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師匠の言葉

「何故己が分を弁えぬ行動をした馬鹿弟子?

今のお前では助けきれぬ事は容易に分かった筈だがな」


「・・・・」


「何よりお前ならまだ幾らかましな方法なら考えついた筈だが。外の七人誰かに救出に行かせお前が村の防衛に回るとかだ」


「それは…」


目を覚ましてから始まった師匠からの説教。

話を聞くにあの後師匠が魔物を瞬殺し僕とメーフェのお父さんを救出してくれたらしい。他の狩りに出た人たちも救い出していたらしく、流石は師匠といったところだね。

そして師匠の指摘に言葉を返そうとしたところを師匠が僕の答えるよりも早くに言葉を続けてきた。


「"行かせた者が死ぬかもしれないから"か?」


「…はい」


「大馬鹿者だな」


「はい。」


床に正座した状態でただ言われるがままだ。

何も言い返せないから仕方ないんだけど、かなりつらい。


「っ【無双】様!ですがお弟子様がっ」


「喋るな、喚くな、入ってくるな。お前の意見など聞かずともわかっている。」


側で身体中治療痕があるままやりとりを見ていたメーフェのお父さんが、僕のフォローをしてくれようとしたけど、師匠は目線を僕から外さないままにその言葉を切り捨てる。

流石に師匠にそう言われればもう一言も喋るわけにはいかないだろう。

ちなみにメーフェは父親が生きて戻ってきた事で緊張の糸が切れ眠っているらしい。


「ある程度親しくなった者には甘い事は知っていたが、まさかここまでとはな。少々予想外だった。

この前の話を聞く限りある程度の分別はつけれるものと思っていたがな」


「・・・・・」


「娘子の父君よ、この場を外せ。要らぬ事は言わぬで良いぞ」


メーフェの父親はただ頷いて部屋から出て行く。

今この部屋にいるのはもう僕と師匠の二人だけだ。


「人との関わりを恐れ遠ざける。懐に入ってしまえば見捨てられず、無茶をして命を賭け、その負債を抱え込む。体が、命がいくつあっても足りぬな」


「抱えきれない程背負うつもりはないです。」


「はっはは!既に抱えているだろうお前は!!

家族、友人、顔見知り、恩人、普通の者ならなんの問題も無いがな、お前は違うのだろう?

見捨てられず、見ぬふりすらできないお前は既にこれだけの人数で限界だ。」


その言葉に僕は何も言い返せない。

昨日の体からの警告で理解したから。


「気づいているのだろう?お前が無意識のうちに人との関わりを制限していたのは、体あるいは魂の防衛本能だ。いつからかは知らぬがお前自身既に知っているんだろうよ。

自分自身の分というものをな」

 

そう防衛本能なんだろう。名前をつけるならそれが一番適しているように僕も思う。


「今ここで私に誓え。もう二度と己が分を超えることをしないとな」


「……できません」


「自らの過ちを認めぬか?」


「認めます」


「認めた上でなお過ちを繰り返し、業を積み重ねるか?」


「…それでも誓えません」


誓ったとしても守り通せる自信がないから誓えないし、誓わない。

きっと僕はそこだけは変えられないと思うから。


「……ならば仕方なしか」


師匠はそう言って立ち上がると、視線で僕に外へ出ろと伝えてくる。


「約束だ。お前がここ数日でどれほど成長できたか試させてもらう。」


村の外に出てやった戦いはまぁよく戦った方だと思う。少しずつ息が合いだしたかと思えばまたずれ、合いだしたと思えばまた離れるを繰り返した。

これはまだ僕ぐらいじゃ師匠を正確に測れないせいだと思う。つまりは実力不足。

ある程度したところで僕が師匠を受け止めきれなくなり、ボコボコにされて終了。ついでとばかりに視力を封印された。「自分ができる事の少なさを改めて知るといい」との事だった。

課題の方は無事合格できたようだから、まぁ仕方ないかな。実際自分でも身の程知らずだと思うからね。








「…それでも誓えません」


その弟子の言葉で私の頭には頭痛がおきる。

目の前に正座で座る子供。中性的、いや女性よりの顔立ちの子供はその姿からは想像できん様な覚悟を持って"この私"に否と言ってのけた。


昨日の出来事で死にかけたというのに、その生き方の危険性を改めてその体で味わっただろうに、その生き方を改めんと言いよる。

愚かしく哀れだ。付き合わされるその肉体も、過ちや矛盾を全て理解しながら尚諦めようとしない心の方もな。


「("この身は自由なるを良しとする我が人生"か、確かにこやつは酷く自由なんだろう。雲の様に漂い、風に流され、好きに生きておる。

だがな、だからこそこやつは酷く不自由だ。)」


あの戦場での行動。あの夜相対した時の行動に言動。そしてそこからの行動と言動。

決して愚鈍ではない。自身の行動やその結果に考えが及ばぬ様な者でない。

むしろ酷く聡い。自身の行いにおける責任と罪を正確に把握できるほどに聡い。

又酷く幼い。背負いきれぬとわかりながら、一線を引く事をよしとできず、すべてを背負い込むその姿勢はなんとも幼い童の様だ。


「……ならば仕方なしか」


この時この場所でどれほど言葉を積み重ねたとてマーリンはその道から外れんだろう。

焚火を間に置いて話した夜と同じだ。

あの時私が持った印象は的を外していなかった。むしろど真ん中を射抜いていたか。

補足をするならば、守ろうとする範囲は狭い様でとてつもなく広く。

背負い切れぬとわかりながらも背負う事をやめようとしない。

自己の過ちや矛盾すら背負い込み進んでいるという事か。

腹立たしいが事に進展が起きそうにないのであれば話を進めねばな。


「約束だ。お前がここ数日でどれほど成長できたか試させてもらう。」


賢さ、優しさ、幼さ。これらの内一つでも未熟、あるいは欠けていたならば、この馬鹿弟子を違う道へと移す事も可能だっただろう。


賢さ足りぬな無邪気な少年だったなら、己が行いの意味とその業を説き、答えを導けば良い。


優しさ足りぬ者なら、その世界は狭いまま変わらぬであろう。ならば大きな問題とはならん。


幼さ足りぬ者ならば、一線を引きバランスを上手くとるであろう。


三つが三つともに熟しきっておるこやつは、言葉で諭す事は不可能だ。

ならば一度こやつの精神を一度へし折るしかない。

私の目的の為マーリンに死んでもらっては弟子にした意味がない。マーリンにはまだ長い時間を生きてもらわねばいけないのだからな。





「まさか先の会話の後に、この私にあの様な戦い方をしてくるとは、愚者では表し切れぬ。もはや道化の類か」


先ほどマーリンが私に見せたものは確かにこれまで見せてきた狭い世界で完成された理合の剣だった。

しかしそこに込められた意思は理解。

私の様に世界を広げるでもなく、より狭く完成度を高めて私と真逆を目指すでもなく理解だ。


「(呆れ果ててものも言えんわ。開き直るにも限度があるだろう……)」


だがマーリンには合っている。戦いの最中確かにそう感じた。まだ私相手には実力不足ゆえに本領を発揮し無かったが、将来的に大成をなすだろう。

しかしその事実が又私を苛つかせる。


「(真に可能性の原石と言うに申し分ない…が危うすぎる。時間があれば確実に大輪の花となる蕾も、開く前に刈り取られれば何の意味も無さん。

だというのにマーリンは全てが全て絶妙なまでに危うい。)」


完成形が示されたあの戦い方は、本来ならなんの問題もない。マーリンにはこれしか無いと思える程に合った戦い方だからな。

しかしマーリンの抱えるものとは相性が悪すぎる。いや良すぎるのかもしれん。

互いが互いに高め合うだろう。加速させるだろう。破滅か大成の道を飛翔する様に突き抜けるだろうよ。

時間さえあれば確実に大成するであろう、可能性の原石を抱えたまま、身を焦がす様に疾走するだろう。


「(…惜しい…)」


そう思わざる得ない。その在り方が、その可能性が、その選択が。全てがあまりに…あまりに惜しい。



とはいえ私のあの時の判断は間違っていなかった。あの時に次の機会へと見送らなかったからこそまだできる事はあるのだからな。

私にのされて、積もった雪の上に寝転がる弟子を見なが決意する。

約束の時までに育て上げよう。

私の願いを託すに足る戦士へと。


呼吸を整えているマーリンの目を塞ぎ機能停止の魔術を刻む。

まずは己が限界を知り、諦めることを教えよう。幾たびも幾たびも、慣れるかその信念が壊れるまで。


マーリンは突然の私の行動に混乱している。

そんなマーリンへ宣言する様に、私の意向を表明するように言う。


「自分ができることの少なさを改めて知るといい」


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