表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/129

求道者の問い

章を作ってみました。

降り積もる雪に咲き誇った血の花々は、先程までそこ行われていた戦闘の激しさを物語っている。

しかしここは人の領域ならぬ魔境【命の境界線】

そんな命の名残りすら数秒のうちに白く塗り潰され、存在を抹消されていく。ここでの命は酷く儚い。



ついさっきまで死闘を繰り広げていた魔物の死体が、雪に埋れていく様子を見ながら、僕は乱れた呼吸を必死に整える。

既にここに放り出されてから三日目。

最初の雪狼達との戦闘から相次ぐ連戦。隠れてやり過ごそうにもここは魔物達のテリトリーであり、僕にはスキルも魔法術もない。そんな状態で隠れられるはずも無く、全ての魔物を相手にしていくしかなかった。

とはいえ自身の素の魔力しか使えない今の僕では【命の境界線】に住む魔物の相手をするのは非常にきつい。

一対一ならともかく一体多数が基本であり、受けた傷は今の僕では治せないのだ。


そんな僕がこうして無事にいられるのかと言うと装備の性能の良さという一点に尽きる。

形状が自由自在の木剣に、丈夫で魔力を流すだけで損傷が直る服一式。

これらが無ければ三日間の連戦を戦い続けることなんでできなかった。改めて自身の装備が恵まれていたことを認識した三日間だったね。


で現在僕が抱えている主な問題は寝不足による集中力の低下だ。

前世の考えで言うなら吹雪ふりしきる場所で寝るなんて自殺行為ではあるんだけど、今の僕には師匠にかけてもらった魔術があり、体温低下で死ぬ事はまずない。

雪に埋もれて窒息死とかなら十分にあり得るけどね。場所にさえ気をつければ割と問題はないんだ。

そんな僕がこの三日間ほとんど眠れていない理由は、単純に魔物達がひっきりなしに襲ってくるから、寝る時間がないんだよね。


戦闘と戦闘の合間は次の戦闘への備えや、食べられる魔物の肉と雪を師匠からもらった紙で燃やして食糧確保などしないといけない。

そして余った時間に少しだけ目を瞑るんだけど、何回か魔物の接近に気づくのが遅れて、先手を取られたりもした。その度に装備の防御性能に命を救われている。


雪山の向こうを目指して進み続けている僕は、そんな感じでどうにか山の中間ぐらいまで登ることができたんだけど、このままだと五日間の内に目的地に着きそうにない。

相手の魔物が強く苦戦してしまうと言うのも理由にはあるんだけど、根本的な問題は僕の剣の型だ。

僕の剣術は狭い範囲で効率的に剣を振るうものだから、動き続けて戦ったり、逃げながら戦うのは想定していない。

その為一度戦いが始まればその敵を追い払うか、倒すかまではその場所で足が止まってしまう。

効率がとても悪いんだ。


「とっ、そろそろ行かないと他の奴が来ちゃうね」


この【命の境界線】ではかなり細かく魔物同士のテリトリーが決まっているみたいで、そこのテリトリーを支配している魔物を倒してからも一定時間は、周りの魔物達は入ってこない。

このテリトリーに侵入してくるまでの感覚を掴むまでは結構危ない目にあったけど、その甲斐もあって今はそんな失敗もなくなってきた。


とはいえ、休める時間を把握できる様になっただけで、少し進めば他の魔物の支配するテリトリーに入ってしまうわけだけどね。

今度は腕の長い猿?みたいな奴だ。本当にめんどくさい。


「キィエエエエ」


「お邪魔させてもらうよ」










「旅人さん!!旅人さん!!本当にお連れの人は大丈夫なの!?私達でも外は危ないんだよ!!」


「私の弟子だ。これぐらいは達成してもらわないと私の方が困る」


「旅人さんの感覚ちょっとおかしいよ!!」


【命の境界線】すぐ近くにはいくつか村が存在している。

古くからここを住まいとする狩猟部族の末裔や理由がありこの地まで逃げてきた者。何かを追い求めて自らこの地に居ついた者らが主な住人だ。


出自が全く異なるこの者ら全員に共通することは一つ。ただ強いという一点。

今私に話しかけてくる娘子やその側にいる老婆に至るまで、広く一般的に見れば実力者と言える程の力を有している。

その者らの中で更に実力者と言われる者は外の世界でなんら不自由することのない力の持ち主達だ。


しかしその者らでもここでは普通に命を落とす。

魔物との戦闘や魔力切れによって温度維持が出来なくなったりと要因は様々だろうが、簡単に命を落とすわけだ。

まぁ【命の境界線】の支配者ノーブルファブニールがいた時はより酷いものだったがな。


「ねぇ旅人さん聞いてるの!?」


「ああ聞いでいる。それよりも娘、他に私へ伝えにきたことがあったのではないのか?」


「あっ!そうだった。村長の家に旅人さんと話したいって人が集まってるから来て欲しいだって」


「…ふむ、そうか。"しばらくしたら参る"と私が言っていたと伝えてもらえるか?」


「うん!わかった」


ドタバタと部屋から出ていく娘の後ろ姿を見送ってから、腰掛けていた椅子の背もたれに倒れ込む。


「随分と元気な娘子だ。」


「昨日あの子の父親が無事狩りから帰ってきたのですよ。それが嬉しくて仕方ないのでしょう」


老婆は娘が開け放たれたままにして行った扉を閉めながら私の言葉に答える。

この村というか.この地域にある村々の狩猟は家の単位で行うことが多い。

親と子や夫と妻などでだ。一人で行う場合は、パートナーが死んだ場合や子が幼い場合など。

老婆の口ぶりからしてあの娘の母親は命を落としたということなのだろう。

とはいえ強敵を狙う場合は団体を組むこともあるらしいがな。


「それならば仕方がないか。それでおぬしはまだ私に何か用があるのか?」


「謝罪とお礼をしておくべきだと思いましたので。

村の者らの我儘を察した上で先程の誘いを受けていただきありがとうございます。

そして申し訳ありません。どの様な結果になろうと受け入れる覚悟はできております」


「(これもここに住む者らの業というものか)」


私の求める物に似て非なるそれ。この国ができる前から変わらぬその歪みは、今もここに息づいている。

力を絶対とし、生き残るという結果を最上とし、そこまでの過程に重きを置かない。

全ての事はそのものの力の上不足とし、その他一切の要因が入る余地はないものとする。


「(間違ってはいないのだがな。ノーブルファブニールを沈めた彼奴然り、その考え方自体は間違った物ではない。)」


大昔何度かここの者らに似た者に私の答えを、願いを求めた事もあるが満足出来るものは、一つたりとてえられる事はできなかった。


それ故にあの子供にひどく期待する自分がいるのだらう。

自分でもはっきり掴みきれぬ私の願いを見つけてくれるのではないか、叶えてくれるのではないかという期待。

弟子の事を考えていると自然に顔が緩み愉快な気分になる。

そんな楽観的な考えをする自分にたいして愉快な気分になるのかもしれないし、頭の中に浮かぶ弟子の姿が酷くふわふわしており、自分の願いを叶えてくれる存在には見えないからかもしれない。


「…旅人様?」


老婆がそんな私の姿を見てか、訝しんだ表情で呼びかけてくる。決して笑う様な会話でも流れでもないのだから当たり前だな。


「いや気にするな。この村に世話になる身だ。分は弁えている。悪い様にはしない」


まだどこか納得しきれてはいない様だが、老婆は静かに部屋を後にした。

老婆に言った言葉に嘘はない。この村の者らが私に答えを求め挑んできたとしても、その命を取る事はしないつもりだ。その行為が私に挑んでくる者達が望んでいる行為でないとわかってはいるが、相手の願いを私が叶えてやる義理もなし。


「さて馬鹿弟子がここにたどり着くまでの暇つぶしでもするとするか」


村から借りている部屋から出て、家の主に軽く挨拶をしていく。

外に出る時に軽く自身に魔術を施し、そこいらに生えている適当な木の枝を端折り、嵐魔術で形を整えて棒にした。


「まぁこんなものか」


私のもともと持っている槍やその他の武器は、相手を生かす事には向いていない。

それらの武器が使えないとなるとこの様にして調達する他にないのだ。

武器を用意して向かうのはこの村の村長の家。

その家からは中に踏み入っていないというのに複数からの静かな殺気を感じる。

「(どうやらこの棒を用意していて正解だった様だな)」


心の中から湧き出る闘争心。少し油断すれば表情に出てしまいようになる笑みを押し殺しながら、村長の家の扉を一言断りを入れてから開ける。

村長の家は入ったところに村の人間が集まれる広間があり、その広間には一目見ただけで実力者とわかる者らが七人が正座をして私を出迎えた。


「娘の伝言を聞いて参った。お主らが私を娘に呼ばせた者らか?」


私の問いに答えたのは七人中央に座する壮年の男


「作用でございます旅のお方。我ら七人は貴方に問いたいことがございます。」


「よかろう。私はお主らの村に厄介になっておる者だ。お主らの問いに答えよう」


とは言え、その問いなら大体が予想つく。

私の予想を補強する様に私がここについてからの此奴ら七人の殺気が膨れ上がってきておる。


「ではまずお一つ。

旅人はかの【無双】殿とお見受けして相違ないですかな?」


「私をそう呼ぶ者もおるな」


すると七人共に傍に置いてあった武器に指をかけてから、一切の殺気を隠すことなく私を見る。

既に戦う意思を伝えられていることから、こちらも武器を構えても礼儀には反しないがしないがまだ構えない。

ここを数ヶ月拠点にする予定から出来る限り旅人としての礼儀を尽くしておいた方が後々有利に働くからだ。


「なれば【無双】殿に問いたい。最強とはなんでしょう。力とは、死とはなんでしょうか。

並び立つ者なしと言われし貴方の答えを聞きたい」


中央に座す男がそう言い切ると七人は武器を持って立ち上がり私を囲む様にして広がっていく。

逃すつもりも、はぐらかせるつもりもないのだろう。七人が七人ともに行き詰まった目をしている。それぞれが自身の心に問いを抱き、長年の旅を経てなお答えが出ぬその苦しみに、その焦燥感に耐えきれなくなったのだろう。


「最強は言葉遊びからできた戯言、もしくは虚言の類。力とは力でありその他でなし。死とは最も近しきものであり、常に己の横に並び立つもの。

明確な答えは生憎と私は持ち合わせていない。

私もまだ己が問いと答えを探して旅をしている最中なのでな」


私の言葉が終わると七人は静かに武器を構え出す。どうやら此奴らが納得できる答えではなかったらしい。


「そうですか。残念です。【無双】殿なら我らが求めし問いの答えを持っていると考えていたのですが。」


「すまぬな。私は私以外の者の答えなどとんとわからぬよ。人が他人を理解すること程、困難な事はないからな」


「そうですな。なれどそう簡単に飽きられがつく程、我らの意思は軽くはありませんので。

せめて貴方との一戦が我らの問いへの足掛かりにならん事を」


道を見失い、生きる為に探し出した新たな道で更に行き詰まる。

その先を探して足掻いたはずが気づけばその道すら見失いかけ、雁字搦めになってしまう。

此奴ら内の幾人かはそれだ。最早立ち止まれもせず、然りとて前に足を出すことさえできない生き地獄。


「それならば来い。お主らの道の先人として受けて立とう」


ある国のある場所ある家で、七人の求道者は超越者に答えを求めて戦いを挑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ