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登ったのか登ってないのか、どっちですか?

「(いい匂いがする)」


意識が浮上して最初に思った事はそんな事だった。体は怠いけど痛みはない。意識だけがはっきりとしない。

目を開ける気にもならず、僕の体は再度の眠りに入ろうと心地の良い物を求めて動く。

少し動くと暖かなものを手に感じることができた。

けどちょっと暖かさには物足りなくてさらに体をくっつけて暖かさに感じようとする。


暖かさを抱き締めるように密着し、腕に力を入れたり抜いたり、体の角度を調節したりしていいポジションを探す。

暖かさと程よい弾力、安心する香りを全身で愉しみながら僕の意識は眠りの中に落ちていった。

 



次意識が覚醒したのは何分後なのか、一時間以上経っていたのかもしれない。

僕は頭に感じる心地よさで意識を浮上させたものの、また眠気に負けるようにして眠りに落ちる為に、頭の位置を動かしてそれから逃げる。

逃げた先には二つのとっても柔らかくて暖かいものがあり、僕はそれに顔をうずめる様にして額を奥へ奥へと押し付けていく。

頭の位置に体のポジションを合わせる様にすると頭に感じていた感触は子供でもあやすかの様な動きになり、暖かさは僕の体全体を包み込む様に動いた。その度に僕の肌を擦れる暖かさの感触がなんとも言い難いくらい、気持ちいい。


「ははは…存外愛いものだな」


……聞いたことのある声が頭のすぐ上から聞こえた気がした。

そして額から感じる鼓動。


ビクッ!


体が震えたのが自分でも良くわかる。

恐る恐る顔を上げてからゆっくりと目を開くと、そこには金色の瞳と漆黒の黒の髪が印象的な美女の顔がそこにあった。


「やっと目を覚ましたかマーリン。寝ているお前は随分と甘えたがりで可愛いかったぞ」


「あっあぁぁぁ//////」


蘇るのは気を失うまでの記憶。

全力を出し切って、使える全ての手札を切って最後に一撃を与えた。


驚いた僕は思わずスカイから距離を取り、状況を把握しようとする。

知らない部屋に知らないベッド。

そのベッドの上に僕とスカイの二人がいて、お互いに纏っているのはシーツ一枚。


「(さっきまで僕が触れてたのって……)」


シーツのほとんどを僕が持って行っている状態の今スカイは足にシーツがかかっているだけで体はほぼ隠れていない。

色々と丸見えで僕の視線は混乱もあったことから、スカイの肢体に集中される。全体的に無駄な筋肉も脂肪もない綺麗な体で、黄金率を見事に体現してた。

肝心のスカイには見られて羞恥を感じている様子はなく、急にシーツが剥がれた肌寒さで眠気が覚めたと言う仕草をしている。


「マーリン、シーツを持っていくな。寒いだろう」


「/////あぁぁっごめんなさい!!」


急いで僕は纏っていたシーツをスカイに投げて視線を下に落とす。


「ははは動揺しすぎだぞマーリン。私の体を見るのは恥ずかしいく感じると言うのに、自分の裸をわたしに見せるのは恥ずかしくないのか?」


そう言われて自分の体に視線を戻して僕も裸だったことを思い出し、先ほどスカイには投げたシーツを少しだけ引っ張って体を隠す。


「私の方から見ると今のマーリンの姿は、ウブな乙女を絵に描いた姿そのままだな」


「///っ普通はこんな反応になるよ!!

逆になんでスカイはそんなに堂々としてるのか僕にはわからないんだけど!!?」


スカイは不思議そうに自身の体を見てからおもむろにベッドの上で立ち上がり、僕を見下ろしてから僕に疑問を投げかけてくる。


「私の体は人に見られて恥ずかしい様な体か?

自分としてはどこに出しても恥ずかしくない体をしているつもりなんだがな。マーリンにはどういう風に写っているんだ?

是非聞きたいものだな」


「えっ!?」


「えっ!?ではない。どう写っているのかを聞いているんだ。

私のスタイルや肌質、ついでに容姿についても聞いておこうか?

先ほどまでの甘えぶりから抱き心地はいい様だったからな?」


「嫌だよ!なんでそんな恥ずかしい事を言わないといけないの!!??」


「私にも一応女としてのプライドがある。

ここでしっかりと聞き出しておかなければ女の沽券に関わるからな」


そこから数分間僕は一方的にスカイに攻め倒されありとあらゆる事を聞き出された。

会話が終了した時の僕は真っ赤な顔で、スカイの方は満足そうにそんな僕を眺めて微笑んでいる。


「(こういう時なんて言うんだっけ?もうお嫁に行けない、だったかな。僕は男だからお婿に行けないになるのかな?)」


僕は大人の階段を登ったのか登ってないのかわからないまま取り留めのない事を考えていた。




そんなやりとりを済ませた僕らは、お互いに服を着て部屋から出る。下の階にある食堂で食事をしながら、昨夜のことについてスカイから話を聞いた。

ちなみに今の時刻は午後六時であり夕方、食堂は大いに賑わっている。


「昨日あの後何があったの?」


「昨日?あぁ私がマーリンの一撃で木に縛り上げられた後の事か。」


そう。昨日確かに僕は意識を失う前に気に縛り上げられたスカイを確認した。

あれは勝ったのか負けたのか。


「木に縛り上げられた私は一瞬だけ気を失い、目を覚ました時にはお前は既に気を失い死にかけていた。

拘束自体はまぁお前が気を失っていることもあってわりと楽に抜ける事ができたな。

マーリンは私を縛り上げた後どうするつもりだったか知らないが、縛り上げて終了ではあまりにお粗末だ」


言われてみれば魔力をぶっ放した後の事は考えていなかった。なんとなくこれしかないと思ってやっただけだし。


「使える手札が他になかったんだよ。そう言えば戦った場所ってどうなったの?」


思い切りぶっ放したから地形が変わってしまっているかもしれないという事に今になって気づく僕。実際に地形が変動していたら僕の経歴に犯罪歴が加わることになるんだけど。

というか地形が変わったところを確認しちゃってるんだけどね。手遅れかな。


「あれ程気持ち良さ様に放っておきながら今更か。だがお前が心配している事なら気にせんでいい。

戦っていた場所には被害は出ていないからな」


「いや僕気を失う前に地形が凄い事になってるの見てるんだけど?」


「戦っていた場所にはと言っただろう。

お前が放つ前に私とお前までの空間を切り取り違う場所に飛ばした。

お前はどうして私が真正面から突っ込んだと考えていだんだ?」


凄い面倒を見られてるね僕。結局中途半端なところでことぎれちゃってるし。

そう考えると急に僕自身の不甲斐なさに恥ずかしくなってくる。


「真正面から突っ込んできたのは僕の攻撃を真正面から打ち破りたいからだと考えてました。」


まさか僕の攻撃のフォローまで想定しての位置どりとは思わなかったよ。

それを聞いたスカイは葡萄酒を煽りながら、僕が抱いた尊敬の気持ちを粉砕してくる。


「まぁそれも九割ほどの理由としてあるがな。

魔術防壁で盾を作り、念の為空間の穴も作っておいたというのに全て突破されるとは予想外だった。

あの魔力は歪められぬ性質でもあるのか、はたまた違う要因なのか。次からは素直に避けるしかないな」


流石神に戦いを挑む人の思考回路だね。ぶっ飛んでるよ。

僕なら絶対にあのよくわからないものを受け止めようとは思わないね。

スカイは葡萄酒のお代わりを店員から貰って、それを半分ほど飲み干してから話を本題に進めてくる。


「でだ、約束通りマーリン。お前は私の弟子になるわけだが文句はないな?」


そう言えばそんな理由で戦ってたんだっけ?

勝敗は僕の負けではあるけど、出来ればその約束は無しにして欲しい。

留学の件をすっぽかしたら僕の帰るところがなくなるかもしれないからね。

というわけで交渉をしていこう…


「えーっと実は僕は来年にはエルファエルに留学する事になっていてね、弟子になるわけにはいかないんだ。

戦いの敗者は僕で間違い無いんだけど、できれば弟子の件は無しにして貰いたいなーと…」


「ほぉ…あれだけ大見得を切っておきながらこの私との約束を無しにしたいと?」


スカイは怒るでも無く失望するでも無く、ただ何かを思案する様に葡萄酒の杯を回してそう言った。

言葉を待つ身の僕としては異常なほど緊張する時間だけどここは我慢するしか無い。こっちは頼み込んでいる立場なのだから。

数秒の沈黙の後スカイは落ち着いた様子で答えを口にする。


「ふむ、まぁよいか。油断したとはいえ一時追い詰められたのも事実ではあるからな。

だが弟子にするという言葉を反故にするつもりはない。

わざわざ寝る間も惜しんでお前の左腕と左足を復元したのだからな。

エルファエルに留学するまでの残り数ヶ月間は私のいう通りに鍛えさせてもらおう。

それと私にお前の能力全てを提示してもらう。これは勝者としての権利だからな」


予想していたよりもあっさりと認められた。

条件は付いてるものの、これくらいは納得しないといけないだろう。

それに手札を全て見せてしまっているし、今更能力を教えてもあんまり変わらないからね。

失ったはずの腕と足まで直してもらってるわけだし。

僕の『スルーシ』は傷を治す事はできても失った部位を復元する事はできないから、腕と足は半ば諦めてたんだよね。


「切り飛ばした部位とマーリンの胴体を繋ぐための箇所が消滅していてな。そこを補うためにマーリンの髪を使わせてもらった。

こちらの方面は私の得意分野ではなくてな、いくらか違和感があるだろうが我慢しろ。」


「えっ髪の毛?」


そういえば起きてから頭が軽い。

髪の毛を摘んでみるとかなり短くなっている事がわかる。

ずっと僕が望んでいた男の子よりの髪型だ。


「あれだけ長い髪だから何か拘りがあったのかもしれないがすまないな。」


「ううん!ありがとう!!とっても嬉しいよ!!

条件の方も異論はないよ!!」


「ん?何がそんなに嬉しいのかは知らないが、条件に納得したなら能力を見せてもらおう」


僕は《鏡花水月》の効果をセーブしてスキルを隠すのをやめる。

なんの眼のスキル持ちかわからないけどきっとこれでこの人は大丈夫だろう。

そして僕の考えは正しかった様で


「やはり《神眼》持ちか、それに他の四つもなかなかに良い。ふふっこれは鍛え甲斐があるな。」


なんでだろう。この人に笑みを浮かべられてそんな事を言われると体に寒気が走るんだけど。

僕の体が危険信号を灯している気がしなくも無いんだけど。


「マーリンは魔法術については理源を二つ持っているからな、後は体の方を限界まで鍛えればいいだけだ。

《天性の肉体》に加えて発達が全くしとらん体。

如何様にでも鍛え上げることができるというわけだ」


スカイがご機嫌に恐ろしい言葉を口にする中で気になるというか気になっていた言葉があった。


「その理源ってなんのこと?」


よっちゃんも確かそんな事を言っていた気がする。あの時はスルーしたけど、割と聞いておいた方が良い事の様な気がしてきた。


「ん?あぁお前の魔法術の師は《大賢者》に至っていないのか。もしくは知っていても教えていないのかだが」


スカイはそう呟いてから机に文字を刻んで防音と認識阻害の魔術を張った。

あまり聞かれて良い話ではない様だ。


「【理源】または【原書】【深淵】呼び方は様々だ。だが表している意味は一つ、魔法術の限界点に至った魔法術の事。

私が先、《大賢者》と言ったのは、《大賢者》に至った者の多くがその存在に気づきそこを目指すからだ。

極が限界ではないと、その先があるとな。

その先が存在しない。系統の始まりとなり得る魔法術。

それが【理源】。理の源であり、マーリンの二羽の鷹はそこに至っている」


スカイはそういうと先の戦いで使っていた魔術を二つ僕に見せてきた。


「これが私の幾つか持っている【理源】に到達した魔術の中の二つだ。『境界の扉』と『原始のルーン』。

『境界の扉』は時空間系統。『原始のルーン』は文字魔術の最高到達点だ。

お前の理源に対応する為に、使うつもりのなかった『原始のルーン』まで使わされた。とはいえ万能系では特化型を完全に防ぐ事はできなかったがな」


「幾つか持ってるって、その【理源】って誰がどういう風に判断するんですか?」


「そうだな、通常は《大賢者》数人の合意で判断されるだろうが私は自分で判断している。

私より深淵にいる奴に私は会ったことがないからな」


この人以外が言ったらただの傲慢というか慢心なんだろうけど、この人の場合は事実だろうからね。

神様のお墨付きで最強なんだから。


「いやそれは嘘だな。随分と昔に深淵そのものと会ったことがあった。結局私の求めた相手ではなかったがな」


懐かしい思い出を話すかの様にスカイはそういうけど、意味がわかる僕としては戦慄ものだ。

神様と戦った事をそんな軽く言わないで欲しい。


その時僕は再度目をつけられてはいけない人に目をつけられたんだと確信した。


結局マーリンは負けてしまいました。残念です

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