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己の限界

「勝とうとなんて考えないで!!

皆さん各自ここから離脱して村を目指してください!!」





最初の不意打ちで白獅子の群れのボスである雄の片目を潰せたものの、流石高ランクの魔物だね。

軽く呻くだけで完全に僕と言う存在を認識して警戒をした。

もう僕を簡単にはここから逃してはくれないだろう。だけど今回はこれでいい。


長期戦をする選択肢なんて持ち合わせていない僕は残していた戦闘用の魔力を最初から解放して白獅子の雄を含めた周辺の数匹相手に攻撃していく。

すると狩りに出ていた人達を包囲しようとしていた白獅子の群れの動きは格段に悪くなる。

まぁボスとその周辺の雌約半数の白獅子が突然意図のわからぬ行動をし始めたんだ、よく統率されていたからこそその動きは悪くなるっていくのは当たり前だ。


「今が好機だ!!今度はこちらが個別撃破していくぞ!!」


「「「おおお!!!」」」


流石【命の境界線】で生きてきた人達だね。僅かな隙を見逃さず反撃に出るその判断力、さっきまで追い詰められていた人のやる事とは思えないよ。

だけど今回に限ってその判断は間違いだ。僕にはみんなが数匹白獅子を倒すまで時間を稼ぐことなんてできないし、たまたまできたとしても残り半数相手に僕抜きで戦ってもらわないといけない。しかも消耗した状態でだ。

そんな事をすればよくて相打ち、誰もここを生き残れない。


「逃げてください!!僕はもうあんまり余力がありませんから!!今の内に早く逃げてください」


「……っ了解だ!!」


これまた素晴らしい即決。ここで僕のことを気にして逃げてくれないんじゃ逆に僕が困るからね。

とは言ってもこの魔物に囲まれた今の状況は本当に困った状況なんだけどね。


全方向から襲いかかってくる白獅子の雌達の爪な牙を受け流しながら、それらを巻き込む様にして白獅子の雄から飛んでくる広範囲攻撃を紙一重で避ける。


白獅子と氷狼はよく似た魔物だけど、その最も大きな違いは雄と雌の違い。氷狼は雄と雌がほぼ同じ戦い方をするけど、白獅子の場合は雌が近接戦闘型で雄が広範囲攻撃型となっている。


「「ギャァウン!」」


「っはぁっはぁっ!」


僕がくらったら致命傷、近くの雌がくらえばある程度のダメージのなるように調整された広範囲攻撃。絶対的な指揮系統による容赦ない連携。

今の僕が戦うにははっきり言って荷が重い相手だ。視界が効かない今あの人達がちゃんと逃げられたのかどうかすらわからないし、どれくらい時間を稼げばいいのかすらわからない。

追手は行っているのか、それとも全てが僕のところに来ているのか、せめて《神眼{把握}》があればもう少し上手く立ち回れるのにね。


ユグドラシルの剣に溜められてる魔力も戦いに使えるほどはないし、かけてもらった魔術はもう切れて効力が発揮されていない。

もう本当に限界が近い。


今から逃げても、体力が持つかどうかはわからない。僕が逃げれてもこいつらにあの人たちを襲いに行ってしまえば元も子もない。

最悪でもこの白獅子のボスは倒さないと僕はここから離れられないってことなんだよね。


「はぁっはぁっ。あぁもうきっついなぁ…」


手に持つユグドラシルの剣に、僕の残り殆どの魔力を注ぎ込んでいく。

それを察知してか、白獅子は僕の足を吹き飛ばそうと襲いかかってくるが少しだけ遅い。


右足を狙ってきた白獅子の左腕を、地面に木剣を突き刺して防ぎ、衝撃を殺し切ると木の部分を地面に置き去りにして鞘から抜く様にして本身を引き抜きぬいて白獅子の下顎目掛けて柄をかちあげる。

そしてのけぞった隙に開けた喉を切り飛ばす。


ブッシャァァァーー


ローブの上から感じる大量の血飛沫。寒さでかじかみ始めた体が血の生暖かさで少しだけ和らぐ。

その僕の姿を見てかはわからないけど運良く白獅子達が少し後ずさったのが気配で伝わってきた。


「(良かった。ここで集団で襲ってこられてたら危なかったよ。)」


血に濡れたまま足に力を込めて白獅子の雄目掛けて駆け出す。その動きは周りの白獅子に伝わり対応しようと動き始めるがもう僕の流れだ。

雄の白獅子は突っ込んでくる僕を嘲笑うかの様に後退して距離を置こうとするが、その姿を見て、逆に僕の方が笑ってしまう。


揺れだす地面に舞い上がる雪塊。僕と雄の白獅子の空間以外を埋め尽くす様に突き出る木の槍が周りの白獅子を襲っていく。

突然の出来事に思いの外上手く行った策、驚きの表情を浮かべながら背後にできた槍の壁に背を押し付ける白獅子の雄の姿。


少なくとも数秒、最長で一分ほどのサシでの勝負。確実に仕留めて一直線に村を目指して逃げる。


ぐっおぉおおおおお!!!!


戸惑いながらも飛ばしてくる広範囲攻撃。

頭が働いてないくせに的確な嫌がらせをしてくる奴だ。


目の前に迫りくる氷雪のブレスを回避するスペースは自身が作り出した壁によりない。

防御魔法術は勿論、剣での壁を新たに作るだけの余裕も今の僕にはないわけだ。

血が固まり着心地の悪くなったローブは魔力の通っておらず、防御力には期待できない。

それでもフードを深くかぶり直してこのままいくしかないんだよね。時間的にも選択肢的にも。


「本当に…あぁ最悪だよ」


そんな呟きすら迫りくる氷雪のブレスに僕自身ごとかき消されるのだった。









身体中が痛い。白獅子にやられた傷がとにかく痛む。

そして肩に大人の男性を担いで引きずる様に移動しながら、一歩一歩、足を踏み出す。


「もう、少し っはぁ…、生きててね」


「っうぅ、ああ。いっガハッ!」


「ははっ、まだ痛覚が無事なだけましかな、お互いに、ね」



最初のブレスはローブや服がかなり損傷したがどうにか耐え切り、耐え切るとは予想していなかった白獅子の先手を取ることができた。

結果的に左肩にかなり大きな傷を負ってしまったけど数合で首を切り飛ばすことができた。負傷は時間的に仕方がなかったんだよね。


傷の手当てはしなくとも寒さで勝手に固まって止血はできる。不幸中の幸いというか、何というかだが魔法術が使えない今は助かるというのが本音だね。

周りの槍の壁が軋む音を聞きながら、倒した雄の白獅子はたてがみを刈り取り縛り上げて防寒服の代わりにして、急いでそこから脱出した。

その時に何匹かが反応して攻撃をしてくるが、防ぐ為の余裕なんてなるわけもなく数撃攻撃をくらったが、ボスである雄が殺されていたことが広まったおかげで場が混乱して逃げ切ることに成功。


体にできた傷もすぐに寒さで固まり血も止まる。

そのおかげで臭いや血痕で追撃される可能性はかなり低くなった。温度調整の魔術がかかっていたなら凍ることなく垂れ流しになっていた為運がいいと言えなくもない。


吹雪により視界が聞きにくいこの状況ならもう白獅子が追ってくることはないはず。ここに来て奇跡的な割合で幸福と不幸のパラメーターが拮抗していた。

まぁそれも雪に埋もれて力尽きかけているメーフェのお父さんを見つけるまでだったけどね。


「運がいいね、僕もお父さんの方も…」


「お、弟子の、方でしたか。」


意識も失ってるかとも思ったけど、まだあったみたいだね。傷が酷い上に体温調整魔術がかかっているせいで出血が酷い。


「細かい治療はしてあげられないけど、まぁそれくらいは許してね」


「もう十分 です。おいていって、ください」


それはありえない。それじゃ何のためにここまで来たかわからないからね。


「他の人達はどうなったかわかりますか?」


「わかり ませ、ん」


「そうだよね…」


たてがみと破れた服を使って止血をし、口を使って結ぶ。左腕は既に限界がきて動かず、右手も剣を握り込んだ状態で固まってしまい動かすことができない。

ひとまずの手当てを終わらせるとちょうどいいところに小型の魔物が襲ってきてくれた。


「ガッギャアアァァァっっっ!かきゅ!」


グチャっグチャ


「はぁ…」


飛び出てきた魔物の首を跳ね飛ばしてその体内に固まった右手を突っ込む。するとさっきまで少しずつ感覚が麻痺し始めていた手に不愉快な内臓の感触と、傷の痛みが復活してくる。


「お待たせ、行こっか。」


「すい、ません」


備蓄魔力は全て使い切り、魔力生産で作られる魔力量ではどうにか体を動かせるまで身体強化をすることしかできない。

このままだと体が弱まり、生産量も少なくなり今している分の身体強化すら維持できなくなるだろう。


魔力生産は魂の機能だけど、体と関係がないわけじゃない。当たり前のことだけど魂は魂だけでは世界に留まれない。器となる肉体がなければね。

なら肉体が正常でなければ、器が正常でなければその機能を万全に発揮できるわけがないんだ。


もう身体は歩けば歩くほど限界だと、もう諦めろと心に訴えてくる。

煩くて仕方ない。邪魔でしかない警告だ。

徐々に酷くなる身体の痛みは次第に感じなくなっていくが、警告は止まらない。むしろその激しさは増しら悲痛なものへと変わっていく。


「ヒュー、ヒュ……、メ …フェ」


「はっ はっ はっ」


村まであとどれくらいなのか、半分は進んだはずなんだけど。今どこを歩いているのかすら、どれだけ歩いているのかすらわからない。

足の感覚はとうに消え、メーフェのお父さんに貸している左肩は痛みすら感じない。

だんだんと軽くなる自身の体に違和感を感じながらも、村があるだろう方向へと足を進めていく。


幸にして小型の魔物と遭遇してからまだ魔物とは遭遇していない。粗方の魔物が村へと行ってくれたおかげで空白地帯ができていたのかもしれないね。


「運が、いい、ね僕…た、ち」


バフっ! ドサッぁ


「っあれ?」


「ぅっ」


何も無かった筈なのに何かにぶつかって、倒れ込んでしまった。


「(あぁまずいな。立ち上がることができない)」


メーフェのお父さんもまだ息があるみたいだけど、手の感覚すらない僕にはどこにいるのかすらわからない。


「ぎゃっぎゃっぎゃっ」


前方から響く耳障りな鳴き声。

白く霞みがった視界には何も写っていないのに、確かに感じる気配。


「(なるほどね、吹雪の白だと思ってたけど、単純に僕の目が機能しなくなってたんだね)」


頭を整理していると急に体を襲う浮遊感。何度かのバウンドを挟んで、何かに打ち付けられたかのような衝突感と僅かな痛み。

投げられたのか、殴られたのかは不明。


「(はぁ〜終わりかな)」


視界が、感覚が頭の中が真っ白に染め上げられていくのを感じながら、ゆっくりと喉に詰まった空気を口から吐き出して意識は暗闇に落ちた。





「まったく我が弟子ながら呆れるほどに愚かだなマーリン」

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