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禅問答と黒歴史

「あの〜質問があるんですがいいですか?」



現在僕はあの地獄の様な【命の境界線】をどうにか踏破し、5日目にしてようやく目的の場所に到着することができた。

三日目の猿との戦いで僕に合った剣術の取っ掛かりを掴み、進むスピードが早まり、魔術が切れるギリギリで間に合ったんだ。

しかしそんな僕に師匠が最初に言った言葉は労いやお褒めの言葉ではなく「やっときたか馬鹿弟子。この程度三日で達成しないか。この私を待たせたのだからな、それなりの罰をくれてやろう」だった。

「(あまりに厳しすぎやしないだろうか?)」


そして僕は休む暇もなく師匠に担ぎあげられ、連れてこられたのは、村の中で一番大きい家の広間。

家の中には目で確認するまでもないほどの実力者が七人武器を携えて待機していて、師匠は僕を降してからこう言った。


「此奴が先日お主らにも話した私の弟子のマーリンだ。私と再度戦いたいのであれば此奴に完勝してからにしろ。戦いの形式はなんでも良い。お主らが満足するものにせよ」


なんとなく僕の知らないところで、この七人と師匠が戦った事は理解できるし、師匠が戯れで面倒を僕になすりつけてきていることもわかる。

でもかなり師匠の言っている事はおかしいと思うね。だって形式はなんでもありって、この場面で言うって事は七対一でもいいよって事だし、お主らの満足って僕の意見とかは完全に無視していいよって事だよね。なんかおかしくない?

そんなあれやこれやを師匠に向かって言ってみたけど、師匠は僕の言葉を取り合う事はせず、この家から出て行ってしまった。


そんな状態からさっきの言葉を発した僕の言葉なんだけど、七人のうち一人たりとてその僕の言葉に反応してくれる人はいない。

七人は僕の姿を見て動揺し、そこから何人かが徐々に怒りをあらわにしてきた。

師匠と戦いたいのに、その前の試験として提示されたのが僕みたいなチンチクリン。条件が七人に有利な事から師匠が僕の方が強いと判断している事も伝わったんだろう。それも相まって七人はひどい侮辱を受けたと思ったに違いない。

その目には僕に対する確かな殺意が宿っている。


「おい小僧。【無双】の悪ふざけなのかもしれんが生憎と我らに付き合っている余裕はない。

さっさと武器を構えて俺の前に立て。お前をズタボロにして【無双】の前に放り投げてやれば、あいつもやる気を出すだろうよ」


七人の内の僕から見て一番右端の前世で見たら三十後半の男性が前に出てきてそんな事を言い出した。

少なく見積もっても六十年以上は生きてるんだからもう少し大人としての余裕を待って欲しいところなんだけどね。余裕の"よ"の字すらこの男性は持ち合わせていない。


ついでに本人からあの師匠と再選したいと言う言葉を聞いて僕は驚きと共に呆れた気分になる。


「あの…皆さんは師匠と戦ったんですよね。なら今の貴方達はまだあの人に挑む段階に立っていない事はわかっていると思うんですが。」


純粋な疑問として口から出た言葉を聞いた七人の雰囲気が変わった。多分僕が煽っている様に聞こえているんだと思うけど、別に煽っているつもりは無い。

ただ単に挑み結果を知ったのに、何故また同じ事を繰り返すのかがわからないんだ。


「貴方達は確かに達人の域に踏み入っているのかもしれないけど、そこから踏み出せていないんでしょう?

そこからの道の取っ掛かりを師匠に求めているのかもしれないけど、それはあなた方が自分で見つけなければいけない事だと僕は思いますよ」


七人の雰囲気は鞘から抜き放たれた刀の様に鋭く殺気を晒し、表情からは僕個人に対する確かな怒りを感じる。さっきまでの僕を通して師匠に怒りを向けていた時とは根本からその質が異なる怒りだ。


「知った様な口を聞く小僧だ。我らに向かってそれを言った意味はわかっているのだろうなぁ!」


「(ああぁ…なんで【命の境界線】を死ぬ思いして突っ切って来て疲れてるのに。こんな僕が頑張って避けようとした事を、自分からやりたがっている人達の相手をしないといけないんだ…)」


初めての秘境の環境への戸惑いと疲労に、相次ぐ魔物達との死闘。ここに来て僕の心にまだ僅かにあった余裕が消えた。つまりは相手や会話の流れ、その後を気にする余裕がもう僕にはこれっぽっちも残っていない。


「……知った様な口ね。自分の歩む道すら、自分で見つけられない半端者。しかも探す事すら自分で放棄して、楽な道に逃げようとしている人達が、何を偉そうに言っているのかな」


思い出すのはあの空間での悠久の時。朧げに残る記憶には確かに気が狂う寸前まで考え続けた自身の姿がある。

腕を振り、体を動かし、理を探して掴む。

剣はおろか棒の一つすら持たずにそれをやり続けていたんだ。いらない思考をする時間なら嫌でもたくさんあった。

答えなんて見つからなかったし、最終的には開き直って神くんを驚かす事しか考えてなかったしね。


そんな僕だけどこの人達の苦しみはちょっとだけなら理解もできる。何に悩んでいるのかもその答えもわからない僕だけど、悩み続ける疲労と答えのでぬ焦燥感は少しだけわかる。

「(わかるだけだけどね。僕は他人に答えを求めたりはしない)」


前世での失敗談というか気まぐれにやってしまった僕らしからぬ行動を思い出す。

人の人生に自分から口を出してしまった黒歴史。

今思えばそれがブーメランにならない様にあの空間で頑張ったという理由も無きにしにあらずなのかもしれない。


ふと思い出したその言葉を、嫌がらせでこの人たちにも言おうとおもった。

僕らしくない言葉ではあるけど、今回に関してで言えば今更だ。もうどこまで言おうとそんなに変わらない。


「人から与えられる答えで満足できるなら貴方達は元々そんなに苦しんでいるはずはないよね。

自分が納得できる理由を探して今まで苦しんで来て、結局諦めてしまうんじゃこれまでの貴方達が不憫でならないよ。」


「なんだと!?」


「過去の自分の行いに報いれるのは自分だけで、過去の自分に意味を持たせられるのも自分だけだ。

今辛くて苦しいのかもしれないけど、それでもここまで頑張り続けたなら、その頑張り続けて来た自分を自分で裏切ったらダメだよ。」


自分でも無責任な事を口にしているのは自覚しているけど、ここで言葉をやめるわけにはいかない。


「結果的に自分が納得できるならそこまででいいと僕も思うけど、今の貴方達がしようとしているのはただの逃げだよ。自分達と似たような道の遥先を歩む人からの答えで無理やりに納得しようとする事や、その人から引導を渡してもらう事で解放され様なんてね」


「(言ってやった。…………あぁ黒歴史が増えちゃったよ)」

などと早速内心で後悔している僕を他所に、目の前の七人には僅かな動揺が瞳に宿っている。

僕みたいなチンチクリンから一切の遠慮なく自分の事を否定されたんだ、これで少しも動揺しないなら逆にすごいと思う。変な方向に開き直りすぎだよそれは。


僕と七人の間に重苦しい沈黙が落ちた。

とはいえだ。ここで目の前の七人が考えを改めて戦いの流れが終わり、話し合いによる和解になると考える人は少しだけ頭がお花畑だ。


僕がさっき言ったことは、本当に悩み続けた人なら一回は通っている筈のものだから。

逃げない理由、退路を塞ぐ理由。逃げ出してしまわないための理由として少し考えればすぐに思い浮かぶ理由なんだからね。

あの師匠に挑もうとするくらい行き詰まった人達がその考えに至っていないはずがない。

今七人が動揺しているのは自分より倍以上年下の子供に改めて言われたからであって、言葉の意味自体に動揺しているわけではない筈だ。

その証拠に既に七人の動揺は収まり始めている。

そして七人の目には怒りではなく覚悟のようなものが見え始めた。


七人の中央の壮年の男性。立ち位置からしてこの七人のまとめ役だろうことが予想できる男性がここに来て初めて口を開いた。


「何故【無双】殿がお前を我らの前に連れて来たのか、ようやく理解できた。正しく我らの先人という事か。」


落ち着いた口調と雰囲気。それと反するように高まる闘気、それを形にする様に構えられる武器。

あれだけ大口を叩いたんだ。もう僕にここから逃げる選択肢はない。

腰の帯に刺した木剣を抜き、七人に対峙する様に構える。


「お前の言うことは酷く正しい、なれど我らはそれを承知した上でこの選択をすると決めたのだ!!」


「言葉にした代償に相手をさせてもらうよ」


結局一対七での戦いになってしまった。

家を壊さないように魔法術はお互いに使用しない暗黙の了解はあるものの、それだと僕は非常に辛い。

ユグドラシルの剣の能力をフル活用しながら【命の境界線】での五日間で掴み始めた戦い方で必死に七人と戦った。

勝敗とかの基準がないせいでちゃんと終わることはなく、相手にギブアップさせる事を目標に頑張ったけど、七人の方は割と本気で僕を殺すつもりだったようでかなり怖かったよ。

どんな風におわったかは覚えてないけど、最終的に立っていたのは僕だったね。






村長の家にもたれ掛かるようにして、気配を消していた一人の女性は、中から聞こえてくる言葉を聞いて自虐気味に笑っていた。


「ふっ、ちょっとしたからかいのつもりが、逆に思わぬしっぺ返しを喰らうことになるとはな……」


女性はしばらくそのまま沈黙していたが、しばらくすると先ほどまでの自虐の笑みは消え去り、ただ純粋に嬉しそうな顔をして白塗りの世界を歩き出した。

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