絶対王者
フォン フォンフォン カンッ フォン フォン
ズパッ
「(危ないね。あと少しで首の頸動脈が切れてたよ)」
手合わせを始めてから一分程で既に何度目かの紙一重。僕が装備している服が普通の服じゃなかったら既にやられてる。
服の許容限界まで魔力を注いで強度を上げているのにこうもスパスパ切られるのは困り物だけど、僅かな差で僕の命が繋がっている事を考えれば魔力を注いでいる甲斐はあるというもの。
リーチ差や身体能力の差はいつも通り相手側の方が上なんだけど、一番の問題は技量でも負けている事。
僕は今生まれ変わって初めて、僕よりも圧倒的な技量の持ち主と戦っている。
つまりは現在の手合わせで使える要素全てで負けてしまっているわけで、この時点で僕に勝ち目はない。
それだというのに女性の方はどんどん動きが疾くなっていく。
躍動的に能動的に空間を広く使いながら華麗に攻めてくる。その姿は正に乱舞といった感じだ。
対する僕の戦い方は静止で受動的。小さな空間の中で最小限の動きで剣を振るう。
元々の僕の戦い方ではあるんだけど、今の状況はそれだけが理由じゃない。
ただ単純に女性の動きに対応する為にこう戦わざる得ないんだ。攻勢に出る余裕はないし、防御に徹してる今でも完璧には防ぎ切れない。
最初の内は女性の大きな動きの隙をつく様にカウンターを入れたりしたんだけど、結果は芳しくなかった。
女性の動きは一つ一つを切り取れば隙が大きい様に見えるけど、すべての動きを合わせれば隙がない。隙自体を囮にしていると言えばいいのか、まぁそんな感じでそこを突こうとしたら逆にこちらが崩されかけた。
カァンッ ガンッガン
「(このままだとあと五合で僕の体勢が崩されるね)」
ガァンッ ギィィィンッ ザグッ!
「つぅっ!」
「ははっ!いいぞ!!」
完全に崩される前に負傷覚悟で抜け出したものの、腕が少しだけやられた。
女性の方は僕を仕留め切れなかったというのにとても嬉しそうに笑っているし、馬鹿にされている気分だ。
「そろそろ満足したんじゃないですか!?」
これ以上は本当に死にそうなので手合わせの中止を願い出てみる。
しかし女性は攻撃を緩めない。それどころか更にギアを上げてきた。
「さあもっと足掻け!もっと踊れ!!お前の力、命の強さを私に示してみろ!!!」
「だから!!っもういっぱいいっぱいって言ってるの!!」
「ハッ、ハハ!!!もっと、もっとだ!!」
「(あぁもう!聞こえてすらいないよこの人!)」
技量差はある。どれくらいの差なのかはわからないけど確実に女性と僕との間には溝がある。
だけどこの身体能力差はなんなんだ。
体の大きさの差はあると言ってもエル父さんやオフェリアさんよりかはマシだし、身体強化の倍率さはあるとしてもここまで結果が離れているはずはないんだ。
僕は一応これでも肉体系スキルトップクラスの《天性の肉体》があるんだから。
「(僕の方は既に限界まで体を駆使してこの有り様なのに、なんでこの女性はこんなに余力があるんだ?)」
僕はもう女性の攻撃を防ぐどころか、凌ぐことさえ困難になってきていた。
槍の一振り一振りに遅れる形で木剣を動かして槍の起動をずらす。
体も限界まで動かして回避しているのに全然間に合わない。
バギィッ!!バギィィン!!カァキィィン!!
木剣の方もそろそろ限界に来てる。
今まで傷一つ付かなかった木には無数の傷が付き、場所によっては隠していた刀身が剥き出しになった状態だ。
というかユグドラシルに角で出来てる刃とまともに打ち合る槍って絶対ロクな代物じゃない。
カァッン ガンッガギィン ギィィィンッガッ
「降参!!聞こえてないの!!降参だよ!!!」
打ち合いの衝撃で腕が痺れてきた。
一旦中断して回復させたいのに女性の方は止まる気配がしない。
ザシュッッ ブシャッ!
左の肋骨が数本ぶった斬られた。
心臓のすぐ近くを刃が通り過ぎる感覚、心臓の鼓動に合わせて溢れ出る血。
動かしづらい僕の左腕に止めを刺そうしてくる女性。
ユグドラシルの剣を片手で防御する様に構えて前に突き出す。
しかし女性の槍の一振りを片手で耐え切れるわけもなく、そらすことさえ満足に出来ない。
起動が少しズレた槍の軌道は右肩から二の腕にかけて裂き、僕の体内を通過していく。
女性はそんな僕の対応を予想していたかの様に槍を斬り返して、僕の首を切り飛ばそうとしてきた。
「(どこまでも容赦ないね)」
体から力を抜いて体を落として肩を剣を先を乗せる。
そのままタイミングを合わせて体を持ち上げ、迫る槍にぶつけて衝突時の衝撃を体全てを使い拮抗させ、右腕の力を振り絞って槍を勝ち上げた。
もう僕の方はこれで体勢が完全に死んでしまって次はどうすることもできない。
女性は斬り返しが決まらなかった事に少しだけ驚いていたものの、小さくバックステップをして衝撃を殺し素早く体勢を整えている。
そのまま心臓目掛けての突き。
見てから回避しようとしても間に合わないそれも、事前に予想できていたなら刺さる位置をずらす程度の事ならこの体でもできる。
右胸を槍が貫通する痛みを感じながら、感覚が麻痺している左腕を鞭の様に振るう。
本来なら当たるはずのないその左腕は、必勝のタイミングで撃たれた必殺の突きが避けられた事で、一瞬動揺した女性の隙をつき女性の右頬にヒットした。
命を使い潰す様にして出来たのがこの程度。
不快感は与えられても負傷は与えられない。
「ぐっボォおっ!!」
ボチャっべちゃちゃ
肺が潰れたせいで血が喉を登ってくる。。
身体強化は維持出来てるものの、もう限界寸言だ。
「ゲホッゲホッ………満足 した?」
槍に体重を預ける様にしながら女性の顔を伺う。
固まっていた女性は僕の声に反応して動き出し、顔についた僕の血を指で確認していた。
その血を見てから僕の顔を見て体を見る。
「ふふっ満足したかか、そう聞かれたならばまだだがな。少し痛むぞ」
ずりゅっ
女性は一言先に言ってから僕の体に刺さった槍を引き抜いた。
血が飛び出るがすぐに治癒魔法を自身にかけて傷を塞いでいく。どうやら手合わせ?は一応終われたみたいだ。
本当に死ぬかと思った。
「ねぇ手合せの域を超えてると思うんだけど、とゆうか途中から完全に僕を殺すつもりでしたよね?」
「魔法術の方はかなりの物だと知っていたからな、近接戦の方を少し見て終わるつもりだったんだが。
予想以上に面白いせいで興が乗った」
興が乗ったね。
戦闘狂過ぎるよこの人。
腕の傷、胴体の傷、服の傷を修復させてから尻を地面につけて座り込む。
傷を治す際、傷に付与されてる呪詛の解呪にかなり苦戦した。きっとあの槍の能力だと思うけど、武器の能力にしては効力が強すぎる。
やっぱりロクな槍じゃなかったね。
焚火の炎は既に消えており、互いにスキルが何かで姿を確認してた。
ちなみに僕は物体の輪郭をなぞった3D映像の様に見えてる。
女性の方はどう見えてるかはわからないけど、あの視線を飛ばすスキルで見ていたんだと思う。
スキルをきっているのか、はたまた詳しくは見えないのか女性は僕に手を差し出して。
「傷の呪詛を解いてやるからそのままじっとしていろ。傷自体の手当ては自分でできるだろうから自分でするといい」
「?もう粗方傷は治したので大丈夫ですよ」
空気が少し変わった。
僕の勘が正しければ嫌な方に変わっていってる。
「傷を癒すのを妨害する呪詛があったはずだが、それはどうした?」
「…解呪しました」
「ほぉう」
やばい。僕の勘が凄い勢いで警報を鳴らしてる。
この流れはまずいと訴えかけてくるんだけど
「まだ未熟だが可能性は大いにあるな。
先ほどの戦いぶりも非常にいい。戦う寸前までの精神状態では楽しめもしなかっただろうが、自力で乗り越えていた。
最後の選択も尋常ではない。」
「(あ〜〜これは僕の人生終了のお知らせかな?)」
「お前を私の弟子にすることに決めたぞ。
今日のところはこのまま別れ、次の機会に見定めようかと思っていたが気が変わった。
今の時点で十分に資格を有している。」
完全に雰囲気が切り替わった。
戦闘にのめり込んでいる時の雰囲気でもない。
それよりももっとこの女性の根幹部分が現れてる様な。
「資格ってなんのことですか?僕これでも冒険者の資格ぐらいしか持ってないんですけど」
女性はきっと微笑んでいるんだと思う。
きっと聖母の様な慈悲深い笑みを浮かべている。
見えてはいないけどそう感じるから。
僕は立ち上がって女性から距離を置く。
女性は追ってきたりはせずその場で両腕を左右に開く様に持ち上げた。
その両方の手には先ほどの槍に加えて短めの槍が握られている。
いつ何処から取り出したのか、持ったのかもわからなかった。
僕はスキルを全て使い再度戦闘体勢を作り出す
今度は魔法術の制限はないだろうから頭の中で『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』『告死鳥』『告命鳥』『踊り狂う土の人形』の魔術式を組み立てる。
ユグドラシルの剣は木剣ではなく本身を出し、服には限界まで魔力を回す。
女性は僕のその行動に特に反応する事はなく、静かにそして確実な一歩を踏み出した。
閉じられていた瞳はゆっくりと開かれ、覗かせる金色の瞳は強く妖しい光を発している。
魔眼、心眼、真眼もしくは神眼。僕にはその判別はできないけど、その類である事は確定だろう。
「…お前が逃げられる可能性は今潰えた。
無駄な抵抗は許す。好きにしろ。
どの道お前の未来は確定したのだからな。
経過が違おうと結果に変化はない」
自信に余裕、そして僅かな警戒心。
もうさっきみたいな不意打ちは不可能であろう事は容易に想像がつく。
でも僕にも譲れないものはあるから、
「逃げれるなら逃げたいけど、今は逃げないよ。
無駄な行いで結果が伴わない努力なんだとしても、未来の結果が変わらないんだとしても僕は逃げない。
行き着く先、行き着く未来は同じでも経過が違えばその意味は変わるから。
なら僕が逃げない理由には十分だよ」
女性の雰囲気が少しだけ変わった。
少しだけさっきの戦いの時に感じた雰囲気が混ざり、静かな笑い声が聞こえる。
笑い声が止み、一拍空いて満点の星空の下、絶対王者がその名を高らかに名乗り上げた。
「我が名はスカイ・アザーレ!!
神に挑み敗れその身が半神となりながら、願いを遂げるため悠久の時を生き続ける亡霊なり!!
我が名を聞きて返す名があるならば吠えてみよ!!
お前の超えるべき運命がここにいるぞ!!!!」
「吠えてみろと言うなら存分に吠えてやる!!
僕の名はマーリン!!
この身は自由なるを良しとする我が人生なれば!!
貴方が僕の運命と言うならば!この手に掴んで我がものとするまで!!」
スカイの名乗りに気圧されないために自分を鼓舞する様に叫ぶ。
僕らしくないのは自分でも理解しているけど、こうでもしないと耐えられない。
「「いざ!!」」
「「尋常に!!」」
「「勝負!!!」」




