僕の髪は僕の物だよね?
リューセンから一週間ちょっとで王都にたどり着いた僕達家族一行。
城塞都市ドルケストから三ヶ月程かけてリューセンに行った僕は何だったのかと考えなくもないけど今は置いておこう。
ちなみにこの一週間ほどはずっとランガル車内での生活であり、王城での立ち振る舞いや言葉遣いをエル父さんとシェーラ母さんに叩き込まれた。
僕ぐらいの子供が作法とかに気をつける機会なんて祝福の儀でのちょっとした手順くらいだと思っていたのになんでこんな事になったんだろう?
まぁ責任者は僕なんだけどさ。
祝福の儀の作法は口頭説明で王都に入る五分前くらいに雑に教えられた。
「(一応成人前最大のイベントのはずなんだけど、こんな感じでいいの?ちょっと雑過ぎない?)」
とかを必死にエル父さんやシェーラ母さんへ心の中で訴えては見たけど、シェーラ母さんに笑ってごまかされ、エル父さんの方はうまく伝わらなかったらしい。
王都に着くと乗ってきたランガルを解約し、エル父さんは僕に宿への地図とその予約証明書を渡して、シェーラ母さんと何処かへ行ってしまった。
どう考えても王城しかないと思うけどね。
置いていかれた形の僕とルーリィだけど、何故かルーリィは嬉しそうだった。
「(ルーリィ、親と離れるのが嬉しくなるのは少し早過ぎじゃないかい?エル父さん悲しむよ)」
とか思わなくもなかったけど置いて行ったのは向こうなので喜ばれていたとしても自業自得ではある。
僕の方も気を取り直してルーリィに話しかけた。
「じゃあ向こうは二人でデートするみたいだから僕達もデートしようか」
「うんっ♪」
冗談っぽい文章にしてみたんだけど想像以上にルーリィのノリがいい。
そんなに嬉しそうにされると僕の行動に対するハードルが無駄に高くなってしまうんだけど。
顔に笑顔を作ったままこれからどうしようかを必死に考えていると、後ろからとても懐かしい声が聞こえてきた。
「久しぶりだねマーリン。ルーリィ。僕の事ちゃんと覚えててくれてるかな?」
「ルート兄さん!」
「…ルート兄さん。。」
後ろを振り向くとそこには成長したルート兄さんの姿があった。
「今日着く予定ってエル父さんの手紙に書いてあったからここで待ってたんだ。
エル父さんとシェーラ母さんは?」
「二人は多分仕事で王城に行ったよ。僕達はこれから王都を見て回ろうかと思ってたところなんだ」
「そうなんだね。良かったら僕もついていっていいかな?」
「勿論一緒に行こうよ。ルーリィもそれでいいよね?」
「…うんっその方がいいと思う」
「じゃあご一緒させてもらうね。それと向こう側にいるマエルもいいかな?ここ広いから二人別れて見てたんだ」
「マエルと会うのも久しぶりだね」
「そ うだね。マーリン兄さん」
ルーリィの声が少しだけ悲しそうな感じになったんだけどなにか悪いことしちゃったかな?
でも初めての都市でルーリィを楽しませる自信は僕にはないから許してもらいたい。
「じゃあ行こっか」
ルート兄さんは僕に手を差し出してそういってくる。
この三年間でルート兄さんは知的な爽やかイケメンへと成長して身長も高い。175くらいあるんじゃないだろうか?将来的には190くらいになりそうだね。
ルーリィも既に145くらいある。
僕は140くらい?前世の日本でなら年齢と身長は合っているんだけどここでは違う。ここでは同年代と比べると凄く小さい。10〜15くらい小さいんだよ。
自然に横三列で並んだら端にルート兄さんとルーリィ、中央に僕はとなった。
「(何故かとても恥ずかしい)」
マエルのところへ着くまで周りの人から凄い見られるし、こそこそ何か言われる。
ルート兄さんはそんな空気にも慣れたもので平気そうにしていて、ルーリィは少しだけ居心地が悪そうにしているものの大丈夫そうだ。
僕もなんだかんだと言いながらもそこまでは気にしていない。たまに
「端っこの姉と真ん中の妹ならどっちが好み?」
とか
「美少女姉妹持ちとか羨ましい」
などが聞こえた時には、両隣からの小さな笑いも相まって表情が歪みそうになる。
マエルとは数分歩くいたくらいで合流することができた。
身長165あるかないかくらいで髪は三年前よりも少しだけ伸びている。
相変わらず冷たい感じのカッコいい系女子だ。
再開した時に僕を見て笑われたけど、それで根は変わっていない事がなんとなくわかった。
その後はルート兄さんとマエルの案内の下王都を観光していく。
二人とも王都をちゃんと歩くのは準備期間の一年間だけで、学園が本格的に始まってからはあまり学園を出ていないらしい。
その為あると思っていた場所にお店がなかったり、道が違ったりと色々なハプニングがあった。
観光の道すがら手紙には書いていなかった様な学園での事を聞いたり、トムとサーレのことを話したり、僕が冬の一人旅で死にそうになったことを話した。
意外だったのが僕が想像していたより学園は平和そうなところだということで、気になってルート兄さん達に聞いてみたら話が一気に学園での良くない思い出になった。
「確かにシェーラさんの様子から私が想像していたよりも殺伐とした雰囲気ではなかったわ。ルートの場合は違うでしょうけど」
「ルート兄さんの方は何かあったの?」
「えっと…うん。あったにはあったけどそこまで大袈裟なことじゃないよ」
そう言ったルート兄さんの顔は明らかに何かを隠している顔だった。
それはルーリィにも分かったのだろう。
「マエルさん、ルート兄さんに何が起こったんですか?」
「ちょっ、本当に何にもないよ」
慌てた様に何かを隠そうとするルート兄さんだけど、マエルはそれを無視して話を進めていく。
「ルートは本格的に学園が始まってから三ヶ月でね、その時前半の三年生グループに目をつけられて無理やり模擬戦を仕掛けられたのよ」
「「ほぉ」」
「マエルそれ秘密」
「そこに至るまでの経緯が色々あってルートの方もそれを受けたの。
結果はルートの勝利で相手側の三年生グループの負け。
その出来事で元々前半一二年で有名人だったのが、学園中の有名人になったってわけよ」
「流石はルート兄さん。王道街道を突っ走るね」
「マーリン兄さん達も昔村で同じ様なことをしたって聞きましたよ?」
「ガキンチョ闘争だね。懐かしいなぁ。そういえばルート兄さんはその後何か異名はついたの?」
「っついてないよ!」
「【学園の王子】ってその頃から呼ばれ出したわよ」
「あははは!やっぱりルート兄さんには王子が似合うよね」
ルート兄さんは顔を赤くしながらマエルに文句を言っている。よほど知られたくなかったんだろうね。
するとルート兄さんは自分一人が揶揄われるのが嫌だったのか、マエルの話をし始めた。
「そう言えばマエルも【青炎の薔薇】って学園内で呼ばれてるね」
「それは言わない約束よルート!」
「先に約束を破ったのはマエルだからね」
何やら次はマエルが慌て出した。きっと面白い話があるんだと思い僕とルーリィはルート兄さんに続きを促す。
「「それで?」」
「マーリンもルーリィも聞こうとしないでっ」
「マエルも入学当初から注目されててね。男子生徒とかから同級生先輩問わず声をかけられてたんだ。
それがあまりにしつこかったからね、マエルは一つの提案をしたんだよ。」
「「なんて?」」
「放課後訓練場で模擬戦を一対一で全員とやります。そこで私に負けた人は諦めてください。
私に勝った人にはデードでもなんで一回付き合いますってさ」
清々しいくらいにわかりやすいけど、普通の女の子はそんなことを言う勇気はないだろうね。
「マエルらしいよ」
「カッコいいですね」
「ああぁ…もう。」
「それでマエルは全員に勝ってね。その時マエルが多用していた青い炎の魔術とかから着想を得て【青炎の薔薇】って呼ばれ出したんだよ。」
青炎の部分はそうだろうけど、肝心の薔薇はきっとマエルの印象なんだろう。
「【孤高の冷血】に【青炎の薔薇】か、マエルはこういう系統が増えていきそうだね」
「【孤高の冷血】ですか?」
「ガキンチョ闘争の時にマエルについた異名だよ」
「マーリン昔の事まで教えないで。それにそう言うマーリンも【女狐・マーリン】なんて呼ばれてたでしょ」
「はははそういえばそうだったねマーリン」
話の流れが悪くなってきた。すぐに話を他にそらそうとしてみたものの、ルーリィの要望により話は完全に僕の黒歴史になってしまっている。
ルート兄さんもマエルも楽しそうに僕のやらかした事とかを話していき、最終的に僕が圧倒的に損をする事になった。
今の雰囲気だけでみたら僕の一人負けである。
そんな事がありながらも観光をしていたら、空は既に暗くなりかけていた。
時間を確認すると既に午後六時ごろであり、ルート兄さんとマエルは学園の寮の関係で戻らないといけないそうだ。
「それじゃあ今日はもう戻るねマーリン、ルーリィ」
「うんっ久しぶりに会えて嬉しかったよルート兄さん。マエル。今度はエル父さんとかシェーラ母さんがいる時に会えるといいね」
「勿論二人にもに会いにいくつもりよ。
まだ四月まで王都にいるって聞いているから近いうちにまた会いましょ」
二人はそう言うと学園に戻っていった。
他にも二人と同じ様な服装の少年少女が二人と同じ方向に向かって走っている。
なんとなく前世での学校を思い出す光景だった。
「それじゃあ行こうかルーリィ。宿までの道が全然わからないけど」
「ここが何処かもわからないね」
そこからはいろんな人に道を聞きながらどうにか目的の宿にたどり着く事ができた僕達でした。
宿にはエル父さんとシェーラ母さんが既に戻ってきていた。
話を聞くと予想通り王城で僕の王様への謁見のことについて仕事をしていたらしい。
夕食を食べながらルート兄さんやマエルと王都を観光した話しなどをし、その後に軽く今後の予定などを話し合った。
予定と言っても明日から祝福の儀まで礼儀作法の練習を数時間したりするだけでそれ以外の時間は割と自由だったりする。
それとこれを機にある一つの悩みの種を解消しようと提案をしてみた。
「王様に謁見するわけだしさ、もう少し僕の髪を短く整えた方がいいんじゃないかな?」
忘れているかもしれないが僕の髪はとても長い。
身長が伸びないのと同じ様に髪もそこまで伸びない僕だけど、もう僕のお尻くらいまで髪が伸びてしまっている。
この八ヶ月間シェーラ母さんとルーリィに約束させられる形で切る事ができなかったんだけどそろそろ切りたい。
「ふむ。そうだな、確かに些か伸びすぎているし整えたほうがいいだろう。」
おおっ!ここでエル父さんからの援護ができたのは大きい。これでシェーラ母さんとルーリィが反対しても髪を切ることは決定した様なものだからね。
「エルがそう言うなら仕方ありませんね。明日私の友人が営んでいる美容室にいきましょう。ルーリィもついてきますか?」
「うんっいきたい」
「では三人でいきましょう。マーリンもそれで構いませんか?」
「髪が切れるならそれでいいよシェーラ母さん」
その夜僕はようやく女の子みたいに伸びた髪とおさらばできると大変喜びながら寝た。
僕らしからぬ注意力不足だったとも思う。
シェーラ母さんの"友達"が営んでいる美容室であり、僕の要望通りに髪を切ってもらえるはずがなかったのだ。
翌日のとある美容室での一幕
「マーリンには今ぐらいが一番似合います」
「似合うに合わない以前にこれは男子の髪型じゃないよ!」
「マーリン兄さんとっても可愛いよ」
「マーリンくんの意見もわかるけど、私から見てもこれくらいが一番似合うと思うよ?」
「そうですよマーリン。プロもこう言っています」
「プロが認める認めない以前に僕は認めてないの!!
髪を切ったはずの僕の方が、まだ髪を切ってないルーリィよりも長いっておかしいよね?完全に女の子のヘアスタイルだよね!?」
今切ってもらった僕の髪の長さは僕のちょうど腰くらいある。前髪はまだマシだけど、後ろ髪はもう少し切ってもらわないと困るんだ。というか殆ど切られていない。
シェーラ母さんとルーリィ、シェーラ母さんの友人のスタイリストを相手に僕は奮戦しどうにか意見を押し通す事ができた。
三人との話し合いで、最終的な妥協案は中性的な髪の長さで落ち着かせる事ができたんだ。
長いけど長すぎず、男にも女にも見えると言う所が互いに譲れる落とし所である。
これ以上はどう頑張っても譲歩してもらえそうになかったから仕方ない。
「最初の方が私としては似合っていたと思うのですが…。」
「シェーラの息子は髪型の弄りがいがあるね」
「マーリン兄さんはある程度の髪型ならなんでも似合いそうですね」
三人は三者三様に僕の今の髪型についていってくるんだけど、僕は鏡の前に座って自分の髪型をずっと見ている。
「ねぇ?話し合って決めた髪型よりも髪が長く残ってない?というか全体寄りに女の子側に傾いている気がしなくもないんだけど?」
その僕の質問には誰も答える事がなく解散となったけど、帰り時に花屋の女性から思いっきり「お嬢さん」と言われた。
それだけでは終わらず帰るまでに後六回女の子に間違われ、男としてみられることは一回もなかった。
最後の砦のエル父さんにこれを訴えてみたら、これくらいなら問題ないと言われた。
「(僕の頑張りはなんだったのかな?)」
そんな疑問だけが頭に残って離れないのであった




