マーリンの扱い
「あれが【深緑の大精霊】に選ばれた者か。
なんとも掴みどころが感じられぬ者であった」
そこは王城のとある一室。
四人の男女が二人ずつ向かい合うようにして座っていた。
室内に入ってから無言である一つのレポートを四人が読み、読み終わってからも言葉が発せられることはなかった。
その沈黙を破るようにして一人の男性が独り言のように言葉を紡ぐ。
その男の名はヴィーガン・フィルヴァーニアその人であり、北両同盟王国の頂点だ。
ヴィーガンの言葉を聞いた他三人は先ほど謁見の間で見た一人の少年を思い出していた。
中性的どちらかと言えば少女に見えるほどの容姿を持ちながら、その身のこなしからはその年では考えられないほどの実力を持っていることが窺える。
そこまでは【深緑の大精霊】に選ばれた少年という事で理解できるが、問題はそれからだ。
少年をわざわざ公の場に呼んだのは対面的な事もあるが、その性格や思想を直接感じ取っておきたかったからでもある。
そのためいくつかの答えに窮する質問を投げかけたが、すべてをうまく受け流された。
案内の時などにもいくつか話を振ってみたものの、答えは全て良過ぎもせず悪過ぎもしない。
これならばまだ悪い方が良く、何も分からないという結果は最もタチが悪い。
「エルフについての印象やその他の他種族に対する偏見はなく、ただあるがまま知ってるがままという感じでしたね。
彼にはヒューマンやそれ以外の人種もそれほど違いがないのでしょう」
ラインバッハ・ハウル宰相は王に続くようにして話を繋げていく。
その顔はいつも通りの落ち着いたものであるが、声にはかすかに困惑の感情が乗っていた。
「腹の探り合いにおいても成人したばかりの少年とは思えないな。
五日前の事や彼の能力の事を私達が知っておきたい事が分かっていたにせよ、見事な会話ぶりだった。
答えに段階をつけていき、数度目の質疑応答で綺麗に締めくくるあの対応は強く印象に残ったものだ」
エルファエル外交官最高責任者の男性は感じたままを率直に告げた。
そして四人のうちまだ一言も発していないエルフの女性は妖しげに笑みを浮かべている。
「そうですねぇ。今例に挙がった二つやそれ以外の立ち振る舞いに至るまで、彼は私達に深くを探らせてくれませんでしたね。
そして何よりの問題は彼が纏めた報告書に書かれている彼の考察です。」
〜此度の北両同盟王国と中天帝国による戦争は二つの国が事前に示し合わせたものであると私は考察する。
理由として北両同盟王国がデ・ディバルドからここ数年買い続けてきた軍事品の消費と若手王国兵士の厳選。オフェリアとディーノ・ツェッペリン両名の試練。
世界樹問題による戦争という事実。
中天帝国の反乱分子を大義名分の下粛正するためと、口減らし。
デ・ディバルドとの国交の復活を北両同盟王国に仲介させる対外向けの理由作り。
ゲオルグ正教法皇国からの要求を実行したという事実。
炎 虚苦への試練。
理由の一つ一つの横に書かれた番号のページにそう考えた元になる情報を別に纏めた書類ある。
これらの理由から私は今回の戦争が事前に示し合わされて起きたものと考察する。〜
「みなまでは書いていないけれど、きっと彼は想像ついているでしょうね。貴方もそう思うでしょうヴィー。」
そう北両同盟王国の王に問う女性はエルファエル新人外交官の女性であり、本来なら国際問題に発展してもおかしくはない言動である。
しかしここにいる三人は知っていた。
今彼女の意識はなく、体を借りてここにいるのがエルファエルの女王エファーラル・ティリアーノである事を。
そして問われたヴィーガンは首肯してその意見に合意をしながら、四年程前に実行した四国合同の大規模なフェイク劇のことを考えていた。
四年の月日をかけようやく終わろうとしているその劇は今のタイミングでバレても問題はないものだが、普通は想像するようなものではない。しかも年端のいかな少年がだ。
「(数十万の命が消えたここ四年間の戦争の数々が全て四国合意の下での犠牲であり、自作自演であった。という真実など)」
「高い可能性として考えて入るだろう。
しかしそれを確証づけるピースがいくつか不足していたのだろうな。
この報告書に正しい答えを知っているものとして点数をつけるなら七十点あるかないかだが、私たちがお題として出したものの答えとして点数をつけるなら満点+aと言ったところだがな」
その意見に反論するものはいない。
それはその意見が四人の共通見解であったからだ。
そして話は進み
「では予定通り彼、マーリンはエルファエルへ来てもらうという事でいいですね?」
「仕方がないだろう。課題や振る舞い、性格等にも問題はないしな」
「スキル構成は《真眼》《明鏡止水》《最高の肉体》の三つを除けば我が国としても許容範囲です。些か許容範囲を超える三つのスキルに関しても安全を改めて保証してもらえるのであれば国外に出る事も問題ありません」
「想定外だったのがジョブの【深緑の幻想使い】だな。
事前の情報では《剣聖》や《大賢者》もしくは《勇者》の可能性が大きいと判断していたが、まさか冠位十二階で定まりきっていない《幻想使い》になるとは。」
冠位十二階とはジョブの優劣を人種が長い年月をかけて独自にランク付けしたものである。
しかしジョブの中には系列が存在せず、同じジョブでも個人によって実力に差が大きいものが存在した。
その中の一つが《幻想使い》。
過去の記録には当時最高の《大賢者》と呼ばれていたものを魔法術のみで打ち破った記録や、ベテラン《幻想使い》であるに関わらず《魔法士》に負けた記録も存在する。個人により強さば違うものだが、まだ補正の強さを測るだけの参考例がないのが一番な理由だ。
「強さの振れ幅が大きいけれどそこは仕方がありません。
確定ではなくとも可能性が高いあるならば我が国としては、彼には我が国にも情を持ってまらう必要があります。」
この一室にいる四人は国の状況を理解し尽くしている四人である。【深緑の闇】を超えられる可能性を片方だけが保持する危険性を理解していないものは一人たりともいない。
そしてその可能性が愚かなのか聡いのか、因縁はあるのか、情はあるのかは一騎当千が存在するこの世界では非常に重要な事なのである。
沈黙を肯定として受け取ったエファーラルはヴィーガンと共に契約書と誓約書を作成してから、非常に濃い色気を覗かせながら呟く。
「楽しみですね…。私の娘が落とせなかったシェヘラザードの子共。
それもシェヘラザードに瓜二つな。
ふふっ是非私の国に引き止めたいですね……」
エルフはその身体的特徴から非常に長寿であり、種族全体で見ても容姿が非常に良いことが特徴である。
男性女性共に性欲は基本的存在しているが、長寿故に子孫を残す事を重要視しない。
ただ美しい人と愛しい人と長い年月共にいる事を大切にし、情事は絆を深くするための行為という認識の方が大きい。
そしてもう一つ特殊な事として、エルフは男女共に性別を気にしない。
性別による体の違いは他種族と同じくらいあるが、相手にそれを求めるかは個人の趣向でしかないという考え方を持つ。
十数年前両国の親善を目的として北両同盟王国に留学していたエファーラルの娘は、当時学生だったシェヘラザードに惚れた。
そしてパートナーにしようと留学期間中アプローチを続けたものの、結局娘はシェヘラザードをエファーラルに連れて行くことには失敗。
しかし親交を保つことには成功し、連絡のやり取りはずっと続けている。つまりは未だにシェヘラザードの心に隙が出来たなら狙う気満々ということだ。
シェヘラザードのエルファエルの友人というのはこのエファーラルの娘である。
ちなみにシェヘラザードは幾つかの要因があり彼女の気持ちには気づいていない。
少し話を短めに更新していきます。




