見せかけの拮抗
戦いが始まってどれくらい経ったかはわからないけど、現時点で勝負は拮抗している。
スカイと僕の魔法術は今のところ僕が少し有利に展開しているから、近接戦での差を埋める事はできていた。
スカイが使う魔法術は一つの文字を書いて発動させるもので、どういう原理なのかわからない発動方法をしている。
文字が一つ書かれただけでとんでもない攻撃が飛んできたり、『告死鳥』のデバフを防いだりとほぼ万能の働きをしていて、一言で言えばチートだ。
『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』は最初の数秒だけ猛威を振るい、その後は適度に刈り取られている。
もうこの戦闘中本領を発揮する事はないだろうね。
今思い返してみても《迷わせ誘う幻想蝶の群れ』がその能力をフルに発揮したのは最初に使った【闇に佇む者】との戦いだけだ。
それ以外の相手には割とあっさり対応されている。対応しにくい魔術のはずなんだけどね。
『告死鳥』のデバフなんだけども、ほぼ完璧に防がれてる。独特な魔法術によるデバフ防御で半分ほど弾かれ、さらに半分も貫通しているもののかなり効力を下げられていて、その状態だと戦闘状態のスカイにはデバフをかけることができない。
デバフ耐性とは簡単に言うと体を循環している魔力の事。これが多いほど外から来るデバフが効きにくなる。
これは水で例えるとわかりやすい。
水を塩味にしようとして塩を混ぜる。この時水が多ければ多いほど少ない塩では塩味にはなりにくいよね。
まぁ少しでも加われば水を変質させるものとかもあるけどね。『告死鳥』のデバフがそれ。
けどデバフ防御で弱くなってるからスカイ本来のデバフ耐性で耐えられているって事。
『踊り狂う土の人形』はもう使ってない。
数秒で維持するのをやめたからね。
ひとところで一切止まらない戦い方のスカイを土人形程度で捕まえられるはずもないし、"あいつ"みたいに体が大きいわけでもないから動きの阻害もできない。
なんならスカイの方が土人形を上手く利用してたくらいだ。
本当にうまくいかないね。
うまくいっているのは『告命鳥』くらいなもので、唯一本領を発揮できている魔法術だ。
どんなに豪快にぶった斬られても完全に切断されていなかったらどうにかなる。
今僕が戦えているのは五割以上が『告命鳥』のおかげ。
自分でも情けないと思うけど技量差については気合でどうにかなるものじゃないからね。
相応の時間と経験が必要なんだよ。
流石にこれだけ戦えば予測は最初よりもはつくようになるけど、まだまだ精度が悪すぎる。
動きの最適解をし続けて戦う僕の戦い方と根本的に違いすぎてるせいで、理解しきれないんだよね。
ここまででわかるようにもう僕に打てる手はあんまり残ってない。
まだまだ魔法術の種類はあるけど下手なものを出しても効果がないし、逆にこちらがその隙にやられそう。
幻系の魔法術なら少しは効果があるだろうけど、下手に見せて失敗したら二度と引っかかってくれなさそうだ。
『告命鳥』『告命鳥』を覚醒させて能力を上げてみるのもいいけどそれだけだと足りない。
健全な手段として打てるものはこんなもので、健全じゃない方法もいくつかある。
魔力限界循環量を無視した魔力を大地から吸い上げて魔力回路を破裂させ、破裂した状態のまま身体強化を行う。前エル父さんに教えてもらった身体強化の裏技。
実際にやってみたことがないからどうなるかわからないので出来ればやりたくない。
『告命鳥』『告死鳥』を『アズライール』と『スルーシー』にする。
これは色々と危険があって、主に僕の社会的立場が死ぬ可能性が高い。
これも出来れば使いたくないです。
『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』を改良した状態にする。
これも以下同文。
この二つは実際どれだけスカイに影響を与えられるかはわからないけど一瞬なら流れをこちらに引き寄せられるんじゃないかと思っている。
後はユグドラシルの剣に埋まっている世界樹の種の魔力を解放してみること。
この種は剣伝いに色んなところから魔力を吸い上げて溜め込んでいることも、その魔力を変質させている事も随分前から知っていた。
何回か開放してみようかと思って実験してみた事があるけど、日頃使いたいと思うような結果にはならなかった。
ここまでがさっきまでの戦いの状況整理。
拮抗しているのはただ単純にスカイがカードを切ってきていないからという、僕としてはとても悲しい理由でした。
「(予想以上に苦戦している)」
あれから既に一時間が経とうという今、戦いの流れは拮抗している。
マーリンの魔術がこちらの予想の遥か上を言っていたのが大きいわけだが。
「ハッァ!!」
ザグッッ
「つぅっ!」
今しがた二の腕を深めに切り裂いてやったはずだが既に追撃を入れるときには傷は閉じている。
位置関係や反応から見て白い鳥の能力である事は分かっているが、白い鳥を消す事はできなかった。
マーリンと白い鳥は魔力パスが繋がっており、魔力が切れるまでは自動修復するタイプの魔術。
そのタイプは自動修復の魔力さえ足りなくなるように、潰し続けるのも手ではあるがマーリンには一切の反応がなかった。
それもそのはず、マーリンは魔力を大地から吸い上げているのだからな。
一体どんな方法を使っているのか。
「〔その方法も気になるところではあるが、そろそろデバフ防御の魔術が限界か)」
黒い鳥を一瞥してから気晴らしに一振り入れてから、自身にデバフ防御魔術をかける。
デバフ防御魔術自体は不得意というわけでもないがいかんせん馴れん。
儂のデバフ耐性を超えてデバフをかけてくる者は儂の知っているだけでも数十人いる。
いくらこの身が半神であろうと、半神であるが故にデバフを受けんという事はない。
しかし大体は儂のデバフ耐性で阻まれ大した効果が無くなっておったり、効果が出る事があってもその専門の者らからだ。
そういう奴らは魔法術を編んでいるうちに接近して首をはねるか心臓を潰すかして終わりなんだが、今目の前におる者はそうするわけにもいかん。
まだまだ未熟な腕とはいえ儂と打ち合えるだけの剣の腕。何よりマーリン自身がデバフをかけてきておるわけではないという事実。
その上で儂に影響を与えるだけのデバフをかけてくる鳥。
影響を受けると言っても動けなくなることや大幅に動きが悪くなる程の強い影響ではない。一種二種程度なら受けてもどうにかなるが、黒い鳥のデバフは種類が多すぎる。
その為久方ぶりに実戦でデバフ防御の魔術を使わされているわけだ。
『S』『F』『L』
自身にデバフ防御をかけるのと同時に周りの蝶へ炎と雷を見舞いする。粗方消し去ればするが上手くまとめて消されないように位置が調整されているゆえ、消しきれん。
「(儂が一対一の戦いでここまで魔術を使わされるとはな)」
まだ手札に余裕があるとはいえルーンを使って拮抗するとは予想外だった。
当初の予定ではルーン魔術まででマーリンを倒し無理やり弟子にするつもりだったんだが予定を変えるしかない。
スキル構成や使える魔法術は弟子にしてから事細かに聞き出すつもりだったがこの場で全て見たくなった。
魔術はこれまで見た四種だけとは思えないのと、スキルについても気になる。
儂の神眼でスキルを見通せぬということから最高ランクの隠蔽スキル持ちである事は確定。
目から少し漏れている光から心眼 真眼 魔眼関係を持っている事も確実。
身体能力の高さから身体強化スキルを持っている可能性大。
後は魔力の流れから大地の魔力を利用しているのがわかる。その為のスキル又は目の力。
戦いぶりから見てまだ手札がある事はわかっているが一向に晒さん。
怖気付いとるようにも見えん事から機会を窺っているのはわかるが、それでは何も始まらんだろうに。
まぁ格上相手への戦い方としてはあっているがな。
「(望み通り儂から手札を晒してやるとするか)」
「死にたくなければ死ぬ気で足掻けよマーリン!」
『境界の扉』




