたことないんだけど。


「まぁお礼も言えたしお父さんのところに戻るからね。外で寝たりしたらダメだよ!」


「うんじゃあねメーフェ。あと自分の意思で寝てたわけじゃないからね」


メーフェが家に戻っていく足音を聞きながら、少しだけ言葉におかしな箇所があったかを考えてみたけど結局わからないままだった。

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