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デンタさんと新たな戦い方

迫りくる木槌。

十分に回避可能であり、カウンターやその他の行動も十分に間に合う確信があるその木槌の攻撃を、僕は正面から迎え撃つ。

木槌を振るう相手はデンタさんであり、僕が打ち勝てる訳は無いけどこれでいい。


だっぁああん!!


体全てで衝突の衝撃を殺しながら自身が持っている木槌を握りしめ、次の衝突に備える。  


だっぁん!だぁっん!ダダダン!!


出来る限りの攻撃を真正面から打ち合い、どうしても受けるわけにはいかないものは避けてカウンターを出す。体全てを使った突撃は最小限の動きで受け流し、一定の範囲からは僕は出ない。 


ここ数日で決めた僕の戦い方。師匠の様に常に枠を超え続ける事で何にも囚われない自由な戦い方じゃなくて、あえて枠を作りその中での自由な戦い方を目指す事にした。

目標というか見本とするのは雲。

形はあるけど実体は朧げで自由なもの。周りの環境によって姿を変えるもの。


デンタさんは一旦僕から距離を開けて言葉を投げかけてくる。


「より易いのにやり難い相手になったすね。あえておいどんのペースでやらせてるって事っすか?」


「そういうデンタさんの方こそ、手加減をしながら戦うのはやめた方がいいんじゃ無い?」


「っとに困った子供っすね!」


デンタさんとは二日前にザイバさんと同じ様に話しをした。何故ここに辿り着いたのか、その理由を。

僕が聞いていい様なことでは無いのはわかっているし、デンタさんの問題だと理解している。

本当に僕らしくない。人の領域に自分で足を踏み込むなんて全然僕らしくないけど、色々考えた末に、今回に限りとことんやってみる事にした。


そしてデンタさんからどうにか魔法術とか話術を駆使して聞き出したデンタさんの過去。

デンタさんは国で重罪人となり、その国から逃げた末にここにいたらしい。

罪状は貴族殺し、役人殺し、その護衛殺し、神父殺し、シスター殺し。孤児殺し。

自身の犯した罪については割と簡単に話してくれたけど、なんでそれをしたのかについては何一つ教えてもらえなかった。

そこにデンタさんの悩みがあるんだろう。


会話ではもうそれ以上の進展がないと判断した僕は、鍛錬の場でデンタさんのことを理解する事に決めたわけだ。


そして見つけたとっかかりが、デンタさんがしていた僕に対しての手加減。

僕以外の六人にはしない、不自然な手加減だ。優しさからくるものではなく、他の感情から来ているその手加減。

まずはその手加減をやめさせる事を目標にデンタさんと鍛錬をする事にした。勝つことや負けることは気にしない。


その為に考えた僕の今の戦い方。とにかく相手のやり易い様に僕が合わせていく戦い方。相手からの行動でしか状況が動かない戦い方。

ザイバからの大批判された戦い方だけど、これでいい。実際ザイバはコテンパンにできたしね。


肝心のデンタさんもちょっとずつだけど手加減が緩んできてるし、ちょっとだけ罪を犯した理由が予想できてきた。

それに呼吸のリズムがあってきたおかげで、戦いの疲れも出にくくなってきている。なんというかお互いに高め合っている感じというか、約束稽古の様な形になってきてる。

言葉にしなくても相手がなにをして欲しいのかわかるって感じかな。






「(本当にやり難い相手っすね。こんなに気持ちよく戦えているのに、どんどん勝利が遠ざかっていくこの感覚は、ある意味普通に苦戦するよりもきついっす)」


今日のマーリンくんとの鍛錬は先日までの鍛錬とまったく別物だった。ここまで苦戦するという事もそうすっけど、マーリンくんからおいどんに勝利しようという意思を感じられなくなった事が大きい。

戦いにおいて必然的に発生する勝利への執念は、戦いを多く経験した人ほど強く感じ、それを戦いの駆け引きの要素の一つとして組み込んでるっす。

勿論おいどんも新海さんには及ばないがその域には達しているし、昨日までは実際にそれを感じ取りながら戦って勝っていた。


「よぉっぜやぁー!」


手首の捻りを全力で使った打ち返しでマーリンくんの左肩をねらう。マーリンくんもおいどんと同じ様にさっきの打ち合いでのけぞった体勢であり、流石においどんと同じ様に木槌を振るうことは出来ないはずっす。


「(となると回避からの反撃と考えて良いっすね。)」


マーリンくんの次の手を読みながら回避パターンと反撃の角度を分析する。マーリンくんは予想通りに回避を選択し、体を回転かせながら身をかがめる。


「(そのまま回転して斜め下からの振り上げ)」


そう判断した瞬間に木槌を振っている右手から軽く力を抜き、左手で振り抜かれている最中の木槌を掴んで勢いを殺す。

そして力を抜いていた右手でもって全力の水平振りをお見舞いしておいどんの勝ち!


全体重を乗せて右足を踏み込み渾身の振りを発動する。このタイミングでこの完成度なら確実にマーリンくんをカウンターごと粉砕できる筈っす。

おいどんが決着の合間に目で捉えたのはマーリンくんが予想通り斜め下からの振り上げをする瞬間だったが、マーリンくんの視線はおいどんではなく、今まさにおいどんがマーリンくん目掛けて振り抜こうとしている木槌に向かっていた。


そこからは一瞬だったっすよ。

回転と跳躍の力を存分に込められたマーリンくんの木槌により、おいどんが振るった木槌の一撃は見事に上に逸らされ、そのまま完全に開ききったおいどんの胴体に木槌を打ち付けられおいどんが敗北した。


「("あの子たち"みたいないい笑顔っすね)」


おいどんに勝つと言って何回も何回も、そこら辺に転がっている様な気の棒で挑んできた子供たち。

わざと負けると気付いて怒るくせにとても嬉しそうに笑う孤児達。関わりは短くともあの頃の時間はおいどんにとって全てだった。

粛清隊に属していたおいどんにとってあの孤児院の子供達と遊ぶ時間だけが唯一意味のある時間だったっす。


もう失ってしまった子供たちと、過ぎ去ってしまった過去の記憶。おいどんには守る力が無かった。力が足りなかった。

子供の命で自分の愉悦を満たす醜悪な貴族を瞬殺する力が、その事を知りながらもおこぼれを貰おうと群がるゴミの様な役人を瞬殺する力が、そんな奴らを守ろうとする騎士を瞬殺する力が、おいどんにはなかった。

あの子たちの命を売り物にして懐を潤す、名ばかりの神父に気づく力が、弄ばれると知りながらも目を逸らし、それでもなお子供達を愛しむ哀れなシスターの助けに気づく力が足りなかった。

尊厳を弄ばれ尽くした後に、薬品の実験台としてその身と心を魔物にされたあの子たちを、すぐに楽にさせてあげる為の意思の強さがおいどんには足りなかった。


「(いつのまにか全力を出して戦い、その上で負けていたっすよ。あの子たちみたいなちっちゃい子相手に本気で戦って負けて、あの子たちと同じ様な笑顔を向けられてるっすよ。)」


「おいどんの負けっす」


「…デンタさん、少しは前に進めそうですか?」


「なはっ、なははははは!!おいどんの弱さを見せつけてきたマーリンくんがいう言葉っすか!?

……前に進むも何も、何も変わらないっすよ。強くなるんすよもっと。次は、次こそは守りきれる様に」








デンタさんに一撃を与えた時、僕は自分の新たな戦い方がこれに決まったと感じた。それと同時にこの戦い方は普段からするべきでないとも感じる。

言葉にはし難いけど、この戦い方で多くの人と戦えば戦うほど、勝つ負けるに関わらず僕は何かを背負ってしまうと思うから。

でもも目の前で負けを認める様に座り込むデンタさんのスッキリとした表情を見れば、いまはそんな事は考えなくてもいいかなと思えてくる。


「デンタさん、少しは前に進めそうですか?」


「なはっ、なははははは!!おいどんの弱さを見せつけてきたマーリンくんがいう言葉っすか!?

前に進むも何も、何も変わらないっすよ。強くなるすよもっと。次は、次こそは守りきれる様に」


僕はデンタさんがどんな経緯で大量殺人をしたのかは知らないけど、そこにはちゃんとデンタさんらしい理由がある事はわかった。

デンタさんが今何を考えているのかはわからないけど、この戦いが何かのきっかけになっていてくれたらと思う。


すみません。頑張って更新していきます。

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