祝福の儀
国の威信を背負う。
それは誇りでもあり、重責でもある筈だ。
前世でのオリンピック選手や政権のトップ達を含めた政治家達。
その一人一人の行動で国の印象が左右される。
大袈裟な様に聞こえるかもしれないが全くのデタラメというわけではない事くらい考えればすぐにわかる事だ。
オリンピック選手が大会中に暴れる、暴言を吐く、
政治家達が国同士の会議の場で失態を犯す、失言をする。個人のたったそれだけの行動で国の印象は少なからず変わってくる筈だ。
これは僕個人の意見ではあるけど、出来る事なら国の威信なんて背負いたくなかった。
「マーリン。頭を下げ相手側から自分の顔が見えないからと言って気を抜いてはいけませんよ。
周りは常にあなたの些細な動きまで観察しています。」
「少し頭を上げる動作が速すぎます。焦っている、緊張しているなど類推されない様気を付けてください。貴方が本当に緊張しているにしろ、いないにしろ相手側にそう思われてはいけません」
「視線の動きにも気をつけてください。目の動きは様々な情報を相手に知らせてしまいます。
何をみているのか、気になるのか、今の心境まで推測され推測させます。ですので不用意に動かすことはするべきではありません」
他にもいろいろな事をシェーラ母さんに教え込まれた。なんでも今度の謁見ではエルファエルの方からも代表者が来るみたいで、失敗は許されないんだとか。
僕みたいな子供に期待はしないでもらいたいんだけど、謁見する時の僕は一応この世界では成人と考えられる年なのでその言い訳は通用しないらしい。
謁見まで後五日という今日。
僕は成人になる。つまり祝福の儀を受ける。
祝福の儀は成人する子供とその親一名のみが参加する事ができ、今回僕の祝福の儀についてきたのはシェーラ母さんだ。
エル父さんは仕事がかなり忙しいらしい。
「マーリン少し背が曲がってきましたよ」
現在僕は祝福の儀の会場?の神殿もしくは教会*
(ゲオルグ正教とは違うもの。ゲオルグ正教の神は祖ゲオルグであり、祖ゲオルグはヒューマンから神になったとされているらしい。
唯一人種から神になった事がある種であるヒューマン最高だぜ!!!っていうのがゲオルグ正教。
世界には他にもいろんな宗教があり、祝福の儀には宗教は関係ないらしくなんでもいける様だ)
*に既に到着していて、他の人たちが集まるのを礼儀作法の練習をしながら待っているところだ。
服装はリューセンで買った物ではなく、昨日適当に買ったシンプルで清潔感のある服を着ている。
なんでも祝福の儀では成人する子供の服装がほぼ一緒になる様にシンプルな物着るのがこの国の習慣らしい。
ちなみにゲオルグ正教法皇国は逆で身分差を主張する様にバッチバチに決めていくんだとか。
国や宗教によって考え方が少しずつ違うらしい。
そんな事を考えながら僕と同じ様に祝福の儀を受けにきた子達を見ていた僕は、シェーラ母さんに指摘された姿勢をまっすぐに伸ばす。
「こんな感じでいい?」
「もう少し力を抜いて大丈夫ですよ。力を入れすぎると兵士の方みたいになりますからね」
シェーラ母さんは僕の姿勢を注意しながら僕の髪の毛を楽しそうに弄っていた。
さっきからあーでもないこーでもないと色々な髪型を作っては解きまた作っては解きしている。
こんな場所でそんな事をしている家族などいない為、すごく悪目立ちしているんだけどシェーラ母さんは気にしない。僕は気にします。
そんな感じ過ごしていると、すぐに義が始まる予定の時刻になって扉も閉まる。
そして奥の方から司会進行役の聖職者の人も出てきた。
「シェーラ母さんはやく!」
「服装的に今日はこんな形がいいですね。せめてもう少しゆったりとした服なら良かったんですが」
そう言って最終的にゆったりとした三つ編みになった。まぁ妥当なところだと思う。
僕の髪型が決まったと同時くらいに前に立っている聖職者の人の話が始まった。性別は女性、年齢はわからない。化粧とかはそんなにしてないと思うんだけど、僕には全然わからない。
「まずは皆様が無事に祝福の儀を受け、成人となられる事を喜ばしく思います。
今日この日より貴方達は・・・・」
この後数分間に及ぶ有難いお話が続き
「・・・・・・話が長くなってしまいましたが、これより順番に私の前に出ていただき儀を行わせて貰います。
順番はどうぞご自由に、望む人から行います。」
司会進行役兼聖職者の人の話が終わると周りの子達は我先にと席を立ち、聖職者の人の前には物凄い行列ができている。
僕はというと完全に出遅れてしまったので、大人しく席に座り直して天井に描かれている絵画を眺めることにした。あの列に並ぶ気にはならない。
絵画には大きな龍が四頭描かれていて、題材が四龍神である事がわかる。
その横には別に精霊達の絵画がある事からここは教会である事がわかった。
四龍神は破壊の象徴として、精霊達は創生の象徴として同じ場所に描くのは【龍精教】と言うかなり大雑把な括りの宗教の特徴だ。
ただ大まかな神話があるだけで、後は龍神を畏れ、精霊を尊べという考え方が存在するだけの宗教。
「(元日本人からしたらゲオルグ正教よりもこっちの方がしっくりくるね)」
などと考えている内に一人目が終わったらしく、前の方から大きな声が聞こえてきた。
気になって確認してみると、男の子がA4くらいの紙を振り回しながら父親らしき人抱きついている。
子供も父親の方も一緒になって喜んでいる姿は、あの白い空間で《スキル》と《ジョブ》を求めて走り回っていた人達の姿とは違う尊い姿に見えた。
あれは完全に人の欲望そのまのすがただったからね。
あの空間とは違う姿にすごく興味が出てきた。次の子の儀式が始まろうとしていたので今回はちゃんと見る事にする。
最初の子の姿がたまたまなのか普通なのかすごく気になるから。
聖職者の女性の前にいる女の子は、聖職者の人からA4くらいの紙を受け取り、折り畳んだりはせずに両手で持ち片膝をついて頭を下げる。
それを確認してから聖職者の女性は両手を掲げて祝言を唱え始めた。
(祝言とは魔法の詠唱とほぼ同じ。
神様などの信仰相手に願う形で世の理を歪めるやり方で、魔法に似ているがいろいろ理由があり言い方を区別している。
呼び方は様々で、奇跡 御業 祝福などなど。」
すると綺麗な光が現れ、徐々に降下していき女の子を包み込んだ。
その後溶け込む様にして消えていき、完全に消える前に女の子が持っている紙に集まっていき消えた。
聖職者の女性が女の子に声をかけている事から、あれで終わりなんだろう。
意外とあっけない物だったけど、違和感みたいなものは感じなかった。あれくらいがちょうどいいと僕自身思っているのかもしれない。
その後も儀式は順調に進んでいる。
結果を見て喜ぶ人達、残念そうに人もいたけどその人も直ぐに気を取り直していく。親は子供がどんな風に結果を受け止めていたとしても心の底から喜び祝福の言葉を投げかけていた。
「そろそろ順番が来ますよマーリン」
シェーラ母さんのいう通りもう儀式を受けていない子供は少なくなってきている。
行くタイミングだろう。
「僕がどんなにしょぼい《スキル》と《ジョブ》でも喜んでくれる?」
周りの子の親達みたいに喜んでくれるか疑問に思って聞いてみたんだけど、シェーラ母さんは思考が止まってしまったみたいにキョトンとしている。
聞くべきじゃなかっただろうか?と心配になって言葉を取り消そうとした時、シェーラ母さんは優しく声を投げかけてきた。
「確かに私やエルは少なくない期待を貴方にしています。でもその機体は貴方が手にする《ジョブ》や《スキル》にしているのではありません。貴方という一個人にしているのですよマーリン」
シェーラ母さんの言葉を聞き僕は全身から力が抜けるのを感じた。
緊張する必要も過度な期待をする必要もなくなったからだろうか、自然と笑顔になってくる。
「そんなこと言っても知らないよ?本当に僕がヘンテコなやつ貰ってきても知らないからね」
「それはそれでマーリンがどういう風に使いこなすか楽しみですね」
「あははは確かにそういうのもありかもね」
そんな事をシェーラ母さんに言って僕は散歩するみたいに聖職者の女性の前まで歩いていく。
そしてちょうど僕以外の最後の子が終わったみたいだ。
僕は鼻歌を歌い出してしまいそうになるのを堪えながら手順通りに体を動かしていった。
紙を貰い、膝をつきその時を待つ。
「(あの白い空間で《ジョブ》と《スキル》を選んだ時とは比べものにならないくらいワクワクしてるね僕。
他の転生者の人はどうだったのかな?こんなにワクワクしてたのかな?)」
他愛もない事を考えていると、体に何かが入り込んできているのを感じた。
暖かくて温かい、心の底から安心感が溢れ出してしまう様なそんな何か。
昇天しているのかと思うほどの浮遊感に襲われながらも嫌な感じはせずむしろ心地いい。
目を瞑ったままそんな浮遊体験をしていると両足に地面の感触を感じるようになった。体勢もいつの間にか方膝立ちから立っている状態になっている。
不思議に思って恐る恐る閉じていた目を開いていけばそこはさっきまでいた教会ではなかった。
そこは全体的にクラシック調で纏められた統一感のある部屋で、両サイドにはビッシリと並んだ本棚があり隙間なく本が収められている。
目の前にはソファーと小さな机があり、その奥には大きな机がある。ジャヤの大将に教えてもらった呼び方が正しければプレジデントデスクというらしい。今世で初めて知った事だ。
部屋にある品々は細かな調度品や本、ファイルに至るまで部屋主のこだわりが行き届いている。
あの時のまま変わらない部屋だ。
奥のプレジデントデスクの上に書類が積み重ねられている所まで変わってない。
トンっトンっ
僕の肩を誰かが軽く叩いてきた。
正体は一人しかいないけど期待で胸が高鳴る。
直ぐに振り向きたいのを堪えてゆっくりと後ろを振り向いていく。
「久しいの魔理!いやマーリンかの?
わしじゃわし!!お主の世界の神様じゃよ!!」
そこにいたのは幼女様ことよっちゃんだった。
マーリンがもうすぐ儀式を行おうとする姿を見ながらわたしは先ほどの言葉を思い返していた。
「僕がどんなにしょぼい《スキル》と《ジョブ》でも喜んでくれる?」
改めて思い返してみても思わず笑ってしまいそうになってしまう。マーリンは自分が生まれた時の事を知らないので仕方がないのだけれど。
その言葉と不安がどれほど貴方という人間とどれほど縁遠いことか、それを知っているわたしとしては一瞬思考が止まってしまったのも仕方がないと思います。
「(それは嘘をつけない人が、自ら嘘をつけないんですと告白している様な物なんですから。)」
そしてマーリンの祝福の儀はスムーズに進むんで行く。
マーリンは既に膝をついてその時を待ち、アークビショップである彼女は祝言を紡ぎ終えていた。
後は光がマーリンを包んでしまえば完了。
その筈だった。
「(あぁ仕方ありませんねマーリン貴方は…)」
祝福の光はマーリンの頭上に現れた。数え切れないほどの淡い光の結晶と共に。
そしてそれとほぼ同じタイミングでマーリンの体からも淡い光が溢れ出した。
その異常事態を予め予想していたわたしとアークビショップの彼女はすぐさま協会内全ての人間に認識阻害魔術と記憶阻害魔術、睡眠魔術をかけていく。
十秒とかからず教会内にいる人全てにかけ終わり、静まりかえった教会の中、わたしと彼女だけが目の前にある絵画の様な光景を目に映していた。
「シェヘラザード。私は約束を違えるつもりも私の信義を曲げるつもりもありません」
「ありがとうございます師匠」




