黄金の聖剣
次の手を必死に考えている僕を置いていく様にして、見せかけだけの拮抗状態は一瞬にして終わりを告げた。
「死にたくなければ死ぬ気で足掻けマーリン!」
スカイはそう叫ぶと自分の周りに闇の中でさえ尚黒く見える様々な形の穴?空間そのものにできている穴を作り出し、その場で一瞬静止した後激しく舞い始めた。
作り出した穴に槍が当たる様に調整しながら物凄いスピードでだ。
強烈に嫌な予感がした僕はスカイが一瞬静止していた時間に切れる手札を全て出した。
それでも一瞬対応が遅れていた様で
空間に開いた穴に触れたスカイの槍は触れた部分が飲み込まれる様にして姿を消し、僕の周りにある穴からその部分に出現させた。
《神眼{把握}》の能力である程度の範囲の空間全てを把握していたからこそ、死角からの初撃を察知することができたが、回避する事は出来なかった。左足が半分以上斬られる深傷を負うが、攻撃はそれで終わるはずもない。
スカイの槍捌きに合わせて全方位からランダムに襲ってくる槍の猛攻、近接時の読み合い駆け引き全てを完全に無視した槍の乱舞。
判断が遅れ足をやられた僕には次の攻撃を回避する事は出来ないはずだったが、どうにか間に合った。
『告命鳥』から『スルーシー』へなり、先ほどまでなら一秒以上回復にかかるはずだった傷は一瞬で治る。
そして体内の魔力の管全てが破裂している感覚に襲われながら限界を越えた身体強化で身体能力を底上げされ、全方位からの槍を回避していく。
既にここら一帯を覆い尽くした『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』で空間を制圧していき、発生させた霧に幻覚系の魔術を付与する。
『アズライール』はスカイのデバフ防御を突破してデバフをかけることに成功して明らかにスカイの攻撃速度が低下した。
種から魔力を解放した剣は木で出来た柄から美しい銀の刀身まで、あの時見た様な輝く金色に染まり、一振り毎に剣から溢れる魔力は地面や植物に当たると急激に命を芽吹かせていく。
スカイは瞬時に異変に気づき槍の攻撃を中断するが、僕はここで流れが止める訳にはいかない。
僕は渾身の力を込めて輝く剣を二振りし、スカイの左右を遮る様にして魔力を飛ばして巨大な植物の壁を作り上げた。
時空関係の魔術を操る事は先ほど分かってはいたが『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』による空間の魔力妨害で一回切り、一瞬だけなら離脱を阻止できる筈。
そのまま僕は爆発寸前の体を無理やり動かして、一直線にスカイに接近していく。
ここまでの状況を作り上げた。
僕が作り上げられるベストな状況だ。
それでも
「(これでもまだ足りないみたいだね)」
木々で作られた一本道を疾走しながら僕が見たのはどこまでも楽しそうに笑うスカイの顔だった。
既に『アズライール』のデバフは対応され始め、増殖スピードが上がった『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』はその数を増やすことができていない。
接近し間合いを殺し、互いに獲物を振るった。
光り輝くユグドラシルの剣はスカイの持つ短い方の槍を粉砕したが、かわりに僕は脇腹に鋭い蹴りを食らう。
「っぐぅ。今の僕以上の身体能力とか人間やめすぎだと思うんですけど!!」
「半神至っている時点で人間は半分やめている!
その儂にここまでやらせるお前の方がおかしいぞ!!!」
「僕はそこまでおかしくないよ!」
手札を全て出したというのに身体能力と技量で負け、魔法術では辛うじて五分。僕が勝っているのは使っている武器の差しかない。
「それほどの実力と武器を持っている者がおかしくないわけなかろう!!
儂の呪槍を一撃で潰すその剣どこで手に入れた!」
「貰い物だよ。誰かは言えないけどね!
それに最初から持っていた方の槍は何回か打ち合っても壊れてないよね!」
戦いを続けながら、言葉を交わしながら体を燃やす様にして剣を振るう。
体は既に感覚が薄れ、気力も保つのが難しくなってきている。
だというのにスカイにはまだ余裕があった。
『アズライール』のデバフは完全には防がれてはいないが対応されているし、壊した槍の代わりはすぐに次空間魔術で用意されている。
「これは気に入りの邪槍だからな。
それに今にも壊れそうなのは他でもないお前自身だろう!!」
スカイは僕の右足を切り飛ばそうと槍を振るうが剣での防御を間に合った。が、槍と剣の隙間と、僕の左腕ら辺に小さな空間の穴が形成される。
ザリュッ
体が麻痺しているおかげで痛みすら感じなかったが、五体の一部を失ったせいで元々壊れていた魔力の流れが暴走しはじめる。
コントロールはおろか、押さえ込むことすら出来ず、切り飛ばされた左腕の端から体が壊れ始める。
「うっぅぁああ!!」
ひび割れていく痛みは麻痺した筈の痛覚を無視して全身を襲ってくるし、その僕の隙をスカイが見逃す筈もなく槍を返す勢いで左足を切り飛ばされた。
これ以上の戦闘が不能な程の負傷。
『スルーシー』の能力ですら体の崩壊を遅らせることしかできていない。
「終わりだなマーリン。身体強化を解除しろ」
スカイは油断なく槍をかなえながら戦闘の終了を宣言してくる。普通に考えたらここで終わるべきで続ける理由なんてある筈もない。
剣を地面に突き刺して支えにし、右足の片足で立ってスカイの顔を見る。
体の崩壊は左肩近くと左膝まで進んでいるが、《明鏡止水》のおかげで思考はクリアだ。
月明かりに照らし出される両者の姿を見れば勝者は明らかであるだろう。
『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』は既に根絶やしにされ再度発動する余裕もない。
『アズライール』や『スルーシー』は健在だがこれ以上の働きを求めることはできない。
「お前はよくやった。私にここまでやらせたのだからな。もう十分だろう。これ以上をする理由はあるまい」
スカイには僅かに小さな切り傷があるだけであり、とても良くやったと言われる様な戦いではなかった。
スカイはそれでも良くやったという。
その顔には侮蔑の色は全くなく、心からの称賛であることが良く伝わってくる。
それでも僕にはその表情を見てその申し出を受け入れることはできなかった。
「(ああぁ…どうして。そんな目で見られたら、そんな表情をされたら引き下がる訳にはいかないじゃないか……)」
「スカイ」
スカイの名を呼ぶのと同時に体に魔力を回すのをやめ、『スルーシー』と『アズライール』の維持もやめた。
それを見たスカイの表情は変わり、また声をかけてこようとしてくるが、その言葉が出る前に僕は宣言する。
「僕の勝ちだ!!!!」
身体強化を解いたと同時に全身を襲ってくる激痛、身体強化をすることで止められていた出血も傷口から溢れ始めている。
《明鏡止水》の能力で無理やり意識を体に留め、現在用意できる魔力を全てユグドラシルの剣に回す。
その全てを《clown mask》の能力で出来る限り聖剣の魔力に合わせて変質がスムーズに進む様にし、剣から大地に向けて黄金の魔力を流し込んでいった。
流し込まれた黄金の魔力は大地を黄金で染め上げていくが、スカイがそれを黙って見ているはずがない。
「馬鹿者が!!」
「(そんな事僕が一番よくわかってるよ。
それにそれを言うならそんな顔で言わないで欲しいかな)」
スカイの動きは先ほどまでの動きのままであり、身体強化を解いた僕には対応することなんてできない。《神眼{把握}》の能力で見えてはいるだけだ。
スカイが僕の目の前まで一瞬のうちに移動し、槍を振るおうとするが、紙一重。僕の手の方が早い。
黄金に染まった大地から無数の黄金色の木が飛び出してスカイを襲わせた。
そこらの武器屋に並ぶ上ものの武器なんかより遥かに硬く殺傷能力があるその木にスカイはすぐさま反応して次々に切り飛ばしていく。
「こんな物でわしがやれるわけがないだろう!」
そうこれじゃ倒せるはずがない。
でも剣を地面から引き抜いて構えるだけの時間なら稼げた。
回避も防御もできない僕は剣を頭上に構える。
剣から溢れ出る黄金の魔力は九つの条となり漆黒の夜を埋め尽くす様に照らす。
その九つの条は次第に絡み合い、一本に纏まる。
それを見てもなおスカイは止まる事は無く、正面から向かってきた。
踏み込みなんて出来る体じゃないし、身体強化もしていないこの体じゃ刃を交える事はできる筈もない。
でもこれでいい。
僕はただ剣を振り下ろぜばいいんだから。
目が眩むほどの莫大な光が夜の闇を呑み込んでいく。
魔力も尽き、体力も尽き意識を手放そうとした僕の目に最後に写ったのは黄金に染まる大地、そこから生える無数の黄金色の大樹。
そして大樹に全身が縛られたスカイの姿だった。




