過去の自分のファインプレー
「久しいの魔理!いやマーリンかの?
わしじゃわし!!お主の世界の神様じゃよ!!」
幼女様ことよっちゃんはない胸を張って僕にそう言って来た。
十二年前に別れた時と何一つ変わらないその姿と様子に僕は笑みが溢れてしまう。
「再び御拝謁できました事をこのマーリン、深く感謝致します。
我が主におかれましては変わらずの美しき姿と神々しい威容であらせられ、その前では私なぞ塵芥に等しい存在であると改めて認識いたしました。」
言葉遣いとかはかなり間違っていると思うけど、揶揄うための演技なのでそこまでは気にしない。
チラリとよっちゃんを確認すると効果は絶大だったらしく、惚けた顔で固まっている。
しばらくして慌て出し
「どうしたのじゃマーリン!?
確かに神に対する姿勢としては至極真っ当な態度ではあるがの!?
今更お主がする様なことでもあるまい!?」
「過去の我が主に対する非礼の数々深く反省しております!!
お許しいただけるのであればこの命でもって謝罪することもいといません!!」
「いやいや謝罪などいらんぞ!!命なぞもっといらん!!!
あ〜なんじゃ、わしはあの時の事は全く気にしとらん。
じゃからマーリンお主も前の様に話して貰って大丈夫じゃぞ」
「しかしながら主よ!お許しいただいたからと礼を失するは余りにも!!」
「じゃったらお願いじゃ!!!
前の様に話せ!!わしの友として喋れ!!!
主の願いじゃ、これならいいじゃろ!!!」
「了解よっちゃん!!前みたいに話すね!友達のお願いなら聞いてあげるよ!!」
言わせたかった事も言わされたので普通に話すことにした僕。跪くのをやめてすぐに立ち上がりよっちゃんの頭を撫でる。十二年前よりも身長差がないからなんとも新鮮な気分になった。
よっちゃんはまたもや混乱している。
「おっ お主マーリンわしをからかったな!?」
「よっちゃんのノリに合わせてあげただけだよ」
「何を白々しく言っとるんじゃ!!流石にそんな言葉では騙されんわ!!」
そこから一時間ほど懐かしく感じる様な言い合いをして、ようやくよっちゃんの機嫌が治った。
「はぁっ……。予想はしとったがお主と話すと余計な時間を食うの。」
「楽しかったでしょ?」
「楽しかったぞ、しかしそれとこれとは別じゃい!!バカ者!!」
よっちゃんはそう言ってから本棚に移動して、手招きで僕をそこに呼んだ。
「変に時間をつかわされたからの、少しだけ手伝って貰うぞ?」
そう言うよっちゃんの顔には怒りとかの感情が全くなく、楽しそうな表情だ。
僕は少しだけ改まった感じで答える。
「仰せのままに」
それから体感で数時間位よっちゃんの仕事の手伝いをした。
やったことと言えば書類整理にファイルや本の運搬、ついでにコーヒーとか紅茶も淹れたりしたね。
デスクの上に積んであった書類達が半分程度片付いた所で一旦休憩し、今はソファーに二人で座って寛いでいる。
手にはさっき僕が淹れた紅茶があり、テーブルにはチョコレート(もともとよっちゃんが持っていた物)。
先に話出したのは僕で気になった事をよっちゃんに聞いてみた。まずはこれを聞いておかなければなにも始まらない。
「僕死んじゃった感じ?」
よっちゃんはチョコレートを一つ口に入れて紅茶を飲み、一息ついてから僕を見て
「うむ残念ながらの………齢十二歳にして死因は脳梗塞じゃ。」
「そっか………。うん。 それで本当は?」
「《ジョブ》と《スキル》の事で話すことがあったのと、他にもいくつか直接話したいことがあったからじゃよ」
そうよっちゃんが言い切ると、僕とよっちゃんはお互いに声を出して笑った。
これはあれだね。
だんだん言葉にしなくてもお互いのノリが合ってきて、何故かそれで楽しくなるあれだ。
ひとしきり笑い合ってからよっちゃんが話を進めていく。
「まずはそうじゃな。ユグドラシルの事かの。
礼を言うぞマーリン、あの子の願いを叶えてくれてありがとう。」
ユグドラシルの事。
それは間違いなく世界樹のことなんだろうけど、あれは完全な成り行き上の事だ。それを改めて感謝されるのはむず痒い。
「成り行き上ああなっただけだから気にしないでいいよ。
それよりも世界樹ができた事でよっちゃんの仕事が増えちゃったんじゃない?」
「多少はの。言うて多少じゃ、苦ではない。
あれは元々この世界にあった物じゃかな。
それがようやく復活しただけのことじゃ」
「ユグドラシルもそう言ってたね。」
「色々とあっての、最初に存在しとった世界樹は消滅してしまったんじゃ。
その頃は世界に問題が山の様に残っておって、新たな世界樹を作る暇がなかった。
ようやくそれができるとなった時には人種が世界に溢れとったし、世界自体も安定しすぎとったわけじゃ。」
よっちゃんは一度言葉を切ってから、紅茶を一口飲み話を再開する
「わしはこの世界の神じゃがなんでもしていいわけではない。なんでもできるがの。
安定した世界をわし自ら乱す事はするべきではない事じゃ。
理由は言わんでもわかるじゃろ?」
「大体はね」
「故にユグドラシルの奴が世界樹を必死に復活させようとしているのも黙って見守るしかなくての、不憫でならんかった」
きっとよっちゃんは何度か手を出そうとしたんだと思う。よっちゃんの性格からして、そこまで割り切って考えれるとは思わないから。
それでもしなかったのには色々な葛藤があったからなんだろうね。
「それがの、ファブニールのアホがやらかした事を必死に後始末しとる最中にいきなりの世界樹復活じゃ。
度肝抜かれたわ!
ついでにユグドラシルから〔結魂〕の宣言が届くし、相手はマーリンおぬしじゃしであたふたしっぱなしじゃった。」
「その節はご迷惑おかけしました。あれって〔結魂〕って言うんだね。」
よっちゃんは笑いながら説明してくれる。
「そう〔結魂〕じゃ。やはり知らずに結んだんじゃなおぬし。
意味はそのままじゃ、お互いの魂を結ぶ事。
関係という物でランク付けするなら最上位の関係性じゃよ。
効果として重要なのが、片方が死ねば死んだ魂は〔結魂〕したものが保管するというものじゃ。
つまり両方死ぬまで完全には死なん。」
思ってた以上に強い効力みたいだ。よっちゃんは紅茶のおかわりを淹れながら話を続けていき
「これが人と人やちょっとした魔獣とか聖獣ならあんまり問題ないんじゃがの、精霊や龍になると話が変わってくる。
精霊や龍は不老じゃ。殺されん限り死なん。
そして奴らは賢い。
魂さえ残って居れば肉体を再生させる事で復活できる事を知っとる。」
「つまりは」
「人と精霊、人と龍が〔結魂〕した場合、相手の精霊や龍が死ぬまで復活し続ける事ができる。
実際これまでに何度か〔結魂〕した例があっての、その中で一番有名なのがおぬしらで言う【第一次聖魔大戦】における勇者と魔王じゃな。
まぁそれも〔結魂〕相手の精霊と龍が殺されて死んだんじゃがの」
いくら精霊や龍が強くても不死ではないからそりゃあそうなるだろう。
僕がよっちゃんの説明に頷いていると、よっちゃんは大きなため息をしてから僕を見た。
「じゃが龍神や大精霊では話が変わってくる。
彼奴らは世界の一部じゃ、世界がなくなりでもせん限り完全には消えたりせん。
ファブニールのアホも肉体が復活するのを待っとるだけで死んどらんしの。
そんな相手と〔結魂〕すればもう消滅する心配などは無い。
完全な不死、現人神とも言えんくもない存在になる。
わしの言っとる意味はわかっとるな?」
よっちゃんの雰囲気が一瞬にして180度反転した。
今のよっちゃんは僕の友達としてではなく、この世界の管理者として僕を見ているんだろう。
「そうなってしまえばマーリンおぬしは重要警戒人物認定じゃよ。
世界を乱す様な事をするのであれば、わし自ら世界に干渉してお主の存在を抹消せねばならん。」
よっちゃんの言っていることは正しいと思う。
反論の余地が無いほどに世界を管理するものとしての役割に沿った行動だ。
でも
「……………くっくくっくははは少しは怖がらんかマーリン!!
脅かしておるわしの立場がないじゃろうが!!」
「いやぁ仕方ないとも思うし、何となく大丈夫かなって思ってね」
「うむ、わしが礼を言ったのにはそれも関係しておってな!!
マーリンがユグドラシルの我儘に付き合う形で〔結魂〕をする時にお主はこう言ったじゃろ?
"この繋がりをマーリンとしての一生において失いたくないと思う"との。」
あの時の事は流石の僕でもしっかり覚えている。確かに僕はそう言っていたと思う。それがどうかしたのだろうか?
「死んで復活する場合は、同じ体で蘇るか違う体で蘇るかで考え方が少しだけ違ってくる。
お主が死んだと仮定して、その後お主の死体を万全な状態にして元の体で復活したとする。
これはお主のまま、マーリンとしての一生の続きじゃ。
しかしお主が死んだ時に死体は木っ端微塵になって再生できなかったとするじゃろ。
それでユグドラシルがその力を使いお主体を復元して復活させた。
この場合はマーリンの一生の続きとしてはカウントされん」
「再スタートって事?」
「その通りじゃ。まさに再スタートじゃ。
肉体は魂と共に歩むものであり、その人物としての記録媒体みたいなものじゃからな。
新しい肉体になれば新しい一生じゃ。
携帯機種とICチップみたいな関係じゃよ。
機種がVからXになったらそれはXじゃろ?」
つまり僕はほぼ不死だけど、ちゃんと殺し方がある状態。不完全な不死という事なんだろうね。
過去の僕に抱きつきたいくらいのラッキーさだよ。
よっちゃんはこの話の最後の締めくくりとして
「じゃからお主の場合は問題ない。
もしユグドラシルが言っていたように期間を延長するにしても、わしに少しは相談する事じゃ。
生まれ変わりなどで対処出来るからの、わしもおぬしをわしの手で消滅させたいとは思っておらん」
「本当に優しいよねよっちゃんは」
よっちゃんは紅茶を飲むフリをして顔を下に向け表情を隠した。
耳が少し赤いから照れてるんだろうね。
僕が笑いを噛み殺しているのがバレたのか、よっちゃんを下を向いたまま上目遣いでこちらを見て「照れとらんわ!」と言ってきた。
しかしその目元はやっぱり少し赤かった。
神くんもはやく再登場させて、「マーリンぼくより小さくないかい?」のノリをしたいですね。
まぁそれはいつかの楽しみに取っておくとしまして、久しぶりのよっちゃんは書いていて楽しかったです。
転生してからここまでで一番楽しかったかもしれません。
お読みになってくれた方にも楽しんでいただけていたら嬉しいです。




