視線の主
マーリンです。
僕は今盗賊団の根城になっていたある洞窟中で一人の女性と対峙している。
手には赤黒い槍を持ち、服装は数カ所に金属の防具があるだけで他は黒の布を体に巻いただけ。
露出が多いとかではなく、単純に体の線が出過ぎていて見ている僕の方が恥ずかしくなってくる程の服装だ。
当の本人は特にに恥ずかしくもないようで漆のように黒く艶やかな長髪を手櫛で整えながら、月の様な金色の瞳を僕に向けている。
そして僕と女性の周りにはおびただしい数の盗賊達の死体があり、状況の複雑さをこれでもかと上げている。
だがそんな沈黙を女性はあっさりと破った。
「お前はあの戦場にいた子供か、こんな場所で会うとは奇遇だな」
まるで近所の公園で会ったかの様に話しかけてくる女性の雰囲気に僕の頭は更に混乱していった。
しかし女性の発した言葉の中に引っかかる言葉があった。
"あの戦場" 僕が戦場に行ったのは一回だけで、それを知っているのはごく少数だ。
しかも女性の口ぶりからして僕が戦場にいたのをその場で確認した様に聞こえる。
僕の存在を戦場にいた時に気付いたのは三人。
ジョナンのお爺さんとオフェリアさん。
最後の一人は誰かわからないままだった視線の主だけだ。
「貴方が視線の人って事で良いのかな?」
「その認識で間違っていない。
それともこうした方がお前としてはわかりやすいか?」
女性が瞳を閉じるとあの戦場で感じていた視線を感じる様になり、気まぐれに向けられていた殺気が襲ってくる。
何処から向けられているのかわからない感覚、冷たく鋭利な刃物を連想される殺気。
先ほどまで僕の頭にあった疑念は、忘れられない感覚で持って払拭された。
女性は瞳を閉じたまま笑みを浮かべて僕に近づいてくる。
そこには一切の気負いや不安は感じられず、圧倒的な自信を漂わせるだけだ。
「あの時はタイミングを逃し諦めたが、今ここで巡り合えたわけだ。
どうする?あの時の続きを、死合を興じてみるのも自然な流れだと思わないか?」
あの時とは違い本人から直接言葉で伝えられる死闘の誘い。
あの夜に決めた覚悟すらまだ足りないと嘲笑われているかの様に、僕の心に生まれる初めての感情。
女性の何気ない行動一つ一つに過敏に反応してしまう自身の体。
すぐ目の前まで近づかれ開かれた金の瞳と見つめあった時に無理やり理解される。
「(……この人と戦えば絶対に僕は絶対死ぬ)」
前世を含めた人生の中で初めて僕は真の意味での恐怖を、自分の意思や行動に一切左右されることのない圧倒的な力に対する恐怖を実感させられた。
何も答えられず黙っていた僕を気にしてか気にしてないのかはわからないけど、女性は僕から視線を外して歩き出した。
「冗談だ、真に受けるな。
こんな臭い場所で楽しみを消費するほど浪費家ではない。
ここにこれ以上いる理由はお前もないのだろう?
ならさっさと外に出るぞ。続きはそれからだ」
視線と殺気が僕から外れるのと同時に体から力が抜けていく。背中や手から嫌な汗を噴き出しているし、呼吸は普段より浅くなっていた。
僕は心を落ち着かせてから女性の後に続くように歩き出す。
洞窟の出口に向かい歩く女性の後ろ姿からは先程まで感じた威圧感は一切感じない。だけど僕はあれほどの圧が完璧にコントロールされている事に畏怖の感情を強めた。
「(あぁ今日で僕の人生終わるかもしれないね)」
冗談めかして心の中で呟いた事は現実味があり過ぎて笑うことすらできなかった
小話になりますが、すみません
出来る限り毎日更新していくつもりです。途切れたら、途切れたなくらいに思ってください




