祝福されし少年はその真価を試される
現在も僕とよっちゃんは現実逃避中。
「のぉマーリン…」
「どうしたのよっちゃん?」
「怒っとる?」
ピィ ピィ
よっちゃんに加えて何故かアズライールとスルーシーまで不安がな眼差しで僕のことを見てくる。
「(可愛い)」
素直にそう思った。
「怒ってないよ。突然の事でどうしたら良いかわからないだけ」
「嘘じゃないかの?」
「『アズライール』と『スルーシー』が問題なく使えるなら、後は僕がアズライールとスルーシーを呼ばなければ良いだけだからね」
するとよっちゃんの表情は花の蕾が高速で開いて満開の花になるが如く明るくなった。しかしアズライールとスルーシーは言葉が理解出来るようで、拗ねて拗ねてしまった様にチョコレートを取ろうとする僕の手を嘴で突っついてくる。
「言われてみればそうじゃ!!
おぬしがあっちでこやつらを喚ばねばなんの問題にもないの!!
わしとした事がなんともうっかりしとった!!」
ガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ!!!
「ちょっ!、よっちゃん開き直ってないでアズライールとスルーシーをなだめるの手伝ってよ。すごく痛いんだけど!!!」
「おぬしがもう会わぬみたいな事言うからじゃよ。
言ってしまえばマーリンはアズライールとスルーシーの父親じゃからの。
親に見捨てられそうになれば、そりゃそうなるじゃろ」
言ってる事は酷く正論だけどそれは仕方ない事で、実際にあっちでアズライールとスルーシーを一度でも喚んでしまえば僕の人生はお先真っ暗になってしまう。
だって龍神や大精霊級の生き物二体喚べるんだよ。
そんな事がバレたらほっといて貰えるはずない。
知られた上で自由に生きようと思ったら全世界的に回しての逃亡生活ぐらいしか選択肢がないんだよ。
そしてそんな事はよっちゃんもわかっている。
「アズライール、スルーシーおぬしらは少しばかり力を持ちすぎとるんじゃよ。
寂しいのはわかるがもう会えんという訳でもなし、それまでわしが一緒にいてやるからの。」
何故かよっちゃんのフォローには僕への皮肉に溢れている気がする。
具体的にいうと甲斐性なしの夫を持つその妻みたいな感じ。
でも今回は否定する事ができない。
「ごめんねアズライール、スルーシー。
できるだけ会いに来るからそれまでお母さんと一緒に待っててね」
ピィ ピィ ピィ
どうやら一応の納得はしてくれたらしい。
まだ時々突いてくるけど、撫でさせてはくれる。
割と痛かったから助かったよ。
そんな僕を見ながらよっちゃんはコロコロ笑ってい恐ろしい話を僕に振ってきた。
「お母さんか、わしとマーリンの関係は何になるんじゃろうな?正妻?妾?愛妻か?」
「そっち関係の話は勘弁してよ…」
「いやなに、少しばかりユグドラシルの奴に自慢してやろうかと思ってな。」
「絶対めんどくさい事にしかならないからやめて頂けると本当に助かります」
「冗談じゃ。そんな事をすればわしに来る被害の方が大きいしの」
そう言ってよっちゃんはアズライールやスルーシーとじゃれあいながら、心の底から愉快そうに笑っていた。
ずっと気にかけていたユグドラシルの事が解決し、そういう話ができる様になったのが嬉しいんだと思う。
「してじょ。そろそろ《ジョブ》を決めていかねばな。ぼちぼちわしが修正できる時間量を超えてしまうからの」
「結構ここにいた気がするけど大丈夫なの?」
「これくらいなら数秒後のあちらの世界におぬしを返せる。おぬしの身体は未だあちらで固まったままじゃから流石に硬直時間が長過ぎれば問題になるじゃろ?」
「そうだけど、他のみんなは一瞬で終わって僕が数秒硬直じゃ手遅れじゃない?」
僕は僕以外の儀式の様子を思い出しながら疑問をよっちゃんに投げかけた。
「それは心配ない。《ジョブ》の選択肢が多いものは数秒時間がかかる事がある。
おぬしの兄とかはそうじゃったぞ。」
「(それなら問題はないのかもしれない。シェーラ母さんにも選択肢が多くて困ったといえば納得してくれるだろう)」
シェーラ母さん達に不審がられる心配がないとわかり、僕はひとまず安心した。
未だによちゃんは時折バツの悪そうな表情をするのが気になるけど、聞いても答えてくれなさそうなのでスルーしておく。
とは言えなんの《ジョブ》にするか全く決められていない僕は時間制限ができた事で少しだけ焦りを感じていた。
「よっちゃんお願いがあるんだけど」
「言うだけ言ってみるといいぞ。
場合によっては聞いてやれるかもしれん」
「僕が幾つか希望する条件を言うからね、それを元によっちゃんが僕にお勧めする《ジョブ》を教えて欲しいんだ」
よっちゃんは数秒間スルーシーの羽毛をいじりながら何かを考えてからこう答えた。
「おぬしには転生の時に随分と楽をさせてもらったからの、特別にその願い聞いても良い。
して条件は?」
「《勇者》とか《剣聖》みたいな有名すぎるのはできれば避けたいのが一つ目。
それでいてシェーラ母さんとかから不審がられない様な《ジョブ》である事が二つ目。
三つ目は…………特にないかな」
なんとなく流れで三つくらい条件を付けようかと思ってたんだけどなにも思いつかなかった。
よっちゃんは僕の二つの条件を聞いてから「ふむふむ」と何度か頷き、テーブルに置いてあったカードをしまい始める。
「おぬしの要望が満たせて尚且つわしが勧めるのはこの二つ《幻想使い》《結界師》じゃな。
どちらを選ぶかはお主の好みで良いと思うが、わしが選んだ方が良いかの?」
「そうだね。そうしてもらえると嬉しいかな」
よっちゃんが選んだ二つなのだからそれがベストな二つなんだと思う。
どちらを選んでもほとんど同じ結果ならよっちゃんが選んでくれたものの方が僕としては良い。
よっちゃんは「仕方ないの〜」と言いながら二枚のカードのうちから一枚を僕の方に差し出した。
そのカードは《幻想使い》のカードだ。
「《幻想使い》の方がよりマーリンらしいかと思っての。《結界師》の様にカッチリとした感じではないじゃろ、おぬしは。」
「否定はしないけどね。まぁこれで僕は【深緑の幻想使い】になったわけだけど、《剣士》のジョブってどうなるの?」
「どうなるも何もあいつが説明したはずじゃぞ。
《ジョブ》とはその基準を満たしている者や満たすであろう者に与えられるものじゃ。
故に本来とは単なる名称であり現在の自分の指標、良くても補助。
《剣士》なぞ既に超えておるマーリンには《剣士》の名称は必要ない。
マーリンは【深緑の幻想使い】であると同時に、認定されとらぬ剣聖でもあるんじゃよ。」
《ジョブ》は単なる名称。
《ジョブ》による身体能力などの能力補正は確かに存在しているけど、それは《ジョブ》の本質ではないって事なんだろう。
僕がよっちゃんの説明に納得していると、よっちゃんは少しだけ説明に補足を入れてきた。
「とはいえマーリンと同程度の剣の腕の持ち主が《剣聖》で、《幻想使い》のおぬしと剣で戦うことになったらマーリンは負けるじゃろうがな。《ジョブ》の補正の力はそれほどに大きい。
そう考えると《ジョブ》選びは重要ではあるんじゃろうよ」
「ちなみに《幻想使い》の身体能力補正ってどれくらい?」
「《剣士》と同じくらいじゃよ?若干《幻想使い》の方が高いかもしれんが大差ない。」
訂正。《ジョブ》の能力補正はすっごく重要だと思う。
「気が変わったら儀式を受けにこれば良いし、まずは《幻想使い》である程度行ってみたら良い。
そしてそろそろ時間じゃ、おぬしをあちらに送り返すぞ」
そう言いよっちゃんは僕をソファーから立ち上がらせる。その急かし具合から結構ギリギリな感じらしい。
僕を立たせるとよっちゃんはすぐに魔術陣を僕の足元に構築する。
「最後に慌しくなってすまんなマーリン。
流石におぬしが儀式に来る時に丁度わしの手が空いとるとも限らんからの、おぬしが寝ている時とかに喚ぶこともあると思うが良いか?」
「それで大丈夫だよ。それじゃよっちゃん、アズライール スルーシーまた会おうね」
「うむ達者でな」
ピィー!ピィー!ピィー!ピィー!
別れの挨拶を済ませると僕の体は徐々に薄れていく。戻るときはスッと戻れる様になっているみたいだ。
もう三秒ほどで完全に体が消えるという時によっちゃんがボソッと良からぬことを僕に伝えてきた。
「…言い忘れとったんじゃが、あちらに戻ったらおぬしは消滅するかもしれんからの。……まぁあれじゃ、一回は生き返れるから安心せい。
………………………死ぬほど苦しいだけじゃ」
「っちょ!絶対言い忘れじゃ・・・」
言い切る前に僕の体はその空間から消え、気づいた時には目を瞑り片膝立ちをしていた。
僕の体がある世界に帰ってきたんだけど。
そう確信した僕は先ほどのよっちゃんの言葉を思い出して襲いかかってくるであろう痛みに備える。
しかし数秒待っても痛みが訪れる事はなかった。
流石に片膝立ちのままずっといるのが辛くなってきたので立ち上がって目を開くことにする。
そして僕の目に最初に映ったのは光り輝く僕の手と青白く燃えているA4サイズの紙だった。
そして僕が何か思うより速く燃えている紙に一つ二つと青白い炎で単語が綴られていく。
《神眼{把握}》
《clown mask》
《明鏡止水》
《鏡花水月》
《天性の肉体》
そして単語が形作られはじめると同時に全身を襲ってくる激痛。内臓が焼ける様な、体が内側から破裂する様な言葉に表現しきれない類の痛みで絶叫しようにも声も出ない。
立っていることもできず崩れ落ち、ただただ悶えて痛みに耐えるしか出来ることがなかった。
誰かが僕の事を呼んでいる気がするけどそこまで思考が回らない。
どれだけの時間が経ったかはわからないけど、ほんの少しづつだけど痛みが治まってきてた。と僕が気を緩めると同時に眼球が燃えているのかと疑う様な激痛が襲いかかってくる。
「っぁがぁあ…………!!」
僕は言葉にならない悲鳴をあげることしかできず、そこで意識を僕の手から離れていく。
「(絶対よっちゃんに文句言ってやる)」
それが意識をなくす前、最後に思っていたことだった。
ようやくこの話を書けました。
ずっと書きたかった話なのでちょっとだけ嬉しいです。
読んでくださった方にと楽しんでいただけていたら幸いです




